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第百四十三話 泥沼

ドロドロですねえ

 それから数日、私はミリアムさんの部屋で過ごしていたが、見舞いに来る人はほとんど居なかった。メイドさんは様子を見に来たりしてたけど、ミリアムさんには念の為に病み上がりで身体が上手く動かないって演技をしてもらった。


 第一王子ラムザ、第二王子エルリック、第三王子ジュラル、第四王子グレイ。四人ともミリアムさんの様子を見るのにメイドさんは送り込んで来てたからね。もちろん、国王陛下と皇后陛下の派遣したメイドさんもいたよ。ここはメイドさんの宝石箱や!


 ミリアムさん付きのメイドさんは例のランタンのスレンダーなメイドさん。他の人もいたんだけど、ミリアムさんの病状が深刻になるにつれてどんどんと辞めていったそうな。


 あ、辞めたのは双方の利害の一致かな。メイドさんを巻き込みたくないミリアムさんと、病気を伝染うつされたくないメイドさん。病気ぐらいで、なんて思うかもしれないが、働けなくなったら一家の生活が詰んでしまうなんてのはよくは無いかもしれないけどそこそこある話だ。


 メイドさんたちは新しい就職先に紹介状を書いてもらう形で辞めたらしい。まあまがりなりにも第五王女の紹介状だ。無碍にできる雇い主がどれほどいるか。


 そんな中でもこのスレンダーなメイドさん、ザラ嬢だけは残ったらしい。最後まで姫様と運命を共にするんだとか。狂信者かな? それとも類稀なる忠誠心?


 あ、そんな中でも一日おきぐらいに義姉のアルマさんが来てくれる。ミリアムさんの代わりにスラムで炊き出しをやってるんだとか。最初はミリアムさんの姿がなかったので警戒さらていたが、最近ではアルマさんを見るだけでも炊き出しだと分かってもらえてるみたい。良かった良かった?


 「ミリアム、辛かったらいつでも言ってください。私はあなたをいつまでも大事な妹だと思っていますから」

 「ありがとうございます、アルマ義姉様」


 枕元でぎゅっとミリアムさんの手を握るアルマさん。そして弱々しく握り返すミリアムさん。美しい光景がそこにひろがっていた。


 私はその光景に違和感を覚えていた。そもそも、ミリアムさんは「原因不明の病」で倒れている。更には感染源は貧民街、いわゆるスラムだ。


 第一王子の伴侶ともあろう人がそんなリスク、下手したら自分もその感染経路である場所に、しかも治療の目処も立ってない状態なのに行くだろうか? もし何も考えてないんだったら危機管理がお粗末すぎる。シャミ子と同じくらいには悪い。


 私はこっそりと透視クレヤボヤンスを使った。部屋の外に出たアルマさんはついてきたメイドに何かを命じた。メイドが取りだしたのは布の様なもの。念入りに手を拭っている感じだ。これはクロ確定かな?


 現場の声を拾ってみましょう。順風耳クレヤオーディエンス? そんな便利なものは持っていない。ならばどうするか? 近くに行って聞くまでだよ。


 「ラビニア! まだアレは死なないのかしら?」


 廊下を歩きながらアルマは零す。先程とはうってかわって醜い顔だ。ラビニアと呼ばれたメイドはそんなアルマを窘める。


 「いけません、アルマ様。どこで誰が聞いているか」

 「ミリアムの離宮は人の手が足りてないほど人が居ないのでしょう? 誰が聞いているというの?」


 私でーす。まあ壁にミミあり、障子にメアリーっていうもんね。扉にはアリスとかモモカとかかな? まあリサとかハルとかの線もあるよね。


 「ですが、一応警戒はしておきませんと」

 「私はもうあんな汚いところに炊き出しに行くのは嫌よ。穢らわしい」

 「アルマ様、それだとラムザ様の意に反する事に」

 「知らないわよ! お父様もラムザ様も平民がなんだっていうのよ。あいつらは私らのための奴隷じゃない。なんで文句言っちゃダメなのよ」

 「お嬢様、落ち着いてください」

 「口答えはするな!」


 バチン、と音が鳴って、アルマがラビニアを打ったのがわかった。


 「……申し訳ありませんでした」

 「全く、これなら第二王子のエルリック様の所へ嫁げば良かったわ」

 「アルマ様、エルリック様は……」

 「わかっております。派閥が違いますし。私たち女は意見など持ってないと思われているもの。ですが、ラムザ様が亡くなれば」

 「お嬢様、滅多な事は」

 「分かっています。行きますよ」


 そして奴らは帰って行った。こんなところで話してくれるのはご都合主義だなあって思うけど、運良く得た情報を整理すると、あのアルマとかいうババアは本人の考えとしては貴族派だけど、親が王党派だからラムザ様に嫁いだってこと? それって獅子身中の虫じゃん。危なくない?


 となればあとはラムザ様の心情だね。とりあえず調べてみるか。その日の夜、私はこっそりとみんなが寝静まった頃にラムザ様の寝室へと忍び込んだ。まあそこまでは容易い。


 ラムザ様は寝息を立てて寝ている。不寝番の見張りはドアの外には居るが部屋の中には誰もいない。まあ四階の高さだから窓からの襲撃など考えてないのだろう。周りには木も無いし。


 しかし、アルマのババアがあんな考え方ならこの人の後ぞえくらいにはなれるのでは? ちょっと紹介してもらおうかな。よし、じゃあ鑑定サイコメトリ


【ラムザ:王党派として庶民への方針は本心からだが、妹のミリアムが聖母と崇められているのが面白くない。アルマに命じて聖母の代替として活動させて、自分の功績にしようとしている。このままミリアムが死ねば、功績はアルマに移ると思っているので、エルリックの呪いを黙認している】


 はぁ!? こいつもとんだクソ野郎じゃねえか! 顔がなまじいいだけに勿体ないけど。なんなの、こいつ。ミリアムさんが聖母として名声を得ているのが邪魔? もしかして自分にだけ喝采が降り注げば良いって思ってる? それともミリアムさんが王になる邪魔者だと思ってる? いずれにしてもとんでもないわ。


 私はせっかくなので他の王子の部屋も回ってみることにした。エルリックは「ミリアム早く死ね」だったよ。まあ王座を狙うのに兄より目障りだと思ってるらしい。民衆の支持的な問題だね。

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