不動(episode149)
不動産会社ってこういう奴多いよねえ(偏見)
不動産会社に私一人で入る。みんなも入ると言ってたんだが、私の住処なんだから私が決める。みんなは適当にブラブラしてて! って言ったらみんなでハンバーガー食べるんだって。私的にはモス>バーキン>マクド>テリアって感じなんだけど。
「いらっしゃいませ」
私に声が掛けられるがなんか形式的なものだと思う。とりあえず入ったらそういう声掛けとけみたいな。最早条件反射だね。
私は迷いながらも目の前のカウンターへ座る。まあ見た目だけなら悪くないでしょ。金髪巨乳の美少女だぞ!
「本日はどのようなご用件で?」
目の前に座ったのはなんとなく笑顔を浮かべている女性。まあおっぱいは大きくなさそうだから私の胸に突き刺さるような視線もやむを得ない範囲なのだろう。
「あ、はい、住む所を」
「はぁ? あなた、在留証明書でも持ってるの?」
在留証明書? そんなのは聞いたことがない。もしかしてそういうのが必要なのかな?
「いえ、そういうのは所持してませんけど」
「はあ、そうですか。うちも商売ですから在留証明書のない方に貸すのはなるべく避けたいんですよね。わかります?」
うーん、正直、前のところを借りるのにそういうのは一切なかったような。あ、もしかして源三パパがその辺はバックアップしてくれてたのか。正直、住む場所とか場所決めてお金払って鍵もらって終わりだと思ってたよ。
「で? 一応聞いときましょうか。物件の条件は?」
「あ、ええと、とりあえず住めればいいかな。出来れば広さはそこそこ欲しいです」
前の部屋は一応八畳はあったらしいのでそれ以上ないと色々不便だろうから。だから広さの方も伝える。
「はあ、あなた何贅沢言ってんですか? この辺りで八畳以上の広さとかなかなかないですよ。それこそワンルームでその広さはないんですから」
いや、別にワンルームじゃなくても。なんならアパートじゃなくてもいいんですけど。
「それで、予算は?」
「予算?」
「家賃ですよ。いくらぐらいがご希望で?」
「ええと三から五くらいがいいんですけど」
「はあ、まあそこそこの狭さなら三とか五とかありますけどね。広くなると九とか十は覚悟してもらわないと」
そうなのか。私としては家の値段とか三千万くらいが妥当だと思ってたんだけど、一応高いので五千万とか思ってたのがあてが外れたなあ。
「分かりました。すいません。もう少し考えてみます」
「全く。在留証明書も無いなら橋の下にでも住めばいいのに。ダンボールハウスとかお似合いよ」
野宿! いやまあ私も冒険者志望だったから野宿するのに抵抗はないけど、出来れば雨露はしのぎたいよね。
仕方ないので出入口に向かって歩いていたらドアが開いて諾子さんが入ってきた。
「あら、ティアちゃん、どうしたの? 浮かない顔して」
「あ、諾子さん。その、実は在留証明書がないから部屋を借りられないと」
「まあ、そうだったのね。大丈夫。私に任せて!」
そう言うと諾子さんは私が座っていた席に座った。
「こんにちは。この子に言ったことをもう一度私に説明してもらえるかしら?」
「はあ? だからガイジンは証明書がないと部屋借りられないって話しただけよ。あんたはなんなの?」
「私はこの子の保護者です」
「どう見ても血は繋がってないみたいだけど。ああ、拾ったの? お優しいことで」
ちなみに拾われたのは間違いない。まあ拾ってくれたのは源三パパだけど。
「よく分かりました。支店長を呼んでくださる?」
「はあ? 支店長にクレームでも入れるつもり?」
「いいから呼びなさい。じゃないと潰すわよ?」
諾子さんの周りの空気が一段と温度が下がった気がした。
「……少々お待ちくださーい」
そう言って女は引っ込む。諾子さんは悠々と待っている。それから二時間ほど待たされた。いや、これ本当に呼んだの? 実際私の周りにどんどんとバーガー屋から帰ってきたみんなが集まってきた。諾子さんはずっと待っている。
「全く。せっかく飯を食っとったのになんで呼び出すかね? そんなに大変なクレーマーなのか?」
「そうなんですう。脅されて怖かったんですよお」
「全く。ワシがガツンと言ってやらなきゃな。おい、お前!」
支店長は頭が禿げ上がった中年男性だった。偉そうな顔はしている。まあこの会社では偉いのだろう。
「おや、随分とゆっくりなご登場ですね?」
「あぁん? なんだ、単なる主婦じゃないか。主婦ごときがワシの貴重な時間を浪費させようというのか?」
「あら、随分と偉くなったのねえ、近藤さん?」
「はぁ? なんでワシの名前を知っておるのだ?」
「忘れられるなんて悲しいわ。これでも若さは保つように磨きをかけてたつもりなんですけど」
「何をごちゃごちゃ……んん? そういえばどこかで見たような覚えが」
「四季咲の諾子です。まあ今では古森沢ですけどね」
諾子さんが名前を告げた瞬間、男が、近藤が凍りついた。
「四季咲のお姫様……」
「あら、その呼び名で呼んでくれるのね。まあ私は今はしがない主婦よ」
近藤はバンとカウンターから飛び出して諾子さんの傍に行き、土下座を始めた。
「き、気付かず、大変申し訳ありませんでした! な、何卒、御大には、御大にはぁ!」
「あら、用があるのはこの子だから……あらみんなも来てたのね」
諾子さんのその声に顔を上げた近藤はひっと軽く息を飲む。
笑っている胡蝶さん、無言で待ってる友子さん、おっぱいの大きい凪沙、あっ、凪沙はいいか。どう見ても気品溢れるラティーファさんに、身なりが良すぎるメアリー嬢。そしてその他ボディガード。まあ只者とは思われないよね。普通なのは保乃さんと未涼さんかな。
「さて、帰りましょうか。ティアちゃんにはもっと別のお店でお家を見繕ってあげるわね」
なんか八百屋に野菜でも買いに来たような気軽さだ。まあ私としてもこの店で私の家を借りようとは思わない。縋り付く元気もなくした近藤はそのまま膝をガックリと着いて呆然と真っ白になっていた。