第百四十話 寝所
病気じゃないよ、呪いだよ♪
「あなたは暗殺者ではないのですか?」
「いや、違うけど」
「そんな佇まいで?」
さすがに私も元はそういう事はしてたけど、職業暗殺者ではないよ。というかやろうと思えば直ぐにでも開業は出来るし、売れっ子になる自信もあるんだけど。そんな自信いらないって?
「私は聖女様の噂を聞いて診てみたくなっただけだよ」
「聖母様に何をされるおつもりですか?」
あ、聖女じゃなくて聖母なのね。子供産んでないだろうに。いや、これはスラムの子供たちは全て私の子供です、みたいな感じかな? あれだ。子供たちが成長して聖闘士になったりするやつか? いや、女性だから女神の化身? この世界に居るかは分からないけど。私の知ってる女神様は創造神か調和神だもんなあ。
「診るだけだって。なんなら助けてあげたいけどね」
「そうですか。ですが、あなたが嘘を言ってるかもしれません。確かめさせてもらいます!」
そう言って取り出したのは小さなランタン。真偽の箱とは違うみたい。
「これはあなたの嘘に反応して光ります。嘘をついていたら赤く光るのです。本当の事を言えば青く光ります」
あー、本当か嘘かを見分けるやつね。しかし困ったな。それだと私の魔力に反応しなくちゃおかしくなってしまう。そもそも私には魔力がないから多分反応しないんだよね。
「それでは、汝にランタンを用いて問います!」
その言葉を言うと、ランタンがぼうっと薄く光った。赤とも青とも言えない光だ。光の三原色から言えば緑っぽい? リトマス試験紙の中性って何色だっけ?変化しないのか。
「汝、聖母様に危害を加えんとするものか!?」
「いいえ」
そう答えるしかない。光の色は……うん、当然ながら変化なし。
「バカな、何故変化しない? どちらでもない、などという質問はしたつもりもないぞ?」
あ、どっちの可能性もあったりすると色が変わらないのか? いや、そういう場合は部分的イエスとか部分的ノーとかそういうのじゃないの? 例えば紫色に染まるとか。
「あのー、もういいですか?」
「ダメよ、疑いのある人間を聖母たる姫様に近付けさせるものですか!」
メイドさんが絶叫する。その音を聞き付けたのか鎧を着た騎士たちが集まってくる。あー、もう、めんどくさい。私は転移で屋敷の中に移動した。
屋敷の中はランタンの灯りが煌々と廊下を照らし出していた。ロウソクの光ではなく魔法の光だ。光は何門なのかは私にはわかんない。今度ティアに大雑把にでも教えてもらおうかな。いつになるのかは分からないけど。
廊下をゆっくり進む。姫様の寝室はおそらくは上の階だろう。階段は遮蔽物とかもないので、転移で上の階の陰っぽいところに移動する。
二階、三階、と転移して、更に上があった。四階に足を踏み入れると何かがある気がする。まあ、私を阻害するものでは無いみたいなので、構わず進む。
四階の部屋の一室に人の気配がする。中を覗いてみよう。透視。
中には白い服を着た男性が数人と、ベッドで寝ている女性。歳の頃は……十代の前半くらいだろうか。とても息苦しい感じで呼吸を懸命にしている。
白衣の男が聴診器のようなものを当てて首を横に振った。途端に泣き崩れる女性。すまんな、もう手の施しようがない。今から安楽死させるので生きていられなくなること、伝えます。病気に抗った人もいるんです。医者は病気を絶対に許さない!
とかいう寸劇があったかどうかは私の脳内設定なので定かではない。なお、白衣の男たちは静かに部屋を出て、部屋の中には泣いている女性と寝ている少女だけである。
私は転移で部屋の中に入る。少女がふわりとした顔でこちらに笑顔を向けてきた。
「天使様?」
天使はあんただよ。チクショー! 儚げな雰囲気、安心させるような微笑み。そして、生命すら投げ出そうとする側近なのかよく分からない人物。
「お母様、どうやらお迎えが来てくださったようです」
「何を言っているの! 私は、私はあなたを守ってみせる! さあ、死神か天使か分かりませんが、この子を、ミリアムを連れて行かせはしませんよ!」
あー、なんか盛大なる演劇が始まったみたいですが、さすがに魔法とか撃たれたら私でも……あ、そこまで効かないか。
「落ち着いてください、こんばんは。夜分遅くに失礼します。冒険者ギルドのギルドマスターであるギャリッカさんに依頼された冒険者です」
「冒険者風情が、この王城に? どうやって! 誰が裏切ったのです! 冒険者ギルドも暗殺者を寄越すなんて、そんな、恩知らずな」
「良いのです、お母様。私は皆の足手まといにしかなりませんから」
あー、なんか私が冒険者ギルドが差し向けた暗殺者って思われてる? そんなに暗殺者っぽいかな、私? いやまあ、深夜に王城に忍び込んでたらそんなふうにも思われるか。枕元に「天誅」みたいな紙でも貼って帰る?
「あ、いえ、その、ポーションが必要とかそういう話を伺ったので、どういう症状かなあと」
「ポーション!? あなたは、病気を治すポーションをお持ちなのですか!?」
お母様、おそらくは王妃様なんだろうけど、その人が縋り付く様に私に迫ってきた。あはは、これ、持ってないって言ったら殺されかねなくない?
「お、落ち着いてください。その為に来たんです。まずはミリアム様を診察させていただいても?」
「そうですね。症状が分からなければポーションも無意味かもしれないということですか。いいわね、ミリアム?」
「もちろんです。このままでは死ぬだけですから」
そう言って胸元をはだけて肌を晒すミリアムさん。うわっ、白いなあ。驚きの白さだよ。スプーンいっぱいだよ。
鑑定。さて、どんな病気なのやら。あれ?
【症状:厭魅の呪い。身体から魔力を奪い、それと同時に様々な症状を巻き起こす。通常の薬は通用しない。ポーションは逆に魔力を悪化させるためオススメはしない】
なんじゃそりゃあ!