第百五十六話 傲慢
領主「この街の中ならばワシが法律よ。殺すも奪うも思いのまま!」
「どういうことよ、キュー! 私は、私はあなたのことを友だちだと思っていたわ。あんな経験を共にしたんだもの」
「うん、私もヤッピの事は友だちだと思ってるよ」
「じゃあなんで! いや、私は父さんと店を再興しないといけないから一緒には行けないと思うんだけど、それでも」
「いやあ、だって領主とバックレ商会だっけ? あそこは潰すつもりだもの」
「潰すって……バレック商会のバックには領主がついてんのよ? どうやったって庇われるに決まってる! 実際、スターリングさんだって捕まったままだし」
スターリングさんは領主の兵が捕まえて行ったらしい。どうやら領主邸の地下牢にいるみたいだという予測もできた。
「大丈夫。私、助っ人を連れて帰ってきたから」
そして私はヤッピを連れて街の門の前に戻った。リッピさんには娘は預かったから早まるなと言い残しておいた。今日ぐらいは大丈夫だろう。
ミリアムさんの馬車の中に転移する。着地に失敗してガタン、と音が鳴った。
「帰ってきましたか」
ザラさんが馬車のドアを開けて話し掛けて来た。
「そちらの方は?」
「この子はヤッピ。私の友だち」
「ちょっと、キュー、この美人のメイドさん誰よ?」
「どうやら悪い人ではなさそうですね。王女殿下付きのメイド、ザラです」
満更でも無い顔で挨拶をこなす。ザラさんの肩書きにびっくりするヤッピ。
「えっ、王女殿下のメイド!? なんでそんな方がこんな港町に?」
「もちろん、王女殿下のお世話をする為ですわ」
ヤッピは言われたことが分からないような感じで首を傾げていた。そこにミリアムさんがこちらに戻って来た。
「どうでした?」
「それが何を言ってものらりくらりで街の中には入れたくない様子。リッピ商会の方もスターリングさんも紹介出来ないと」
「そうですか。あ、紹介しますね。この子は私の友だちでリッピ紹介の娘のヤッピ」
「あ、ヤッピでございます。その、もしかして王女殿下であらせられますか?」
「ええ。そうよ。天使様のお友だちなら私の事はミリアムでいいわ。ミリーと略してくれても構わないわ」
「勿体ないお言葉! …………おい、天使様ってあんた何やったのよ」
「いや、ちょっとだけミリアムさんの病気を治してあげただけだよ?」
「待って待って? 私が聞いたのはミリアム様を治すのに国内の薬じゃあ治らずに東大陸からポーションを輸入してそれを使うしかないって……はっ、そういえばあなた、東大陸出身だったわね。ポーション持ってるの?」
ポーションはないことはないが、ミリアムさんを治したのは私の治癒と透視なんだよなあ。でもまあヤッピにはちゃんと答えてあげる。
「持ってるよ、ほら」
私はアイテムボックスからいくつかのポーションを取り出した。いや、冒険者ギルドで普通に売ってるやつだよ?
「これがポーション……さすが万能薬に相応しい輝きをしているわね」
違うんや。それは単なる傷治療のポーションで貴重品でもなんでもない。万能薬作ろうと思ったら錬金術とか覚えないといけないんだけど。あー、そういやティアは作れるのか。
それからそのポーションを買うとか買わないとかの話があって、最終的にはいくつかあげることにした。一宿一飯の恩義を返すためだね。
お腹空いたので持ってきたスープを出した。人足の皆さんにもちゃんと行き渡るように配っている。突然この場に現れたヤッピについても歓迎してくれているみたいだ。
「お待たせしました、王女殿下! さあ、まずは姫様たちのみ門内にお入りください」
「他のものは?」
「食料や宿などを調達しております。準備が出来るまでお待ちください」
仕方ないかと了承し、門内に入って大通りをしばらく進むと前を衛兵たちが前を塞いでいる。鎧も着込んであり、完全に第一種戦闘態勢だ。
「あなたたち、道を空けなさい! この馬車は王家の馬車ですよ! ミリアム姫様が乗っておられるのです!」
ザラさんが叫ぶが向こうの衛兵はお構えなしに弓を引いて放ってきた。
「何を……あなたたち、国家反逆罪ですよ!」
「そんなもん、ここなら領主様が揉み消してくれるさ。というか領主様のご命令でね。王女殿下は街中で浮浪者に襲われて死亡、だそうだ」
「どこまでも卑劣な!」
さてとどうするか。ここに居るのは私、ザラさん、ミリアムさん、ヤッピの四人に御者のおっちゃんが一人。あの言い方だと目撃者を残さないために御者ごと始末するつもりだろう。じゃあ先ずは御者さんを迎えに行こう。転移!
「あわわ、命ばかりは……お、おい、嬢ちゃん、どっから出てきた!?」
「はい掴まって。よし、跳ぶよ」
問答無用で御者さんを捕まえて再転移。外の奴らはポカンとしてるのかもしれない。だが直ぐに矢が放たれた。馬車に向かって無数の矢が降り注ぐ。
あー、うん。障壁張ってあるから矢が何本来たところで貫通しないんだけど。あと、こいつらを全滅させる必要も無いし。
「じゃあ転移しますね。目標は……領主の館かな?」
私は馬車ごと転移をする。うん、これくらいの馬車ならいくらでも転移出来るよ。流石に人足全員連れた大人数じゃ無理だけど。
最初の転移で衛兵たちの壁を飛び越えてその遥か前方へ。そこから何度か転移を繰り返し、領主の館へと辿り着いた。思えば最初にここに来たのはマリナーズフォートに着いてすぐだったなあ。
門番が誰何の声をあげる。まあ誰だって言われたら名乗らない訳には……それはもういいって? いや、名乗ってたのティアの方だよね? 私はほとんど名乗ってないと思うんだけど。
門番二人くらいなら私が瞬殺出来る。あ、殺すなって? めんどくさいんだけど。まあいいや。俺でなきゃ見逃しちゃう恐ろしく速い手刀で気絶させた。
門を手動で開ける。これが八洲の金持ちの屋敷だとコンピュータ制御なんだけど、この世界にそんなものないしね。馬車に御者さんを戻して進んでもらう。