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第百四十二話 兄達

怪しいのは誰だ!

 ついでに言えば相続も男女関係なく優秀な者が継ぐらしい。でも基本は長子相続なんだとか。ミリアムさんは第五王女だから特に王位に興味はなく、民衆の助けになることこそが王家の使命だとばかりに施しを行っているのだとか。まだ十代前半くらいなのに立派だよね。


「邪魔するぞ!」


 荒々しい音を立てて扉を開いたのはでっぷりした体型のつぶれ甘食……いや、男性だった。歳の頃は十代後半? いや、後半まではいってないかも。半ばくらいかな? ナイフみたいに尖って触るものみな傷付けるくらいの年齢だ。まあ、丸いから体型的には傷付かないかもだけど。


「グレイ兄様」

「……ふん、本当に調子が良さそうだな。治ったのか?」

「はい、お陰様で」

「ちっ、余計なことを」


 あれ? なんか不穏なつぶやきが聞こえたぞ? いやまあ確かに第二王子にしたがって反旗を翻そうって話だから不思議では無いけど。


「わざわざお見舞いに来てくださったのですか?」

「……ふん、下町などに行くから病気を伝染うつされるのだ。これに懲りたら行くのをやめろ」

「そればかりはお兄様の申し付けでも」

「ちっ、勝手にしろ!」


 なんかイラッとした様子で扉を閉めて帰って行った。来る時も酷かったが帰る時も酷いもんだな。


「ああ見えてグレイ兄様は私を心配してくれているのです」


 ええー、ほんとにござるか? いやまあ、このミリアムさんが頭お花畑(言い過ぎ)で物事を善意で捉えやすいとは言ってもさっきのはねえ。舌打ちまでしてたし。


「失礼するよ」


 ノックして返答を待たずに入ってきたのは貴公子然とした美形の男。どことなく造形はミリアムさんに似てるだろうか。


「あ、エルリック兄様」


 こいつがエルリックか。確かに私は美形が好きだけど、こいつはなんか生理的に受け付けられそうにない。


「調子はどうだ? マイシスター?」

「はい、お陰様で」

「まあ、治ったと思って無理はしちゃダメだよ? そう簡単に解けないだろうからねえ」


 あれ? なんか今変なこと言わなかったか? 私がそんな疑問を持っていることなどエルリックは気にした様子もない。一通り部屋を見回して、私の存在に気付いたみたい。


「この者は?」

「天使様です!」

「あー。すいません。私は冒険者のキューと申します。冒険者ギルドに言われてポーションを用意するように言われたのですが、症状が分からねばポーションの種類が分からないので」

「ほほう? それで、わかったのか?」

「いえ、ポーションを使う前に治っていらっしゃったみたいなので。本当に治ったのか沈静化してるだけなのかも分かりませんし」


 それを聞くとエルリックはニヤリとした。


「そうかそうか。妹のために尽力してくれ。頼んだぞ。まあ、解けるものならな」


 そう言ってエルリックは去っていった。まただ。あいつは「治る」じゃなくて「解ける」と言ってのけた。つまりは病気じゃないって知ってる奴だ! やはり犯人はエルリックなのか。


「おい、ミリアムは居るか?」


 荒々しくノックする音が聞こえる。そのまま入ってこない分、前の二人よりは好感が持てる。


「はい、中におります、ジュラル兄様」

「入るぞ」


 返事とともに入ってきたのは偉丈夫。身長にして二メートル越えの大男だ。金属鎧を着けたままでガシャガシャ音を立てて入ってきた。


「どうされたのですか?」

「うむ、ミリアムが回復したと聞いてな。全く、お前は身体も鍛えずに本ばかり読んでおるから、こんな風に寝込むのだ。もっと外に出ろ! 気合いがあれば病魔なんぞ吹き飛ぶわ!」


 そう言って高笑いを始めた。いや、そりゃあねえわ。こいつはいわゆる「健全な精神は健全な肉体に宿る」学派の人間だろう。いや、学派ですらない。筋肉教というやつだ。筋肉が全てを解決……する訳ねえだろ! 頭わいてんのか?


「庶民などと交流などという道楽はやめて、女であっても貴族として身体を鍛えておくのは悪くないことだぞ?」

「そ、そうですね。ある程度動けるようになれば頑張ってみます」

「おお! その時は手伝ってやるからな。全く、貴族として筋肉は大事だぞ?」


 そんなことを言いながら高笑いをしつつ去っていく。とんでもないインパクトだ。


「ミリアム、今大丈夫かい?」

「あっ、ラムザ兄様」


 遠慮がちなノックと共に入って来たのは紛れもなくイケメン。それも拒否反応を起こさない感じの精悍なやつ。あ、お兄さんですか? その、今、恋人とかいます? 立候補しても?


 とか思ってたら後ろに佇んでる美女が。ダメだ勝てる気しない。特におっぱいの大きさ的な意味で。でかぁい、説明不要!


「ミリアム、無理に起き出してはダメですよ」

「アルマ義姉様。ありがとうございます。本当なら私の役目を代わっていただいてすいません」

「いいのですよ。こう見えても丈夫に出来てますからね。炊き出しの一つや二つで病気になったりしませんよ」


 どうやらミリアムさんがスラムの炊き出しに行けない間はアルマさんという方がやってたらしい。さっき義姉とか言ってたからこの人がラムザさんの奥さん! くそ、羨ましい。


「待ってて、ミリアムをこんな風にした人物を必ず見つけ出してみせるからね」

「ありがとうございます、ラムザ兄様」


 そんな感じで二、三言葉を交わしておいて部屋から出て行った。あら? って私には引っかかることがあった。


 ラムザさんは「こんな風にした人物」という風に言った。これが病気なら感染源になったやつって解釈するんだろうけど、病気の感染経路なんて分からない。もしかして、ラムザさんもこれが呪いだと知っていた? で、呪われてるのに対処しなかった?


 もしかしたらあのラムザって第一王子も必ずしもミリアムさんの味方じゃないのかもしれない。これは、ちょっと、放っておけないよね。


 いや、鉱山の方も気になるんだけど、その前にミリアムさんにもう二、三日ついていてみよう。あ、ご飯が美味しそうってのは理由では無いからね!

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