満月(episode146)
ダメだ、話にならない。アンブロジアはやるきだ!
久しぶりに帰ってきました。私のアパートです。築年数の割には綺麗に整備されているアパートです。アンブロジア? うん、結界の中ですくすく育ってたよ。というかちょっと帰ってくるの遅かったかも? 結界の中から出てくることはなかったんだけど、結界中に根のようなものが広がってる。これが根之堅洲國とかいうやつ? いや、違うか。危険度は違わなさそうだけど。
私は皆を退らせて結界を解く。結界の中に閉じ込められていた根は何を求めてか一斉に長さを伸ばし始めた。とりあえず風の刃でスパスパ切っちゃおう。焼かないのかって? いや、焼くと煙が出てその煙にヤバい成分含まれてたら取り返しつかないから。それに火門よりかは木門の方が好きなんだよね。まあ水門ほどでは無いけど。
「キシャァァァァァァァァァァ!」
なんか物凄い音を出しながら……いや、あれ、動物じゃないから「鳴いてる」訳でも「泣いてる」訳でもないよ。ある意味「哭いてる」のかもしれない。
アンブロジア(仮定)は足のようなものを穴から引っこ抜いた。そしてずかずかとこっちに歩み寄ってくる。これはまずいな。
まず動いたのはジョキャニーヤさん。なんでここにいるのかと言うとメアリー嬢のボディガードだからだ。というかなんでメアリー嬢がこんな安アパートに来ることになったのかは不明なんだけど。
褐色の弾丸がアンブロジアに打ち込まれる。使ってるのは曲刀だ。手甲剣は刃がボロボロになってたので修理中だ。いや、どっちも銃刀法違反では? あ、外交特権? それでいいのか!?
ジョキャニーヤさんは最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線にそして的確に、アンブロジアの胴体に突き入れた。うん、ざっくりと刺さってたよ。でもアンブロジアはそれでは止まらなかったんだ。
ジョキャニーヤさんの剣が抜けなくなり、その一瞬の隙をついてか手足に根っこが絡みつく。
「がっ、ぐっ!?」
ジョキャニーヤさんは暴れて抜け出そうとするものの、抜け出せない。次に動いたのは美鶴さん。ジョキャニーヤさんに友情を感じてたんだろうか、それとも単純に強かったから体験したいと思ったのか。
近寄って行きながら酒を呷り、鬼モードになっていく。街中とか考えてないな? いや、そこまで人通りないけどさ。
アンブロジアはまずひょうたんを取り上げて、別の根っこが美鶴さんを捕らえた。ジョキャニーヤさんの時よりも太さが大きい根っこが絡みつく。ひょうたんを取り上げた根っこはそれを身体に浴びせた。心做しか喜んでいるような感じだ。
更に紗霧さんが動いた。そう、結局みんなで来てるのだ。いや、そこまでしてみるものでもないと思うけどさ。まあ胡蝶さんは右記島だから学術的に興味があるのかもしれない。
ちなみに紗霧さんが何をやったかというと、胡蝶さんを避難させました。いや、ボディガードとしてはそれが正解なんだけどね。というかジョキャニーヤさんと美鶴さんがおかしいんだよ!
しばらく見ていたが二人の様子がおかしい。何か苦しそうだ。もしかして何か生気のようなものを吸われてる? これは早めに助けないといけない。今私に出来ること……とりあえず魔法だ。私の得意な水門の魔法を喰らえ!
「膨大なる水よ、その流れを支配せし海龍よ、我が呼び声に応えて、その力顕現せしめよ! 水よ、龍となりて、全てを押し流せ! 水門〈水龍爆〉!」
とりあえずあの触手(根っこだけど)から二人を助けないといけない。だから力尽くで引き剥がす。剥がしたあとならあの二人ならどうとでもなるからね。
大量の水が龍の形を取り、アンブロジアに押し迫る。アンブロジアはその水を避けることなくまともに食らった。よし、二人の戒めがこれで解けてくれれば……
あれ? なんか水に当ってないのに解けた? ジョキャニーヤさんと美鶴さんの身体が地面に落下する。まあ高さ的にもそこまでないし、この二人なら怪我なんかしないと分かってるけど。
二人はすぐさま戦闘態勢を取る。アンブロジアに対して警戒しているのか攻めることはしない。私はまだ魔法を制御している。
アンブロジアは大量の水を食らったものの、その水はどこに行くということもなく、消えていく。あれ? あの大量の水は何処?
「ぷふー」
アンブロジアが根っこを伸ばすのをやめて動かなくなった。あれ? なんで? さっきまで暴れてたのに。私は恐る恐る近付く。そしてアンブロジアに鑑定をかました。
【アンブロジア(満腹):水分不足が解消されて従来の生育状態に戻った。切り離した根っこは水分不足の為効能は薄いが魔力の籠った水に浸ける事で効能は戻る。水やりは忘れずにしよう】
なんか鑑定に怒られたんだけど? というかこの根っこの暴走って私が水あげなかったから? で、でも、水なら沢山……えっ、普通の水では育たないところまで来ていた? これからは魔力の籠った水が望ましい?
とりあえず切り取った根っこを集めて私の部屋へ。狭いワンルームにこんなに人が入るのはどうかと思うんだ。と思ったらボディガードの三人は外で待ってるんだって。
という事で部屋の中には胡蝶さん、友子さん、メアリー嬢、ラティーファさん。諾子さんは凪沙呼んで来るって別行動になりました。私はみんなに出せるお茶とかないんだけど。とりあえず買っといたペットボトルのお茶を渡す。
胡蝶さん、メアリー嬢、ラティーファさんはペットボトル初体験だったみたいで開け方に苦労していた。友子さんはさすがに知ってたみたい。あ、冷えてないから魔法で冷やしたよ。まあたまにはこういう使い方もいいよね。
「狭いですね」
「あーまあ、ワンルームだから」
「諾子様と凪沙さんが来たら入れないのでは?」
確かにそりゃあそうだ。どっかファミレスでも行く? まあ諾子さんが帰ってきてから考えましょうか。とりあえずアンブロジアの説明はしておくね。ええと、まず効能だけど……不老不死擬きとかは言わない方がいいよね。せいぜいが毛生え薬とダイエット薬くらいで。