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第百四十七話 城外

微熱な気分はあなたのせいかもSOS

 しばらくしてお姉さんが再び顔を出してきて、「こちらへ」と私たちを中に入れてくれた。バックヤードと表の受付は視線が通らないようになっていて、私たちが裏口から入っても誰も何も言わない。


 こっそり二階、三階と上がって分厚いドアの前に着いた。プレートには仮眠室と書かれている。あの、寝てるのでは?


「いいんです。こんなことしょっちゅうなんですから。ギルマス、起きてください!」

「ううー、なんだよ、うるせえな。スタンピードでも起こったんかよ?」


 スタンピード。確か前の世界のアニメで見た話では森林暴走オーバーランの事をスタンピードと呼んでいたな。もしかしてこっちの大陸ではその呼び名が正しいのか?


 ちなみにこの国では山や海からもそういうスタンピードが起こるらしく、私らのところでは森からしか起こらないから呼び方が違うんじゃないかって言われた。なるほど。


「ギルマス、おはようございます。起きて仕事してください」

「はぁ? 知らねえよ。そんな急ぐ仕事でもあんのか? またラムザ様辺りから無理難題……を……」

「ギャリッカさん、お久しぶりです」

「えっ、あっ、なんで!? ミ、ミ、ミ、ミリアム様!? あの、あの、お身体は、お身体は大丈夫なのですか!?」


 眠そうな目をしていたギャリッカさんがミリアムさんが声を掛けたら瞬時に再起動したみたいである。というかバグってない? スリー、トゥー、ワン、ゼロ、スリー、トゥー、ワン、ゼロ、バグってはにぃいんざすかい?


「ギャリッカさんのご尽力で、こちらの天使キュー様に助けていただきました。ありがとうございました」

「キュー……あっ、ポーション持ってなかった東大陸の」

「ポーションは持ってなかったけど、治せないとは言ってないんだよね。それにあれはポーション使ったら逆効果だったし。それよりもペペルさんが居た時と喋り方が違うんですけど?」


 そこに至ってギャリッカさんはあっと思わず声を出した。日頃は丁寧語なんだけど、起き抜けだから地が出たかな。それでも私や受付のお姉さん相手なら問題なかったで済むんだろうけど、ミリアムさんの前だからマズいと思ったんだろうね。


「ミリアム様の御前でこのような……大変申し訳ありませんでした!」

「まあギャリッカさん、顔をあげてください。あなたが繋いでくれた絆で私は助かったんですから」

「キューさんでしたな。本当にありがとう。依頼、という形ではなかったので報酬は私の懐から出させていただきたいのですが」


 あ、丁寧語に戻った。いやまあ、私も興味本位で王宮まで行ったんだし。というかこっちの都合というやつだね。


「あ、大丈夫です。欲しいものは国王陛下からいただきましたから」

「ま、まさか、ミリアム様を下賜なされたのか? ミリアム様がこの者の奥方に?」

「あのさ、私、女なんだけど」

「私は天使様が伴侶でも構いませんわ! 天使様は男も女もないと聞きますし」

「いや、だから、私は、女、なんだってば!!」


 ミリアムさんがモジモジしながら爆弾ぶっ込んでくる。いや、ザラさん? 殺気をこっちにぶつけてくるのはやめてくれません? 怖いんですって!


 とりあえずギャリッカさんには国王陛下から貰ったもの、違法奴隷奪還の許可を貰ったことを告げた。ギャリッカさんはびっくりしてたよ。


「それは早くペペル殿に報せてやらないといけませんなあ。彼は色んな伝手を辿って国王陛下との謁見を取り付けておるところですからな」


 あー、そうか。ペペルさんは正攻法で謁見申し出てるのか。いや、確かに一般庶民である私たちが国王陛下に面会しようと思ったら数々の取り調べと手順を踏まないとダメだよね。


「じゃあ私たちは宿屋に行ってみます。ありがとうございました」

「おう、こっちこそありがとうな。ミリアム様を幸せにしてくれ!」

「ありがとう、私、幸せになりますわ」


 いやだから嫁に貰う訳ではないんだってーの。冒険者ギルドを裏口から出る。マントを貸してもらったのでミリアムさんとザラさんの姿は単なる黒ずくめだ。怪しいかな? 怪しいよな。


 とりあえず転移テレポートで部屋の中に入っても良かったんだけど、万一部屋が変わってたら大事になるからね。歩いて宿屋に向かう。


 宿屋でペペルさんの名前を出すと「さあ、知らないね」ってとぼけられた。これはセキュリティがしっかりしてると褒められるべきなのか。


「あの、泊まってるかどうかは分かりませんが、ペペルさんに私が、キューが帰ってきたと伝えていただけませんか?」

「もしおりましたら伝えておきます。では、お帰りはあちらです」


 まあ私は冒険者だし、お供の二人も怪しい黒ずくめですもんね。豪商に数えられるペペルさんに紹介して欲しくて押しかけた冒険者とでも思われてるんだろう。


 私たちが宿から出てどこかでご飯でも食べようかと話していたら宿の中から慌てて人が飛び出してきた。エンカウンター。


「お、お待ちください! ペペル様より丁重に皆様を通す様にと申しつかりました。どうぞ、お部屋にご案内いたします!」


 深々と頭を下げながらそんな事を言われたので素直に案内してもらう事にした。案内されたのは宿屋の三階。VIPルームと言われる感じの部屋だ。この階にはここともう一部屋の二部屋しかない。


「ペペル様、キュー様をお連れしました」

「ありがとう、入ってもらってください」


 返事があったのでついてきた人が鍵を開けて私たちを扉の中へと案内してくれた。ペペルさんは特に変わりなく、なんか机に向かって書き物をしていた。それが一段落ついたのか、私の方を向いて、笑ってくれた。


「キューさん! 姿が見えなかったから心配しましたよ。すいません、貴族の方に繋いでもらおうと思ったんですが、なかなか……ところで後ろの方々は?」


 ペペルさんの誰何の声にミリアムさんがフードを取った。その顔を見てペペルさんが引き攣る。あ、やっぱり知ってたんだね。


「せ、せ、聖母、ミリアム王女殿下!?

 」

「はい、そうです」


 ペペルさんは泡を吹いて倒れてしまった。しまった、微熱出てる。よっぽどショックだったみたい。

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