暴姫(episode138)
沸点低かった藤乃姫。
「まさか、あなた、あの虎三郎とかいう人の仇討ちとか?」
「あんな愚物はどうでもいいわ。私が尊敬してるのは鼓太郎兄さんだけだもの」
愚物、とは随分な言い様だが、確かに愚物だったと思う。
「へー、鼓太郎さんより強いんスカ? マジパネェじゃないっスカ!」
十条寺のボディガードが興味津々という感じで近付いて来た。手にはまだ食べ物を持っている。
「美鶴、相変わらずうるさいわね。これだから夜盗組は」
「その呼び方やめてくださいよ。私らは軒猿なんですから」
美鶴、と呼ばれた人物は自分たちを夜盗組と呼んだ紗霧さんを否定し、軒猿と名乗った。まあそれなりにこだわりがあるのだろう。
「おやめなさい、美鶴。ここて右記島と問題でも起こすつもりですか?」
十条寺の友子さんの制止が入った。さすがに楓魔と言っても表立って八家に楯突く様な真似はしないらしい。指令が下ればその限りじゃないんだろうけど。
「はぁい、すいません。あ、ジョキャニーヤさんだっけ? あたい、美鶴っていうんだ。よろしゅー」
軽い感じで敵意を見せずにジョキャニーヤさんのところに行って握手をしていた。はっ? マジか。この人、実はかなりの実力者?
ええとね、ジョキャニーヤさんは相手に両手をあずけたりしないのだわ。何故なら選択肢が狭まるから。いや、両手使えなくてもジョキャニーヤさんなら何とかしそうだけど。
私でさえ両手をあずけてくれないんた。そんなジョキャニーヤさんがほぼ初対面の相手に両手を無防備にする? 有り得ない。それはよっぽど相手が雑魚でなんとでもできるも思ってるからか、拒否する間もなく掴まれたかのどちらかだ。
「へぇ……友さん、どうします?」
「大人しくしときなさい。出番は無いから」
「あー、ですかね? まあいいですけど」
友子さんと美鶴さんは何やら話し合ったみたいだけど、その結果は私たちには分からない。出番とはなんだろうか。
そうこうしていたら胡蝶さんと藤乃姫が戻ってきた。本当にお花摘みだったのかは分からない。
話し合いが再開された。話題は相変わらずだ。話題をリードしようとしているのは胡蝶様。ラティーファさんに話を振って気持ちよく話してもらおうと話題を投げかけていた。
だが、ラティーファさんが話をし始めると藤乃姫がそれを邪魔する。やれ、四季咲ではどうの、おじい様がどうの、などと割り込んでくる。
「藤乃姫、あの、四季咲の凄さは皆よくわかっていますから、ラティーファ様の話を遮るのは」
「言ったではありませんか。私たち四季咲に楯突くのはおやめなさい、と。胡蝶、あなたは黙っていなさい」
窘めようとしていた胡蝶さんの忠告を邪魔とばかりに切り捨てる。これは、私の出番かな?
「藤乃姫とやら、少々好き勝手が過ぎるのでは?」
「ボディガード風情が! 私に楯突くつもりですか?」
「私はラティーファ様はあなたのような人物よりも上だと思っております」
「な、なんですって!? 提子 、三方、長柄銚子、この無礼者を叩きのめしなさい!」
とうとう藤乃姫が爆発したようだ。いや、私が爆発させたのかもしれない。名前を呼ばれた三人はそれぞれが武器を構えた。
「やるの? 面白そう」
嬉々とした表情で言うジョキャニーヤさん。いや、喧嘩売られたの私なんだけど。ラティーファさんは……あ、ニコニコしてる。私が庇ったからかな。まあ短い間とはいえ、同じ妻の座に居た同志だもんね。
「胡蝶様」
「紗霧、動いてはなりません。いいですね?」
胡蝶様が制止した様に、右記島も十条寺も妖世川も動かない。やはり、それだけ四季咲に表立って楯突きたくないのだろうか。
「メアリー嬢は止めないの?」
「私は鷹月歌の、裕也さんの伴侶となるもの。四季咲の如きに下風に見られる筋合いはありません」
「鷹月歌の、毛唐の嫁如きが、四季咲に! 取り消しなさい!」
「いやです。そちらこそ、今頭を下げるなら許してあげますよ?」
言いながらメアリー嬢はカタカタ震えている。足元だけね。勇気を振り絞って反抗しているのだろう。もしかして、右記島の胡蝶さんはこの盤面を読み切っていた?
「くっ、やってしまいなさい! ボディガードをやられれば鷹月歌と言えども逆らわなくなるでしょう!」
おおっと。標的が私からジョキャニーヤさんに移ったぞ?
「ティア? なんだって?」
「あなたをやってしまえって」
「そうなんだ。ねえ、殺してもいい?」
「なんで私に聞くの? いや、メアリー嬢の前で殺しはダメでしょ」
「ダメかぁ。じゃあ適当に遊んであげるね。あ、一人はティアが宜しく」
そう言うとジョキャニーヤさんは口の端を歪めた。言わなかったら殺してた? いや、さすがにそれは……無いとは言いきれない。
「余所見をしている場合かっ!」
三人目の長柄銚子とかいう奴が私の方に来た。そのまま防御魔法を使ってもいいけど、とりあえずは使わないで頑張ってみる。
向こうが振り上げているのは扇? いや、あれは鉄扇だ。まごうかたなき打撃武器だと思う。あれを素手で受けたくはないが。よし、やるか。
「金門〈鋼質化〉」
私は右腕を硬質化、いや鋼にして、鉄扇を受け止める。衝撃は来るけど大した威力ではない。相手は私の腕が砕けるとでも思ったんだろう。
そりゃあ普通はハリセンで殴られたって大した事ないと思われるもんね。でもそれが鉄だったら……大事になるだろう。だから私は相手のい意表をつく為に敢えて受けたんだよ。
「なっ、砕けない!?」
「遅い」
私は反対側の左手で鉄扇に触れる。そして、電流を流す。
「木門〈静電気〉」
「ぐべっ!?」
長柄銚子とやらは潰れたカエルみたいな悲鳴をあげながら地面に倒れ伏す。ジョキャニーヤさんはまだ遊んでるみたい。その間に私は私で一応なんかやっとくかな? あ、もしもし、諾子さん? ちょっとご相談が。