第百四十一話 経緯
エルリックはアルビノではありません
訂正:百四十話じゃなくて百四十一話でした。訂正します。
「天使様、私の病気はやはりダメなのでしょうか?」
「天使じゃなくてキューね。あと冒険者だから」
天使様が定着されても困る。アーナさんとかゲラゲラ腹抱えて笑うんじゃないかな。
「で、診察の結果なんですが、病気じゃないです」
「そんな、バカな! だってこの子はこんなに苦しんで……私だって、病気でなければどんなにいいかと」
お母様に詰め寄られた。きっとミリアムさんを助けるために色んな手を尽くしたんだろうね。
「いわゆる呪いというやつですね。解呪するのは呪術師の役割で」
「呪い? そんなものが存在するというのですか? 魔法とは違うのですよ?」
確かに魔法とは違うのだろう。いや、何が違うのかは私には分からないんだ。もちろん私の世界にも呪い、呪術なんてものは存在した。割とブードゥーとかヤバそうなやつもあった。八洲の皇都にはそういう呪術師の集団、陰陽寮なんてものがあるって話も聞く。本当かどうかはわからない。
「病気ならともかく、呪いなら私も多少は分かりますから」
「本当に!?」
「天使様、私を、治して、くださるの?」
天使様じゃないんだってば。とりあえずまず服を脱がします。いや、やましいことは何にもなくて、呪術の紋が刻まれてないかを確認する為だよ。通常は見える位置に刻まれてたりするんだけど、ミリアムさんには無いみたい。
改めて服を着てもらい、今度は私が能力を使う。透視。本来はこんな使い方なんてしないんだけど、極限まで集中して……見えた! 右肺に直接刻まれてる。どうやったらこんなこと出来るんだか。
「じゃあミリアムさん、背中を丸出しにしてうつ伏せに寝転んでください」
ミリアムさんはこくりと頷くとそのままうつ伏せになった。胸の大きさは大して育ってないから息苦しくはないだろう。ほっとなんかしてないよ?
私は右の脇腹辺りに手を当てる。あんまりやった事は無いけど、八号がやるのを見た事あるから見よう見まねでもいけるだろう。いけるといいな。
「治癒」
私の治癒は魔法では無い。魔力に反応して発作を起こす呪紋も沈黙したままだ。そして肺に刻まれた呪紋は「傷」なのだ。私の治癒で傷が修復されていく。
ポーションはもちろん、回復魔法で手が出せなかったのは、魔力を呪紋が食っていたからだ。厄介だよ。魔法でも、ポーションでもなくて、体内にある傷を治せというのは。
私は透視で傷を見ながら治癒をする。二つの能力を同時に使うのは頭が痛くなるが、まあ出来ないことでは無い。ううっ、脳内負荷が半端ないよう。
あらかた消し終えた辺りで私の意識は途切れた。全部取りきったからきっと大丈夫なはず……
目が覚めたらなんか豪華なベッドに寝させられていた。すっごいふかふかのベッドだ。こんなの寝たことないよ。私の家にもこういうの欲しいなあ。
「お目覚めになられましたか」
ふと見るとそこには昨夜のスレンダーなメイドさんが居た。訝しげな瞳で私を見ている。まあ、ランタンでミスってるから気持ちは分かる。
「姫様はあなたの事を天使様だからランタンが発動しないのは当然だ、とおっしゃっておりました」
「天使様じゃないんだけどなあ」
どうやら何度言ってもダメらしい。まあそれはいいだろう。仕事が終わったら郷里に戻るんだし。
「目覚められたら呼ぶようにと申しつかっております。ご同道願えますか?」
どうやら拒否権がなさそうな申し出に仕方なく同意。まあベッドで寝かせてもらったお礼を言わないといけないからね。
メイドさんに連れられて来たのは私が入り込んだミリアムさんが寝ていた部屋である。ミリアム様は依然としてベッドの上だ。病み上がりだから無理しないようにしているのだろう。王妃様、お母様の姿は見えない。
「よく案内してくださいました。天使様、こちらへどうぞ」
「あ、はい、どうも」
訂正するのもめんどくさいのでそのままスルーして近くに寄った。看病のために置かれていたであろう、王妃様が座っていた椅子に腰掛ける。
「この度は私の身体を治していただき、ありがとうございました」
「あーまあ、依頼だったので」
依頼の内容的にはポーション寄越せだったんだけど、治ったから結果オーライだよね。もっと言えば「診せられないよ!」って言われたから依頼ですらなかったんだけど。
「一体どの様な方法で治してくださったんですか?」
どの様な方法で、と言っても私しか出来ないやり方なんだよなあ。魔力持ってない別の世界出身の私だけの。
「すいません、実家の秘伝なので」
「そうですか。残念です。ありがとうございました」
深々と頭を下げるミリアム様。まあこの子が助かってよかったよ。
「それで、姫様は呪いをかけられる心当たりはありますか?」
「ええ、まあ。それなりには」
「姫様は聖母であらせられます! そんな方が恨みを買う事など!」
メイドさんが絶叫をあげた。いや、あんたの主観は特に求めてないから。
「恨みは買ってませんが、恨まれる可能性はありますから」
「恨まれる可能性……第二王子!」
昨夜も聞いたけど、第二王子ってのがどう関係あるのか。そういえば第二王子は貴族派とか聞いた記憶があるなあ。
「事情を話して貰えますか?」
「分かりました」
ミリアムさんは躊躇いながらも話してくれる事を決心した。第二王子のエルリックは才気煥発な人物。第一王子を支えて国を守っていくことを期待されていた。
ところが財務貴族のゼニー卿の娘と婚約した頃からおかしくなった。それまでは従っていた国の方針である民を大事にするというのに反発しだしたのだ。
第二王子は第三王子や第四王子を味方につけ、貴族の権利を声高に主張し始めた。そして第一王子や第五王女であるミリアムさんを目の敵の様にしているのだとか。
「第一から第四の王女様は?」
「この国では、生まれた順に第何というカウントがされるので、王女はミリアム様おひとりです」
ああ、姫の中で何番目、じゃなくて王の子供の中の何番目なのか。