第百四十六話 放逐
追放もののスタート? 愛され末娘の追放スローライフとか始まったりする?(始まりません)
ミリアムさんが頭を下げてきた。これはお詫びなのかお礼なのか。
「兄が申し訳ありません。悪い人では無いのです。民衆にも優しいいい兄なので」
どうやらラムザの野郎のことみたいだ。まあここで話すと色々障りがありそうだから部屋に帰ってからにしましょう。
あ、ミリアムさんの静養に関してはマリナーズフォートが選ばれました。あの辺に王家の別荘があるのだとか。本来なら暑い夏の避暑のためのところらしいのだけど、他にも避暑地はあるので構わないんだと。というか側室さんが海の臭いが嫌いだから行ってないんだって。勿体ない。
「天使様、私は王宮を離れなければならないのでしょうか?」
ミリアムさんが心配そうに聞いてくる。なんか私の名前を呼んでくれるようになったものの、そこには他意が含まれてそう。気にしない方がいいかな?
「ええ、このまま王宮に居たら間違いなく命を落とします」
「そんな、いくらエルリック兄様でもそこまでは」
「いいえ、あの第二王子ならやりかねません!」
ザラさん? ザラさんの意見は聞いてないのよ。まあエルリックならやるんじゃないかとは思うけど、それはミリアムさん一人がターゲットってよりはいわゆるクーデターの場合だろう。勇者も戦士もミリアムさんの中にはいなさそうだもんなあ。
「いえ、この場合危ないのはラムザ夫妻です」
「えっ!?」
二人が声を揃えて驚いていた。まあそうだよね。あの夫妻は王党派だもんね。
「ど、どうしてラムザ兄様が私を?」
「そうですよ、理由がないじゃありませんか!」
「ええと、理由の一つ目はミリアムさんの名声が高すぎる事です」
仕方ないから教えてあげる。ミリアムさんは高名になり過ぎたんだ。本人としてはスラムの人たちを救いたい一心だったんだろうけど、そんな心掛けは民衆にも分かる。聖母と呼ばれたのがその証明だ。
「今はラムザの奥さんであるアルマが代わりに行ってるという事ですが、アルマは聖母とか聖女とか呼ばれてますか?」
そう。アルマが来ても炊き出しと分かってもらえる止まりでミリアムさんほどの効果は無い。いや、効果とかそういうためにやってるんじゃないってのは分かるんだけど。
「それは……一朝一夕には」
「そうですね。このままミリアムさんが死んでしまえばアルマが「ミリアムの遺志を継ぐ!」みたいに振る舞うことも出来たでしょう。ですが、ミリアムさんは治ってしまった」
この場合、アルマが何を考えていたのかとかは特に関係ない。嫌々ながら炊き出しやってたみたいなのを聞かせなくてもいいのだ。
「もし、ミリアムさんの回復を民衆が聞けば、民衆たちの支持はミリアムさんに集まるでしょう。これではラムザは立つ瀬がありません」
「つまり、ラムザ兄様の邪魔になるから殺す、と?」
「そうです。ラムザという男は本当は民衆などどうでもいいのです。自分が王位に着く為には父である国王陛下と同じ意見の方が都合がいいというだけなのです」
これに関しては確信してる訳では無いが、さっきの私に対して奴隷落ちさせようとした言動からの推測だ。推測なんだけど、言い切ってしまえばこちらの意見は通るだろう。
「もちろん、第二王子以下の貴族派の面々にしても民衆の支持を得ているミリアムさんは邪魔者以外の何者でもありません」
「そんな、エルリック兄様だけでなく、ジュラル兄様やグレイ兄様まで……」
あー、ジュラルは何も考えてない脳筋だし、グレイは母親である側室に逆らえないみたいなところがあるから二人ともミリアムさんのことは邪魔とか思ってないんだろつけどね。
「そして厄介なのは側室の人。名前は知らないけど」
「リヴィエラ様が!?」
そうかそんな名前なのか。まあ覚える価値もないんだけど。
「ミリアムさんを呪っていたのはこのリヴィエラとかいう側室。動機はまあ自分の子供を国王にしたいとかでしょう」
グレイ君の出生の秘密はミリアムさんには関係ないからね。あ、いや、ミリアムさんがグレイ君を好きなら結婚とかは出来るんじゃないかな? しないだろうけど。
「だからミリアムさんが次期国王になりたいというならともかく、そうでないならさっさとここから脱出した方ないいと思う」
「そう、ですか……」
ミリアムさんが寂しそうに呟く。まあこちらの都合もあるんだけど、とりあえずミリアムさんには鉱山についてきて欲しい。その前に冒険者ギルドかな。まあミリアムさんとしては炊き出し出来ないのは心残りみたいだけど、そっちは放っておけばアルマさんが点数稼ぎでやってくれると思うよ。
その日はミリアムさんの部屋で寝た。パジャマパーティーとかじゃなくて純粋に護衛の為だ。明日になればこの城を出るんだからその前に殺すなら今夜しかない。そう思って不寝番をしていたんだけど誰も来なかった。私のカンも宛にならないね。
翌日、朝ごはんを食べてミリアムさんの出発準備を待つ。持っていくものは身の回りの品だけにしてもらった。いや確かに宝石とかそういうの持っていくのに迷ってたけど。仕方ないから私のアイテムボックスに収納した。内緒ですよ? とは言ったが話しても誰も信じてくれないだろう。
ミリアムさんとザラさんを連れて冒険者ギルドに転移。出現地点は裏口にしたのでバレてはないと思う。裏口からドアをノックすると最初に会った見目麗しいお姉さんが。
「あら、あなたは確か東大陸の。こんなところで何をしてるの? 受付なら表に……」
と言いつつ視線を流してミリアムさんを視界に入れた。その途端に動きが硬直してギギギと首をこっちに向けた。
「あの、キューさんでしたね? なずぇ、ミリアム王女が、いらっしゃるんでぃすかぁ!?」
あ、パニックになってる。ミリアムさんはえへへとばかりに可愛く笑ってる。
「説明しますのでギルドマスターのギャリッカさんを呼んでくれませんか?」
「しょ、少々お待ちください!」
お姉さんはバタンと扉を閉めるとドタドタと走り出す音がした。ええと、このまま外で待ってた方がいい感じ?