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第百三十七話 自演

じさくじえーん

「エイリーク! この裏切り者がっ!」

「今更何をおめおめと俺たちの前に顔を出せたもんだな!」


 あ、間に合ったとも言えないか。これはちょっと雰囲気がやばそう。


「落ち着いてくれ、一体何があったんだ?」

「見ろ! ニエットが!」


 いや、さっきから後ろに血を流した人が居るのは知ってたよ? でも誰も動こうとしない。なんでだ?


「大変だ、直ぐに医者に見せなければ」


 エイリークさんが慌て出す。しかし、男たちはそれを拒む。


「断る! ニエットの事を更に痛めつけるつもりだろう。そうに決まってる!」


 この馬鹿どもは何を言っているのか。見た感じ、出血量はまあまあ。即死は無いにしても長くはもたないと思う。


「そんな事はしない! 約束する。だから早くニエットを医者に」

「いいや、信用ならないね!」

「じゃあどうしろと」

「責任者を呼べ。そしたら交渉に応じてやる!」

「バカな……」


 あー、何となくこいつらの考えてることがわかった気がする。こいつらはエイリークさんが羨ましいのだ。自分だけ女に囲まれて、自分だけいい服を着て、自分だけいいものを食っている。実際はどうかは分からないけど、檻の中から見れば羨ましく映るんだろう。


 私は彼らを落ち着かせる為に治癒ヒーリングで鎮静化を……あれ? 鑑定サイコメトリ


【思惑:こいつはオレたちの脱走計画を聞いちまったからな。始末するしかねえ。そしてこいつを使って責任者を呼び出し、人質にすれば脱走も簡単だろうよ!】


 うわぁ、思ったより下衆だったよ。っていうか、このニエットさんやったのってこいつらじゃん! 今ならまだ間に合う!


「アーナさん、あいつ手繰り寄せて」

「ええっ!? 自分でやりなよ!」

「ダメ、まだ」

「わかった。よいしょっと」


 アーナさんが糸を巻き付け、ニエットさんを自分の手元へ引き寄せる。私は素早く飛び退いてニエットさんの傍に行く。


「で、どうするの?」

「こうするの。治癒ヒーリング


 私の指から治癒の光が漏れてニエットさんを包み込む。傷の具合はまだ大丈夫。生きてる。回復までに時間がかかるけど。


「な、何やってやがる!」

「アーナ、制圧お願い」

「ええー、目立ちたくないんだけど。まあ仕方ないか」


 そう言ってアーナさんは糸を走らせる。縛ったのは奴らの足。ぐるぐる巻きにされて歩けなくなった。


「ちくしょう、なんだよこれ!」

「くそ、解きやがれ!」


 エイリークさんが我に返ったのか、兵士たちに号令を出す。というか号令出せる立場なのか。


「あいつらを牢へ。いつものところではなくて犯罪者用のところに!」


 エイリークさんがそう言うと見ていた衛兵みたいな奴らが取り囲んで運んで行った。


「ニエットは?」

「大丈夫です。回復まではかかりますが」

「助かった。ありがとう。水門の術師は貴重だからね。なかなかこのような鉱山には来てくれなくてね」


 まあ私は水門とやらの術師ではないんだけど。アーナさんも私のことを水門の魔法使いとでも思ってんだろうか? いや、最初に転移テレポート見せたからねえ。


 アーナさんが糸で担架を作ってニエットさんを搬送する。まあ医務室ではなく寝かせるためにエイリークさんの寝台へ運ぶのだとか。医務室では診て貰えないらしい。奴隷だから?


「ニエット、気がついたか」

「あ、エ、エイリークさん、大変です。アグロの野郎が」

「大丈夫だ。もう捕まえてある」


 どうやらあの捕まえた奴らのリーダー格の奴がアグロと言うらしい。早そうな奴だ。どこがとは言わないけど。


「脱走計画?」

「な、なんでそれを!?」


 私の言葉にニエットさんは驚いた。そりゃあそうだ。ニエットさんは話を聞かされて直ぐに「エイリークさんを信じてるから」と断ったらしいのだ。そして作業に戻ろうとしたら後ろから……卑劣な。


「ニエット、すまんな。必ず、必ずみんなを助けてみせるから」

「エイリークさん……お願いします。俺だって故郷に帰りたいんです!」


 お涙頂戴の見世物だが、これからどうすかなんて指針は欠片もない。というかこのままだとエイリークさんもあの貴族の餌食になってしまう。


 一発逆転の手段があるとするなら……王党派の存在だ。今のこの鉱山の貴族は貴族派が多いんだろう。だから奴隷を湯水の様に消費して働かせている。ならば王党派が鉱山の実権を握れば?


「アーナさん、王党派に知り合い居ない?」

「いる訳ないじゃないの! 冒険者ギルドは常に中立なのよ。まあ、ギルド本部は違うのかもしれないけど」


 まあ監査するところが貴族派とべったりとか言われてたらそりゃあそんな反応にもなるでしょうよ。


 となれば頼みの綱はペペルさんか。こうしちゃいられない。


「アーナさん、エイリークさん、私はペペルさんに頼んで王党派の人間に繋ぎをつけてもらおうと思います。ちょっと行ってきますね!」

「あ、ちょっと、私も連れて」


 アーナさんが何か言っていたが私は一人で転移した。あ、いや、その、他意があった訳ではなくて、その、そう! アーナさんにはエイリークさんを手伝って何か証拠になる様なものを探って貰えれば!


 自分を誤魔化しながらペペルさんの元へ戻る。ペペルさんに貴族派か王党派かを尋ねてなかった。まあきっと王党派だろう。


「ペペルさんは王党派に知り合いは居ますか?」

「いきなりだねえ。いや、そりゃあまあ商人やってればどっちとも知り合いは居るけど」


 旗幟を鮮明にせず、か。まあ商人らしい処世術だよね。まあ鉱山に出入りしている限りは貴族派と誼を結ぶのは当然なんだろう。


「王党派の知り合いは王都にはいるが、そこまで密接な関係でもないんだよね。まあ金さえ積めばなんとでもなるだろうけど」


 所詮この世は金なのか。とりあえず王党派はあてに出来ないということがわかったので再び鉱山に戻る。


警戒態勢は敷かれてないようだ。騒ぎは無かったことになったのかな? アーナさんはエイリークさんとお茶を飲んでいた。何してんのさ。

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