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拡声(episode139)

「あらぁ、ティアちゃんじゃない。どうしたの? 私の声が聞きたくなっちゃった? でも今日は胡蝶ちゃんのお茶会の日だったわよね? あの胡蝶ちゃんが粗相するわけはないと思うんだけど、あー、でもねえ。十条寺から出たのがあの友子ちゃんでしょ? 絶対何か起こりそうって思ってるのよね? それで、妖世川はともかくとして、ウチからは誰が出てるの?」


 マシンガンの様に畳み掛けてくる諾子さん。というかなんで参加メンバー把握してるの? しかも友子さんが居たらなんかあるってどういう事? 様々なことを呑み込みつつも答える。


「あ、あの、藤乃姫とかいう方で」

「あら、ふーちゃんなの? という事は上からマウントでも取ったのね。胡蝶ちゃんは制止しなかったの?」

「はい、代わりにメアリーさんが鷹月歌たかつかとして文句を」

「あらあらあらあら、それが胡蝶ちゃんの思惑なのかしら。まあふーちゃん如き御せない様なら確かに鷹月歌としてはダメかもねえ」

「胡蝶さんなら止められた、とでも?」

「そうよ? 本流では無いとはいえ、あの子も鷹月歌と縁続きになったのですもの。まあ婚約破棄になるかもしれないけど。おそらくメアリーちゃんが対応を間違えていたら排除されてたんじゃないかしら?」


 それを聞いて背筋に冷たいものが走った。この場はメアリー嬢の試練の場だったのだ。メアリー嬢が下手を打ったら「鷹月歌の伴侶として不適格」として妾か第二夫人として乗り込んで乗っ取るつもりだったのだろう。胡蝶さんには健介ってバカが居る? いや、前にやらかした事で離縁されても文句の言えない立場になってるからね。


「じゃあ諾子さんが一言言ってもらう訳には」

「別に構わないけど、その場合、ラティーファさんの株が上がるだけね。ティアちゃんはラティーファさんのボディガードなんでしょう?」

「あー、まあ、そりゃあそうなんですけど、さすがに……下手するとジョキャニーヤさんが皆殺しにするかもしれなくて」

「それを御せないのならそれもメアリーちゃんの失点ね。まあその後のことなら抑えて上げてもいいけど」


 その後の事? あ、もしかして、このお茶会が終わったあとに恥をかかされたって藤乃姫が暴走するってこと? いや、確かにあの三人のボディガードが負けただけで、「鷹月歌は負けておりません!」とかは言いそうだよね。次はもっと団体でメアリー嬢を狙ってくるかな? いや、だいたいはジョキャニーヤさん一人で大丈夫だと思うけど、間違いなく私も巻き込まれるよね。ジョキャニーヤさんか巻き込んできそうだもん。


「分かりました。じゃあ、終わったら抑止力の行使をお願いします」

「おっけー。じゃあ交換条件として、ティアちゃんがお友達連れて晩御飯食べに来ること。良いわね?」


 なんで晩御飯なんだ、と思わないでもないが、メアリーさんやジョキャニーヤさんを見てみたいのかもしれない。正直、諾子さんのご飯は美味しいので得したなとしか思わない。


 と、目をやってみれば、ジョキャニーヤさんが二人を制圧していた。一人は足の下に居てぐったりしてるし、もう一人はジョキャニーヤさんに右腕を掴まれて苦悶の表情をしてる。苦悶逝くもん!


「あなた、あなた、あなた、あなた!」

「あれ? 次はあんた?」


 ジョキャニーヤさんのセリフは八洲語では無いので通じないだろうが、挑発されているのは伝わってくる。藤乃姫は激昂していた。三人には目もくれない。


「もういいわ! こんなお茶会、ぶっ潰してやる! 四季咲の誇る薔薇連隊ローズレジメント、恐怖と共にその身に刻みなさい!」

「ティアちゃん。スピーカーにしてくれる?」

「すぴーかー? ごめんなさいちょっと使い方分かんなくって」


 なんか声を周りに届けるらしい。あー、それなら木門の〈拡声ホルン〉で

 増幅したらいいよね!


「ふ〜ちゃ〜ん、そこまで〜」


 木門で増幅した声が場に響く。間延びした言い方に場が凍りつく。いや、凍り付いたのは喋ってるのが誰かわかったからかもしれない。


「誰よ、私をふーちゃんなんてマヌケな呼び名で……呼び名、ふーちゃん? えっ、そ、その呼び方は、まさか、まさか、諾子おば様!?」

「ふーちゃんひどぉい! 私の事は諾子ちゃんって呼んで欲しいなあ。それで、ウチの薔薇連隊ローズレジメントがどうしたのかしら?」


 電話の向こうでは確実に笑顔だ。でもきっと、目は笑ってないと思う。まあ、あの人、笑ったら目がなくなるけど。


「いえ、あの、その、ええと」

「ふーちゃんに動かす権限無いわよね? どういう事かなあ?」

「ひいっ! す、すいません、言葉のあやです!」

「もう、ダメなんだから。みんなにごめんなさいしようね?」

「は、はい、直ちに! 大変、申し訳ありませんでしたっ!」


 藤乃姫はその場で土下座をした。歯の根が合わずにガタガタと震えている。


「な、諾子様、なのですか? 私です、右記島の胡蝶でございます!」

「諾子様、十条寺の友子です。お久しゅうございます!」

「あ、あ、あ、その、妖世川の、末席につとめております、アナスタシアと申します。お噂はかねがね……」


 あれ? 藤乃姫以外の八家メンバーも一斉に声を掛けた。胡蝶さんと友子さんは若干声が弾んでいる。慕ってる? アナスタシアさんはびっくりというか少し畏怖してる感じ?


「あらあら、二人とも元気そうで嬉しいわ。そのうち遊びにおいでなさい。それからアナスタシアさん? 気苦労が多そうだけど頑張って頂戴。今、妖世川でナジュドの言葉が分かる子は少ないのでしょう?」

「ありがとうございます。頑張ります」

「ふーちゃんはこのままうちに来なさいね。お話があるから。ティアちゃんは夕飯までに帰ってくるのよ」


 私、いつ諾子さんの家の子供になりましたっけ? って言っちゃうと諾子さんが拗ねて泣き出しそうだからはい、と返事だけした。


 電話が切れて沈黙が場を支配する。ジョキャニーヤさんは不思議そうな顔をしている。制圧していた二人の抵抗が無くなったからだろう。

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