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第十五話 公爵

公爵様もおいでました。王都も頑張れば跳べます。

 映った人物は彫りの深い顔をした初老と言ってもいい年代の人物だった。髭がフサフサと生えており、食べる時に邪魔にならないのかと心配してしまう。そう言えば研究所にやってくる人の中に髭のおじいさんが居たような気もする。


「アリュアス、こんな夜中に何の用だ?」

「申し訳ありません、公爵。実はエッジの街の代官の件なんですが」

「ふむ? 報告のあったやつだな」

「はい。この度、うちの調査員が情報を取って帰ってきまして」

「なんだと?」


 公爵? とかいう人の目がクワッと見開かれた。余程驚いたのだろう。


「ワシの監査では何も見つからなかったんだがな」

「地下に隠し部屋があるみたいでして。後は金庫の中身も」

「あやつめ、金庫は大したものが入ってなかったはずなのだが」

「隠し部屋に移動でもさせていたのでしょう」


 アリュアスさんが飄々と言うとダンッと机を叩く音がした。硬そうな机だから壊れたりはしてないと思う。


「けしからん! むむっ、こうなったらワシ自ら出向いて確認してやる! 早馬で一週間程で着く!」


 一週間。そうなのか。この辺の移動というのは馬車だから移動するのにも日数が掛かるんだね。私だったらそこまで時間がかからないだろうに。


 あー、でも街中に移動するのとは違うよね。短距離転移テレポートを繰り返せば出来るかな?


「あの、王都ってどこにあるんですか?」

「突然どうしたんだね? そうか! 君の転移があれば」

「なんだと? よく分からんが君はもっと早くに着くことが出来るのか?」

「あ、はい。多分ですけど」

「ならば頼む。ワシをエッジの街まで送ってくれまいか」


 公爵様は深々と頭を下げた。私は出来ることをする事であの捕まってた子たちが助かるならしてあげたいとは思う。


「分かりました。王都に向かいます」


 そう言ってエレノアさんに王都の場所を聞いた。どうやらここから北西に一週間移動したところなんだと。


「一人じゃわかんないからエレノアさんも一緒に」

「わかったわ」


 私はエレノアさんを連れて転移を開始する。夜の空気は冷たくて、身震いはする。エレノアさんが寒くないように身体の周りに防御膜を張ってくれた。


「エレノアさん、どっち?」

「ええと、街道があそこだから、あっちね」


 エレノアさんの先導で短距離転移を繰り返す。短距離転移は視線の先に転移するので事故は起きにくい。エレノアさんがびっくりして手を離さないかくらいだ。


「結構速いし気持ちいいわね」

「良かったです。私もエレノアさんのおかげで寒くないです」

「持ちつ持たれつね。あ、もう少ししたら王都の門ね」


 門で下ろして欲しいと言われたのでエレノアさんと門のすぐ近くに転移した。


「開門!」

「なんだあんたは?」

「エッジの街の冒険者ギルドです。火急の用事があってリンクマイヤー公爵にお取次ぎを願いたい」

「むっ? ちょっと待ってくれ。確認する」


 エレノアさんが冒険者ギルドの職員カードを見せて門番に取次を頼む。うーん、あんなカード一枚くらいなら直ぐに偽造されそうだけど。指紋とか登録されてるのかな?


「公爵様と連絡が取れた。そのまま進んでくれ」


 エレノアさんはゆうゆうと門の中に入る。私は、エレノアさんと一緒だからスルーされたみたい。公爵様のお家に行こう。


 公爵様のお家、王都でのお家で、領地には別に屋敷があるらしい。なんてこった。門番から話がいってるみたいで直ぐに通された。


 中に入ると映像で見た公爵様がそこにいた。


「おお、エレノア。君が来てくれたのか」

「お久しぶりです、公爵閣下。ですが、旧交を温めている暇はありません。直ぐに出発します」

「まあ待て。準備というものがだな」

「今必要なのは公爵閣下の身柄だけです。キューさん?」


 どうやら直ぐにでも出ろということなのだろう。私は公爵様に失礼しますと断って手を繋いだ。反対側の手にはエレノアさんが手を繋いでいる。


「じゃあ出ます。せーの」


 私はそのまま転移した。一回で城壁の外に。外の景色は覚えてたし、距離的には問題ない。


「こっ、これは、一体……」

「続けていきますので手は離さないでください」


 来た時の短距離転移ではなく、少し長めに転移する。まあ一回来たところだから割と覚えてるんだよね。


「待て待て待て待て、なんだこれは、なんなのだ!」

「お話は後でゆっくりと。公爵閣下も覚悟を決めてください」

「う、うむ、そうだな。今はエッジの街の事だな」


 どうやら公爵様も腹が決まった様だ。私は転移を繰り返し、二時間後にはエッジまで着いていた。


「ここは……エッジの冒険者ギルド内か」

「左様でございます、閣下」

「アリュアスか。留守を任せて済まなかった」

「閣下は悪くありません。監督責任は問われるかもしれませんが」

「む、そうだな。それでは早速代官の屋敷に行きたい」


 公爵様はそう言うとチラリと私の方を見た。あー、モテ期ですか、私。えっ、違うって?


「キューと言ったか。あの代官屋敷にワシを連れて行く事はできるな?」

「お望みとあればどこでも行きますよ。街の中までなら距離的には問題ありませんから」

「そうか。ならば頼む。アリュアス、お前も同道してくれるな?」

「分かりました。留守は頼んだぞ、エレノア」

「何を言ってるんですか。私も行きますよ」


 えっ? とみんながエレノアさんを見た。エレノアさんの後ろには炎を纏った般若の姿が。エレノアさんの得意なのって氷じゃなかったっけ?


「子どもたちに酷いことしておいて許されるわけないでしょうに。安心してください。生命だけは奪わないギリギリを攻めますので」


 そのセリフで安心できる人なんているのだろうか? 結局、ギルドはビリー君とリリィちゃん、そしてメガネのよく似合うベルさんに留守番を任せた。いや、なんでこんな時間にベルさんまだ居るの? あ、リリィちゃんの看病? さすがベルさん、優しい。ビリー君も今度こそリリィちゃんを守るんだってやる気満々だし。


 私は三人を連れて代官屋敷に転移を敢行した。

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