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第百三十九話 病気

メイドさんはいい子です。

 応接室みたいなところに通されてお茶菓子を出された。クッキーなのかおせんべいなのか……いや、カンパンかな? あまり美味しくはない。出されたお茶はそこそこにいいものみたいだから、きっとお茶菓子が出るだけでも歓待されて居るのだろう。


水煙草シーシャは嗜まれますか?」

「いえ、控えておりまして」


 しーしゃ? よく分からないけど何かを勧められているみたいだ。リラックス出来る何かなのかな?


「お待たせしてしまったようですな」


 ガチャリ、と扉が開き、スキンヘッドになんか刺青が入った黒褐色の屈強そうな男性が入って来た。顔は笑顔で、指には指輪を幾つもつけている。あれはもしかして武器なのかもしれない。


「いえいえ! 王都のギルドマスターにお会い出来るなんて光栄でございます。私、商都を中心に鉱山などで商いをしております、ペペルと申します」

「おお、商都の豪商として名高いペペルさんでしたか。お噂はかねがね。ギルドマスターをつとめております、ギャリッカと申します」

「おお、冒険者として名高いギャリッカ様でしたか。ギルドマスターまで上り詰められておられたとは!」

「まだまだ駆け出しでしてね。必死で足元を固めておりますよ。で、こちらの方が東大陸からの?」


 どうやら二人ともお互いを知ってる様だ。いや、ペペルさんってそんなに有名な商人だったの? という事はヤッピのお父さんも有名な商人なのかな? 確かリッピさんだっけ?


「マリナーズフォートのリッピ殿から預かったのですがね。詳しいことは本人に聞いてくだされ」

「ほほう、貿易富豪のリッピ殿の。ならば信ぴょう性はありそうだ」


 あ、やっぱりヤッピのパパも割と有名な商人でしたか。まあじゃないとあんなに堂々と組織に敵対とかしないよね。あと、貿易とかも出来ないよね。船とか高そうだし。


「東大陸より参りました、キューと申します。冒険者ですが、こちらの大陸に私どもの国から攫われてきた方々が働かされていると聞きまして、調査と連れ戻しに」


 私の言葉を聞いてギルドマスターのギャリッカさんは頭を抱えた。そりゃあそうだよねえ。下手したら海を越えて戦争だもん。というかうちの国が海を越えて攻め寄せられるかっていうとそれは違うんだけど。


「それは、私どもの国のものが申し訳ない。本当になんとお詫びすれば良いか」


 でもこのギルドマスターってすごい腰が低いよね。私みたいな一冒険者の言うことを真に受けて……あ、一歩間違えたら戦争の引き金か。わざわざ海を越えてくる冒険者なんてそうそういないだろうし。


「あ、いえ、そういうのは犯罪組織の仕業で、国を挙げて誘拐してる訳ではないと思ってますので」


 あ、苦虫を噛み潰したような顔してる。これはあれだな。貴族派の人間がそういう事してるって知ってるな? まあその辺は置いておこう。


「そ、それで、ギャリッカさんには何かこの者に話でもあったのでは?」


 ペペルさんが助け舟を出した。まあ今ここで容疑者もいないのに責任追及したところで何も生まれないからね。


「そ、そうなのです。あの、東大陸には様々なポーションがあると聞いております。その、病気を治すポーションなどはありませんでしょうか?」


 病気を治すポーション? あ、確かそういうのもあった気がするけど、私には治癒ヒーリングがあるから使わなかったんだよね。そういえばこっちに来てからポーションとか見てないな。


「そうですか」


 見るからにガッカリしているギャリッカさん。なんか可哀想になってきた。


「あの、もしよろしければどういう理由でそんなものが必要なのか教えていただけますか?」

「うむ、本来ならば部外秘なのですが、ここまで話したのです。もう仕方ありませんな」


 そう言ってギャリッカさんは話し出した。この国の王室にいる第五王女のミリアム様とやらが原因不明の病気に罹ったらしい。そのミリアム様というのが庶民にも優しい、炊き出しまでやる様な聖母と呼ばれるくらいに善良な方なのだとか。こりゃあ狙われたかな?


 そのミリアム様がある日にスラムに炊き出しに行った後に原因不明の病気を発症したらしい。食欲は無くなり、発熱が続き、咳が酷くなり、終いには血を吐くまでに。


 幾人もの医者に診せたが、分からないそうだ。そんな中でもしかしたら、と医者の一人が言ったのがそのポーションという訳だ。それで王家としては秘密裏にそのポーションの入手を手配したが、まだ返事は帰ってきておらず、そうこうしているうちにミリアム様の容態が悪化していったとのこと。やばない?


 まあ、私が東大陸に帰ってポーション持ってまたこっちに来れば良いだけの話なんだけど、さすがに海を越える程の転移テレポートはやりたくない。


「ええと、私にもその、医術の心得があるので診せてもらっても?」

「なっ!? い、いや、さすがに直接診せる訳には」


 そりゃあそうだよね。何処の馬の骨とも知らない奴が王女様の玉体を診るなんて有り得ないわ。となれば忍び込むか? 乗りかかった船だし、上手くいけば聖女って話のミリアム様から奴隷解放の口添えをしてもらえるかもだしね。


「お役に立てなくてすいません」

「いや、こちらこそ申し訳ない。東大陸からの連絡を待つ事にしよう」


 ガクン、と肩を落とすギャリッカさんには申し訳ないんだけど、表立ってはやれないからね。私はペペルさんと話して王都観光をさせてもらうという名目で自由行動を勝ち取った。いや、特に規制もされてないんだけど。


 その夜。私は王宮の庭に転移した。出来るだけ見つからないようにしたものだが、よく考えると王女様の寝室がわからない。こりゃあ誰かに聞くしかないなあ、と適当にメイドさんを捕まえる。もちろんスレンダーな体型の子だ。厚みは重みだからね。


「ひっ!?」

「静かに。聞きたいんだけど王女様のお部屋まで案内してもらえる?」

「王女様、とはミリアム様ですか?」

「そうそう、聖女様」


 そう言うと、メイドさんがポロポロと涙を流し始めた。


「あんな、苦しんでる、姫様を、更に苦しめようというのですか! 第二王子の差し金ですね! 分かってるんですよ、姫様のことが邪魔なんでしょう!?」

「いや、違うけど」

「えっ?」

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