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第百五十話 印籠

開放と解放、ややこしいよね!

 とりあえずこいつには奴隷になった皆さんを解放してもらわないといけないので、アーナさんの蜘蛛糸でぐるぐるに縛ってもらった。ちなみに本当の蜘蛛の糸では無いらしい。どうでもいいか。


「あんたたち! 貴族の夫人たるこの私にこんな事してタダで済むと思ってんの? 今解放すれば許してあげるから解放しなさいっ!」


 奴隷解放宣言エイブラハム・リンカーンしてもらわないといけないので口を塞げないのが残念だ。いくらでも喚いてくる。


「奴隷を解放しなさい」

「奴隷を揃えるのにいくらかかったと思ってるのよ!」

「通常の犯罪奴隷よりは安かったんでしょう?」

「当たり前じゃない! 犯罪奴隷は人手不足で天井知らずだからね! こき使って死んじまったら割に合わないじゃないの!」


 まあ犯罪奴隷と言っても、奴隷落ちするほどの犯罪者って余りいないんだよね。それにそもそも人口がそこまで多くないみたいだし? 人海戦術に頼ってたらまあ社会が維持出来ないよね。


「だから他国のものをさらったと?」

「この国の成人男性はもう戸籍だとかの身分制度がどうこうとかで攫うとまずい事になるからね。それなら外国から輸入するしかないじゃないのよ」


 その身分制度とやらを成立させたのが今の国王陛下らしい。それまでは誰が居なくなっても気にもされてなかったんだと。戸籍って大事なんだなあって思ったよ。


「あなたがやってるのは誘拐なんですのよ?」


 ミリアムさんが憤る様に咎める。


「はっ、どこのお嬢様か知らないけど、この国の戸籍を持ってもいないのに誘拐になんかなるものか! まあ海を越えて取り戻しに来るってんなら返してやらんこともないけどさあ!」


 おっ、言質いただきました。


「そうですか。じゃあ返してくださいね」

「えっ?」


 そう言って私が宣言するとケロッズ夫人は目を丸く見開く。


「東大陸から参りました、キューと申します。国からの依頼を受けてうちの国の民を返還していただきたく。あ、ちなみにうちの国の国法に照らしても誘拐にはなりますので連れて帰ればあなたを裁くことも出来ますね」


 私の言葉にケロッズ夫人はあからさまにまずいという顔をして青ざめさせた。


「わ、私はこの国の貴族よ! 他国の貴族に裁かれる謂れはないわ! 裁くのならこの国の法で裁きなさい! まあ、もっとも私を裁けるならば、だけど?」


 強がりなのかダラダラと冷や汗のようなものを流しながらも必死で抗弁するケロッズ夫人。ミリアムさんがため息を吐いた。


「では、ケロッズ夫人。あなたを国家反逆罪で裁くとしましょう」


 その言葉に一瞬ポカンとしたが直ぐに憤り始めた。


「はぁ? 小娘がっ! 言うに事欠いて国家反逆罪だって? まさか東大陸と国交でも結んだのかい? 結んでないわよね? その辺は調べがついてるのよ! それに国家反逆罪なんて大それた事はした覚えがないわよ!」


 そう言って鼻息荒く騒いだ。自分が優勢だと思ったのか散々に早く解けとかここから出たらお前ら全員縛り首だ! とか女は全部娼館に送ってやるとかそんなことをのたまっていた。


「先程仰ってたではありませんか。 愚かな民衆を重用する王家ごときにバレたところで何ができるというのか、とね?」


 呆れながらミリアムさんは指摘する。だが、それも効果がなかったようだ。


「あんたら庶民と青い血の私の言葉、どちらが信用されるかは瞭然だわ!」

「誰が私が庶民だと言いました?」


 ミリアムさんがにっこりと笑って告げる。ケロッズ夫人はきょとんとした表情を浮かべた。


「だから、貴族の奥方ならばもっと社交に顔を出した方がいい、と言ったんですよ。まさか私の顔を知らないとは思いませんでしたよ」

「はあ? 小娘が何大物感出してんだい? どこかの伯爵家のお嬢様だとでも?」

「もっと上です」

「なんだって? じゃ、じゃあ侯爵マーキス様?」

「もっと上です」

「な、なんだって? じゃあ公爵デューク令嬢……」

「もっと上です」


 そこまで言ってからかわれてると思ったのかケロッズ夫人はあからさまに憤慨した。


「巫山戯るんじゃないよ! その上だなんてもう王室しかないじゃないのよ! 身分を詐称したら罪になるんだよ、分かってんのかい!」


 ミリアムさんは何も言わずに懐からペンダントを出した。そこに刻まれているのはこの国の紋章らしく、王族以外の者は所持が禁じられているらしい。


 ケロッズ夫人はまじまじとそのペンダントを訝しげに見ていたが、やがて、「ひっ!?」と短く悲鳴をあげて尻もちを着いた。


「申し遅れました。この国の第五王女、ミリアムと申します。お会い出来て光栄ですわ、ケロッズ子爵夫人」

「わ、私の事もご存知で!?」

「当然ながら貴族派の人物は粗方頭に入っています。さて、先ずはきゅーさん、例のものを」


 そう言われたので私は奴隷を解放しろという命令書を突きつける。


「勅命により、東大陸よりの奴隷の解放を命じる。また、責任者は申し開きをする為に王都に出向いて来るが良い、だそうですよ」


 ケロッズ夫人に突きつけるとガタガタと震え出した。ようやく事の重大さが見えてきたのだろう。


 よりによって第五王女の目の前で王室を侮辱し、しかも王女様に危害を加えて更には娼館送りにしようとしたのだ。極刑は免れまい。それでも国家の重鎮たる公爵デューク侯爵マーキスならば罪一等を減じられたかもしれないが子爵程度ではそれものぞめない。


「さて、それでは牢の開放を。あ、そうそう、東大陸の方がどの牢屋に囚われているか分からないので全ての牢を開けてください」

「そ、そんな、ちゃんと大陸別に牢屋を分けて……」

「漏れや手違いがないと言いきれますか? これは国同士の信義に関わる問題です。さあ、解放しますよ!」


 ミリアムさんの号令が飛んで、ケロッズ夫人に従ってたはずの兵士が慌てて動き出した。どうやらこいつらは国に反旗を翻すまでは言われてないらしい。続々と牢屋が開放され、人々が解放されていく。

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