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試茶(episode140)

メアリー嬢への試験みたいなものですね。

「あの、ティア様? 諾子様とあの様にお話が出来るのですか?」

「あー、うん、まあ。一応古森沢の親戚筋って事で」


 私の身元保証人であるオーナーが諾子さんの旦那と兄弟なんだから親戚筋なのは間違いない。まあ私は養子とかその辺になってるかどうかは分からないので飽くまで「筋」なのだが。


「諾子様がお元気になされているようで安心しました。諾子様には社交界に出たての頃にとても良くしていただいていたので。今の私があるのも諾子様の薫陶のお陰です」


 おやおや、胡蝶さんが随分と饒舌になったものだ。友子さんも負けてはいないみたいである。


「私も、陰に日向に諾子様にはお引き立ていただいて、私が十条寺の中でもそれなりの発言権を持てて居るのも諾子様のお陰。ああ、どうして諾子様はご結婚なんかされたのでしょうか」


 いや、多分順番間違ってるよ? 諾子さんの息子ってもう成人済みっていうか君らと歳変わらないじゃない。諾子さん、結婚してからも社交界とかに駆り出されてたんだろうなあ。旦那さんと息子のタケルを守る為かな?


「藤乃様?」

「ひっ!? す、すみません、すみません、すみません! し、知らなかったんです! 諾子おば様の、その、縁続きの方だなんて! すみません、すみません、すみません!」


 あー、藤乃姫はもうダメかもしれない。あ、外で待機していたらしい薔薇連隊ローズレジメントの方々が藤乃姫と三人のボディガードを運び出して行く。諾子さんが手配したのかな? ということはこのままお家直行? いや、四季咲しきざきのお家でやるのかな。


「あの、重ね重ね申し訳ありません。ですが、藤乃様がいらっしゃらない以上はお茶会は」

「続けましょう」


 胡蝶さんがお茶会の中断を申し出ようとしていたらメアリー嬢が発言した。どうやらやる気はあるらしい。


「藤乃様は急な体調不良で中座。場のオーナーは胡蝶様ですし、主賓はラティーファ様。どちらも健在でいらっしゃいます。続けるのに問題は無いのでは?」


 吹っ切れたのかハキハキと喋っている。これは、悪くない。となれば後はバックアップしてあげるだけだ。ラティーファさん、よろしく!


「私も、続けるのに依存はありません。続けるのならば藤乃様の行いは不問としましょう」


 あー、ラティーファさんへの謝罪の意味を込めたお茶会、言わば非公式ではあるが外交会談である。妖世川あやせがわの人間もいることだし。四季咲であろうと八洲内部の問題。ラティーファさんには関係ないもんね。


 ということをアーリャさんが通訳してくれた。私やメアリー嬢が通訳しても良かったんだけど、それだと良いように意味を取られて利用してるみたいな疑惑が残るからね。


「分かりました。それではお茶会を続行しましょう。ですが、さすがにここではお茶に埃が入りますからね。室内に移動しましょう」


 そう言って我々が通されたのは畳が張られた広めのお部屋。屏風は金ピカだし、真ん中にはなんかかまどのようなものがあるし。なんだろう、あれは?


「お茶室ですか。八洲の伝統的な嗜みだと聞きました」

「私も、私も一通り学びました!」


 ラティーファさんとメアリー嬢が反応する。胡蝶さんはくすくすと笑っている。


「お茶室、というには広すぎますね。まあ、お茶も出来る会議室みたいなものでしょうか。狭いと窮屈そうな方がいらっしゃいますからね」


 本来の茶室は三畳程度の広さなんだとか。何それ、せっま。みんなが入れないじゃない。だから大人数で出来るようにこんな部屋があるのか。


 お茶のセットが運ばれてきて、みんなの足元に座布団なるものが敷かれた。この上に座るの? よっこらしょっと。あれ? 胡蝶さんと友子さんの座り方はかっちりしてて綺麗だね。ラティーファさんは横に足を崩して座っている。メアリー嬢は胡蝶さんや友子さんのように座っていたが、直ぐに足を崩してしまった。


「無理はなさらない方が。小さい頃から我々はこの座り方、正座で躾られていますから。出来なくても構わないんですよ」


 そう言いながらアーリャさんを見る。こちらも最初から正座とやらは諦めてるらしい。


 私たち? 当然ながら立ちっぱなしだよ。友子さんのところのボディガードである美鶴さんはあぐらをかいている。図太い。


「では、不束者ではありますが、私がお茶を献じさせていただきます」


 そう言うと流れるような手つきでお茶を淹れる。これが茶道チャドーってやつか。私の知ってるやつと違うな。チャドーの呼吸を元にしたカラテを使う暗殺拳じゃなかったの?


「粗茶にございます」


 そう言いながら茶碗をメアリー嬢の前に置く。メアリー嬢は何故かその器をくるりと手で回して持ち上げて飲んだ。そして一言言う。


「結構なお点前で」


 その言葉を聞いた胡蝶さんはニッコリと笑う。友子さんも笑っている。ラティーファさんもだ。


「他の方々もどうぞ。作法など気にせずごゆっくりお楽しみください」


 お茶をそれぞれの前に置く。私たちの前にも置かれた。座って飲めということだろう。毒とかは警戒しないで大丈夫そうだ。


 飲んでみる。甘いけどちょっと渋みがある。いやまあ美味しいっちゃ美味しいんだけど。


「ラティーファ様は紅茶の方がよろしかったですか?」

「いえ、お茶も嗜ませていただきます。風味が素晴らしいですし」

「そう言っていただけるとありがたいです。八洲へようこそ」

「ありがとうございます。歓迎謹んでお受けしますわ」


 ここに至ってようやく賓客として認められたらしい。なんとも酷い話だ。いや、本当は認めていたけど色々、適当に追い出すか、しっかり話が出来るかを見定めたかったのかもしれない。


 その後、お茶菓子が運ばれて来た。それと同時に紅茶も運ばれて来た。メアリー嬢もラティーファさんも紅茶には手をつけなかったよ。郷に入っては郷に従えってやつかな。


 やがて談笑のうちにお開きとなった。まあ食べる量的にはそこまで多くなかったからね。私らは諾子さんに呼ばれてるんで諾子さんのお家に行くよ。

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