突撃(episode147)
保乃さんも未涼さんもお久しぶり!
みんながダイエット薬に飛びついた。毛生え薬の時は「あー、はいはい。そういう効能もあるんだねー」ぐらいの雰囲気だったのに、ダイエット薬の時は「実はダイエッ」まで言ったら血相を変えて問い詰められた。あの、本当に、目が怖いので少し離れて頂けますと幸せます。
「そもそもメアリー嬢にはダイエットとか必要ないでしょう?」
「そ、そんなことはありません! 米連邦での食事はカロリー高めなのが多くて……ピザとハンバーガーとステーキが基本なんですよ?」
マジかよ。それは太りそうだね。というかそんな食文化なのにスマートな体型を維持しているメアリー嬢が凄いと思うの。朝ごはんはシリアルなの? 下手すると三食シリアル? それは今すぐやめた方がいいと思うよ。
ジョキャニーヤさんはダイエット自体には興味無いみたいだけど、食の効能で肉体改造出来るみたいな話の方が気になったみたい。いや、そんなこと言われても私にはドーピングコンソメスープとか作れないよ?
友子さん、胡蝶さん、美鶴さん、紗霧さんはやはり妙齢の女性らしく、ダイエットには日々苦労しているとの事。友子さんと胡蝶さんは仕事柄会食をすることが多く、その度に男性と同じ量の食事を出されたりするらしい。特に旧中華の人民から歓待を受ける時は食べきれないほどの食事を出されて辟易してるのだとか。
美鶴さんは……お酒が美味しく飲めるならダイエットも悪くないとか言ってた。いや多分あなたはダイエットしても変わらんと思う。
紗霧さんは食事制限とかしてるらしい。あまり肉とかつけると思ったような動きが出来なくなるからとか。でも、成長の為には食べないといけなくてなかなか二律背反が上手くいかないみたい。
ラティーファさんは「そんなことが出来るのね!」みたいな話。頭髪に関してはナジュドではそこまででは無いが、太っているのはNGな傾向にあるらしい。何故かって? いざという時に女たちを守れないからだって。言われてみれば王子たちも割とスマートだったな。
「あー、でもダイエット薬は体内に作用するものだから厳密な実験をやらないと」
「そういうのは右記島にお任せを。直ぐに研究チームを手配します!」
「治験やモニター集めなら十条寺のネットワークでいくらでも。いかがでしょうか?」
すぐさま反応する二人。これはもう止められないかもしれない。いや、私もパチンコ屋の仕事がね?
「直談判しましょう」
そう言って私たちは何故かパチンコ屋に来ています。途中で凪沙にも会えたので一緒です。表から入ると色々ややこしい事になりそうだし、騒ぎが起こるかもなので、私と凪沙がまず裏から入ります。
「あっ、ティアお姉様、凪沙お姉様! 今日はお休みでは?!」
扉を開けたら休憩スペースでぐでぇとしていた保乃ちゃんが居た。
「保乃は何やってるの? 休憩時間はまだじゃないの?」
「お姉様達がいなかったからやる気出なくってぇ。でもお姉様たちが来てくださったのでやる気満々、勇気凛々です」
「こら、保乃。またサボって……あら、ティアに凪沙? 何か忘れ物?」
どうやらバックヤードでサボっていた保乃さんを連れ戻しに来たらしい未涼が顔を出した。
「あー、うん。ちょっとね。オーナーは?」
「オーナー? 多分牛丼屋じゃないかしら? お腹空いたってさっき来た時言ってたから」
オーナー、お金持ちなのに食べるのが牛丼屋でいいのだろうか? というかそういう食生活してたからハゲたのでは? いやまあ今は髪が戻ったからいいんだけど。
「なんだね、君たちは? あっ、義姉さん」
「あら源三ちゃん。牛丼屋?」
どうやら外で遭遇したようだ。オーナーはそのままみんなを連れて入って来た。そしてそのまま二階の会議室へ案内された。
二階の会議室と言えば聞こえはいいが実はほとんど使ってない部屋だ。椅子と机があるからたまに会議をしたりするが、だいたいはご飯を食べるための場所になってるし、ご飯持参してない人はそもそもここに来ない。
「それでわざわざ義姉さんが出向くくらいだ。何かあったのかい?」
「ここからは私が」
「君は?」
「右記島胡蝶と申します」
「ほほう、黒曜姫でしたか。私は古森沢の末席におります源三と申します」
オーナーが深々と頭を下げる。若干演技っぽい。まあオーナーはあまり八家の争いというか関係に関与してないからね。
「単刀直入に。ティアさんを私にください」
ちょっと胡蝶さん!? それだと私がプロポーズされたみたいになってるんですけど。
「なんですってぇ!?」
バンっとドアが開いてそこから保乃さんが顔を出した。そして隣には頭を抱えている未涼さん。いや、覗いていたのか盗み聞きしてたのかは分からないけどその時点でアウトだからね?
「お姉様は渡しません!」
「渡しませんってなんなんですか、あなたは?」
「私は、私は、そう! お姉様の聖水を飲ませてもらった女です!」
「せ、聖水、ですって!?」
いや、間違ってない。間違ってないよ? 確かに保乃さんは私が〈聖水〉の魔法で出した水を飲んだよ? でも、多分そういう事じゃない気がする。
ほら、案の定胡蝶さんがこっちに向いてきた。友子さんもふんすふんすと鼻息が荒い。まず口火を切ったのは友子さんだ。
「随分と特殊なプレイをしてるんですね! もしかしてティアさんは同性愛もイける口ですか?」
そっちがどっちなのかは分からないけど分かったら多分ダメだと思う。そして胡蝶さんだ。
「聖水、とはなんですか? 普通の水とは違うものですか? 何か特別な効能があるんですか? 魔力の籠った水とはどう違うのですか?」
あっ、こっちは誤解なく伝わってるみたい。でもそんなに矢継ぎ早に質問されても怖いだけで答えようがないんだけど?
「お姉様、お姉様、私を、私を捨てるんですか? あんなに恥ずかしいところまで見せたのに!」
保乃さんの恥ずかしいところはみんな見てたと思うんだよなあ。