愕然(episode155)
割と重要な位置付けのナジュド王国。まあ裕也が友誼を持ってる国だしね。
「四季咲? 四季咲ってあの、八洲の金融コングロマリットと呼ばれる……」
「あら、全部元を正せば四季咲なんだからコングロマリットというのは違うわね。まあ、普通にファミリービジネスというやつかしら」
あ、知ってる。裏切り者はろくな死に方をしないってやつだ。あのカードゲーム面白いよね。えっ、違うの?
「そ、れ、と、ほら、メアリーちゃん、自己紹介してあげて」
「えっ? ああはい!」
メアリー嬢は戸惑いながらも諾子さんに促されてカーテシーを披露する。おおっ、この世界でもカーテシーとかあったんだ! 私も礼法できっちり仕込まれたから出来るよ!
「パラソルグループが一子、メアリー・パラソルと申します」
「パラソルグループ!? 米連邦の……い、いや、八洲じゃあ米連邦の組織でもそこまで影響力は」
「この度は鷹月歌の裕也さんとの婚約の為に八洲へ参りました」
「鷹月歌、裕也、鷹月歌の神童……次期総帥に最も近い男……その婚約者?」
「ちょっと待ってくれ諾子さん! 獅子王はそんなの関与してねえぞ!?」
スマホの向こう側からも悲鳴のような声が聞こえる。
「まだあるわよ。ラティーファさん?」
「私もですか? はい、ナジュド王国王太子妃のラティーファと申します。八洲へはお忍びで観光に来ております」
「ナジュド? 聞いたこともない小国だな」
「バカ! ナジュドっつったら産油国連合の理事国じゃねえか! 下手打ったら八洲に石油が入ってこなくなるぞ! 妖世川まで敵に回っちまう……」
あ、ナジュドってそんな国なんだ。ラティーファさん、私妻候補だったのにそんな事も知らなかったよ。というかあれは全面的に裕也さんか悪い。そういうことにしておこう。
「凱ちゃん? 今回の件、獅子王組としては関与しない。関西帝国愚連連合なんて知らない。そういうことでいいのかしら?」
「! もちろんだ! ありがてぇ。さすが諾子さんだ。話が分かる。あのジジイだと人の話も聞かずに預金封鎖とか平気でしやがるからな」
「そのセリフは聞かなかったことにしてあげるわね。まあお父さんもそんなに軽はずみなことはしないはずだし」
「いや、諾子さんが関わってたら割と直ぐにプッツンいくぞ?」
それに関しては私も同意だ。諾子さんとタケルの為なら八洲全体を敵に回してでもなんて事も平気でしそうだ。
「白駒の。テメェは破門だ。今度見かけたら獅子王の全勢力を以て狩る。覚えとけ。……こ、これでいいですかね?」
「ありがと。凱ちゃん、ちゃんと好き嫌いしないで食べなさいね。タバコも控えるのよ」
「……前向きに善処します」
そう言って電話が切れた。白駒の人は呆然としている。周りにいるボディガードたちもまともな人は抵抗しない素振りを見せている。
「さて、それじゃあゆっくりお話ししましょうか?」
諾子さんの笑顔がとてつもなく怖いものに見えた。
その後、白駒一家はお爺さんの借金の件について支払いを免除してくれた。まあ元々は連帯保証人とかいうやつでお爺さんが借りたものではなかったみたいなんだけど。お爺さんは借りた人の事を友人だと言っており、借りたもんは返すと言って聞かなかったんだけど、諾子さんが「じゃあ四季咲に返して」って言って落着した。なお、「有る時払いの催促なし」という借りてんのかあげてんのか分からない条件らしい。
白駒一家の人には借金をした本人への催促を行わないという条件もつけさせた。それを破った場合、回収した借金の倍額を四季咲が返済してもらうらしい。穏やかじゃないよね。ギルティ!
這う這うの体で白駒一家も警官たちも逃げ出して行った。警官たちのボスの清秋谷? ああ、彼なら薔薇連隊に連れて行かれてその行方は杳として知れない。
それからみんなでお爺さんの不動産屋さんの修繕をした。箒で掃いたり、窓を拭いたりしたくらいだけど。お腹がすいたので何か食べようということで魔法の出番だ。呪文はピポパ。出前で来るのがお蕎麦屋さんに限らないというのは時代なんだらうね。何が来たかって? もちろんピザだよピザ。ピッツァとは違うのだよ。生地はもちろん厚めだよ!
なお、お爺さんはピザは好きじゃなかったみたいなので宅配寿司を別で頼みました。まあそれはそれでいいんだけど丼物じゃなくてお寿司なのね。丼物は胃が受け付けない? 歳とると大変だね。何とかしてあげたいものだ。錬金術で何とかならないかな?
まあ三日後にならないと法国の方はいらっしゃらないのでそれまでは解散なんだけど。三日後は私たちだけで……あ、みんな来るの? 大所帯だなあ。ええと、空港に迎えに行く必要がある? そっちはお爺さんと私、あとメアリー嬢が行く。ジョキャニーヤさんも行くって言ってたんだけど私が居るならって事で遠慮してもらった。さすがに空港でジョキャニーヤさんが暴れたりすると強制送還されるかもだし。
二日程はほぼやることも無く進んだ。せっかくだからとパチンコ屋に復帰しようと思ったが、源三パパに止められた。もう卒業って言われたんだ。いいじゃんね、働いても。
なんか法人の設立登記とかの手続きがいるとかで未涼さんは忙しそうに飛び回っていた。すごく生き生きしている。保乃さんは……特に何もしてない。やることないもん。そして私もやることないからぼーっとしてる。あ、アンネマリーさんに会ったよ。法国の人が訪ねてくるって言ったらびっくりしてた。なんなら通訳もしてくれるって言ってたんだけど、私もメアリー嬢もお爺さんも法国語を喋れるんだよね。私のはズルだけど。
そんなこんなで当日。空港にお爺さんの運転で迎えに行く。年寄りだからプリウスかなと思ったら普通の車だった。車種とかは分からないけど丈夫そうだというのはわかる。
空港の駐車場に車を停めて出口ゲートの辺りで待つ。お爺さんは見りゃあわかるだろとか言ってたけど、本当だろうか。お爺さんも会ったこと無いんだよね?
出口ゲートの方でわっと騒ぎのようなものが起こってるみたいだ。人集りがすごい。芸能人でもいるのだろうか?