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第百三十八話 旅路

街道は歩いてないけど旅路です。

「酷いですよ、キューさん。私をこんな屈強な男たちのたむろする場所に置き去りにして……私は、みんなから寄って集って辱めを……ううっ」


 アーナさんが辱めなんか受けるわけないじゃないのよ。というかこの人、その気になったら一人で制圧出来るよね?


「アーナさん、その様な誤解を招く発言はやめていただきたい」

「でも、辱めを受けたのは事実ですよ!」


 え? マジでアーナさんに辱めを与えた勇者がいたの? 大丈夫? そいつ生きてる?


「辱め、じゃなくて恥ずかしい思いじゃないですか。キューさんに置いてかれてこんなところに置き去りにしないでぇ!って喚いてただけでしょう」


 あー、大方そんなこったろうと思ったよ。確かにそれは恥ずかしい。


「また辱められたぁ!」

「うるさい! ええと、とりあえずペペルさんは金次第だって言ってましたね」

「金次第ということはそれなりの伝手はあるんですね。ペペルさんもすごいなあ」


 私的には役に立たねえと思ったんだが、そりゃあそうか。ある程度お金を積めば動いてくれるって関係はそれなりに信用が必要なのだ。特に貴族とかはそういうので、足を引っ張ったりされるから小遣い稼ぎみたいにやるのは小物の下級貴族だけだろう。


 いわゆる王党派、貴族派とかに数えられる様な大物貴族はそうそう面会にすら辿り着けまい。


「お金はどうするんですか?」

「うーん、ある程度なら私の持ち金があるけど。あとは珍しい物品とか?」


 私の持ち物の中だと檮杌とうこつの牙とかかなあ。なんかの記念に取っておいたんだよね。わかる人居るかなあ? 居るよね? 貴族だもんね。


「という訳で一緒に王都へ行きましょう。案内お願いします」

「正気かね? ここから王都まで二十日は掛かるよ?」

「大丈夫です。ショートカットしますから」

「ショートカット? よく分からんが、も、もしかして、シューミ山脈を越えていくつもりかい? いや、それでも二十日が一週間程度になるだけのこと」


 どうやら直線距離だとショートカットは出来るらしい。そりゃあちょうどいいや。


「まあまあ、じゃあ行きましょうか」


 私はそう言うとペペルさんの身体を掴んだ。うむ、重いな。


「何をするつもりだね?」

「こうするんですよ。えいっ」


 私は転移テレポートで鉱山から跳んだ。場所は街道沿いの山の中だ。


「こ、ここは? さっきまで鉱山に居たのに」

「まだまだ行きますよ。えいっ!」


 次に跳んだのは森の上である。風が気持ちいい。本来なら目撃されたくないから夜に跳ぶんだけど今は一刻を争う。


「ペペルさん、王都はどっち?」

「か、街道沿いならわかるが……空だとなんとも。通ったことがないからな。多分あれがシューミ山脈だろうからあっち側のはずだが」


 そう言ってペペルさんが指差した先には大きめの山がそびえ立っていた。むう、富士山より高いかも。


「わかった。あっちだね」


 私は再び転移する。何度も転移を繰り返し、いい加減疲れて来た。一人だったら良いけどペペルさんを掴んでるからね。


「ふう、ここらで休憩しましょう」

「こ、ここは、デッカ高原!? 王都側のシューミ山脈の地形」

「よく知ってますね」

「この辺りは貴重な薬草なんかが生えてるんですよ。こうしちゃいられない。採取させてもらっても?」


 先程までの狼狽っぷりはどこへやら。商人としての魂に火がついたのか一心不乱に採取し始めた。私もいくつか摘んどこうかな。えい、鑑定サイコメトリ


【蓬莱草:高い標高の場所にポツリと咲く花。煎じて飲めば万病に効く】


 おおっ、なんかレアっぽい草ゲット。アイテムボックスには普通に入るらしい。植物は心臓とかないから生きてない判定かな?


「お待たせしました! それでは王都まで参りましょう! いやあ、いい薬草が採れました!」


 ホクホク顔のペペルさん。まあ王都に付き合ってもらうんだし、これくらいの役得はねえ。


 王都に着いたのはもう夕暮れで入門の審査にギリギリ間に合うかどうかというタイミング。あー、私は色々面倒くさそうだからそのまま街中に入るね。ついでにペペルさんも。門破り? そんなん知らん。


 ペペルさんは貴族の約束を取りつける為に手紙を書いてくれた。宿屋で待ってれば来てくれるんだと。それだと間に合わなくない?


「貴族と会う為には色々大変なんですよ」


 いやまあ、私もアポなく会えるとは思ってないんですけど。じゃあとりあえず情報収集のために冒険者ギルドに向かいます。あ、ペペルさんは休んでて。


 私は冒険者ギルドの場所を道行く人に尋ねたらすぐそこの大きな建物だと言われた。つまり、目的地の目の前で聞いてた訳だ。うわっ、恥ずかしい。


 冒険者ギルド本部というらしくとても立派な建物だ。一階は冒険者が酒を飲んでる酒場や商店などが並んでいて、小さなバザールみたいになってる。


 受付カウンターにいるのは見目麗しいお姉さん方。あ、私に気付いたのか手招きされた。


「あなたみたいな可愛らしい冒険者は珍しいわね。だいたいは女性の冒険者は固まって動くんだけど」

「ありがとうございます。この街には初めて来たのでご挨拶をと」

「まあ、礼儀正しいのね。どちらから?」

「東大陸のエッジからです」


 ガタン! と受付のお姉さんが驚愕の表情を浮かべた。


「東、大陸、ですか。ど、どのようなご用件で?」

「ご用件も何も単なる旅の途中だけど?」


 まあ思いっきり嘘だけど。このお姉さんはなんか手元を見ている。あ、もしかして真贋判定の魔道具?


「嘘は……言ってないみたいですね。こちらへ。ギルドマスターを呼んでまいります」


 いきなり大物が来たな。ギルドマスターってこのギルド本部のトップじゃないの? 私、そんなことしたっけ?


「ギルドマスターというのは冒険者統括部門の責任者です。ギルド運営の責任者なんかはまた別の執行役員の方々がいらっしゃいます」


 あー、四季咲ぎんこうの本店の店長と役員連中みたいな話か。まあ下手に上の人とはかかわり合いになりたくないけどね。

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