慈母(episode141)
胡蝶、友子「来ちゃった!」
私、メアリー嬢、ラティーファさん、ジョキャニーヤさんの四人はのんびり歩いて観光しながらお家に向かう事に。予め裕也さんには晩御飯は諾子さんのところで食べてくることを告げてある。裕也さんも来たがってたけど会食があるんだって。
下町の商店街を歩いていると声を掛けられた。
「おやまあ、ティアちゃんじゃないかい。随分とべっぴんさんを連れてるねえ」
「おばあちゃん! お久しぶりです。ええと、まあ友だちなんです」
「凪沙ちゃんは元気かい? なんなら上がってくかい?」
にっこりと言われてみんなでおばあちゃんの所にお世話になる事に。まあ集合時間までまだあるからね。
おばあちゃんの店は前と変わらず、というか所々が新品になってる。修理してもらったのかな?
「皆さん、こんな汚いところにようこそ。まあおせんべいでも食べなさい」
そう言っておばあちゃんがおせんべいを出してくれた。いや、この後諾子さんの食事を食べないといけないんだけどな。それでもおせんべいに罪は無い。幸いにも薄いやつだから軽く食べればいいだろう。
「これは、硬いけど、面白くて、美味しい」
ジョキャニーヤさんは割と気に入ったようだ。パリパリと食べている。まあこの子はよく食べるから少しはいいだろう。
「音を立てて食べるなどはしたないと言われそうですが、とても子気味のいい音をしますのね。美味しくて楽しいです!」
メアリー嬢は嬉しそうに言う。まあお菓子ではしゃぐくらいの年頃だもんね、本来は。
「固くても美味しいものはあるものですね。いいものは柔らかいものだと思っていたのですが、これはいいですね」
ラティーファさんもご満悦の様だ。もちろん私も。先程飲んだ胡蝶さんのお抹茶も良かったけど、この焙じ茶とかいうのも好きだ。聞けば紅茶も抹茶も焙じ茶も全部同じ植物なんだとか。なんだそれは!?
「しばらく八洲を離れてたと聞いたけど大変だったみたいだねえ。こんなに色んな国の人と出会って」
「ナジュド王国の王太子妃、ラティーファと申します」
「米連邦、パラソルグループのメアリーです。よろしくお願いしますわ!」
「メアリー様のボディガードのジョキャニーヤ」
それぞれがそれぞれの言葉で自己紹介する。仕方ないから私が通訳するよ。おばあちゃんはうんうんと頷いてくれた。
「ラティーファちゃんに、メアリーちゃんに、ジョキャニーヤちゃんだね。よろしくねえ」
おばあちゃんが優しく頭を撫でてくれた。私も撫でられた。とても気持ちいい。というかジョキャニーヤさんがよく撫でさせたなって思って聞いてみた。
「…………おばあちゃんは私を育ててくれた乳母と同じ匂いがした」
さいですか。まあ子育てには一家言あるのかもしれない。息子さんが三人だっけか?
そうこうしてたら凪沙とタケルが現れた。なんで? と思ったらおばあちゃんが呼んでくれたらしい。デート中、ということではなかったみたいなのでお邪魔にはなってなかったみたい。
凪沙とタケルも一緒におせんべいを食べる。諾子さんに夕食に呼ばれた事を話すと、タケル達にも出頭命令が出てるんだとか。夕食の時間の六時頃に来る様にとのお達しだそうだ。
せっかくなのでおばあちゃんが編み物を教えてくれる事に。ラティーファさんはやり方を知ってるみたいだけど、おばあちゃんの技に目を丸くしていた。
メアリー嬢はおばあちゃんの作った編みぐるみに目を輝かせ、作り方を教えて、とせがんでいた。こうして見ると孫と祖母だよね。
凪沙はずっと編み物を練習してるらしくて前よりも手つきがスムーズになってた。冬にはタケルのためにマフラーかセーターでも編むのかね。
ジョキャニーヤさんは……毛糸が絡まって暴れていた。おばあちゃんはニコニコ笑いながら毛糸を巻きとっていく。相変わらずジョキャニーヤさんは大人しくしている。心做しか幸せそうに見える。
私? うん、まあ、それなりに出来るからね。おばあちゃんの手を煩わせたりは……あ、目が間違ってる? ごめんなさい。ちょっと他の人見てたら編み物に集中出来てなかったよ。
時間が迫ってきたので編み物を終えて家に向かう。編みかけのものはあげると言われたけど、お金は払わせてもらった。おばあちゃんは道楽でやってる店だからいいのにって笑ってたけど。私だって稼いでるんだ。払いたいから払わせて欲しい。
家に着くと玄関が煌々と灯りに照らされていた。いや、まだ、外はそれなりに明るいんだけど。
「ただいま」
「あら、ティアちゃん、おかえりなさい。それにタケルに凪沙ちゃんも。他の皆さんもよくいらっしゃいました。さあ、あがってあがって」
諾子さんがエプロン姿でパタパタと駆け寄ってきた。私、凪沙、タケルはおかえりなさい認定なのだ。ここがお家だからね。いや、三人とも住んでるのは別のところだけど。
中に入ると先程別れたばかりの人がいた。なんで?
「お邪魔しております」
「お邪魔になるかとは思いましたが、つい」
「邪魔してんぜ」
「お邪魔にならないようにしますので」
胡蝶さん、友子さんとそのボディガードの二人、紗霧さんと美鶴さんだ。二人とも着座させられており、なんだか居心地が悪そうだ。
「あの、胡蝶様、やはり、我々ボディガードが同じ席に着くというのは」
「そうだぜ、友さん。ボディガードなんだからよ」
「紗霧、諾子様がいらっしゃるのにボディガードなど必要なものですか」
「そうよ美鶴。普通に美味しい料理を楽しめばいいんだから」
心配性のボディガードたちと違って胡蝶さんも友子さんも安心しきってるみたいだ。ジョキャニーヤさんが不思議そうにしている。
「不思議と闘争本能がわかない。この中で暴れようとは思わない。何故か心が安らぐ」
ちなみに私は何もしていない。おそらくは諾子さんのオーラによるものだと思う。というか諾子さんと一緒に居ると安らぐのは間違いないのだ。
「さて、パーティをはじめましょう。うちの嫁になる凪沙ちゃんは手伝ってね!」
「はい、お義母様!」