表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

271/423

第百三十五話 簿記

アーナさんの目的:新人冒険者を攫って売り飛ばしているであろうタローの足取りと証拠を掴むこと。

「しまった! しかし彼女は一体……」


 エイリークさんが叫んだの同時に屋根の上に跳んだからエイリークさんには見えてないのだろう。私は改めてエイリークさんの前に姿を現した。


「ここです」

「うおっ!? なんだって? どこに隠れてたんだ?」

「まあそれは瑣末な事なので置いておきましょう。さて、あなたのご家族は全員無事です」

「なるほど。私が居なくなって約束は守られたみたいだな」

「約束?」


 ほっとした様子のエイリークさんに私は尋ねる。


「そうだ。あの街の領主様との約束でな。私が大人しくしているならば、店には、海鳥の羽ばたき亭には手を出さないと」

「それであなたは奴隷になったと?」

「私が居なくてもみんなで宿はできると思ったからな」

「お金を持ち逃げして?」

「お金? 何の事だ? 店をやるための資金なら残してきたぞ。私は身一つでここに来たからな」


 ということは海鳥の羽ばたき亭のお金を盗んだのはこの人では無いのか? その借金のせいでアンナが召し抱えられることになったのに。


「あのですね……」


 私はエイリークさんが攫われたであろう時点から後のことを説明した。とても憤慨していて、「私は、何のために……」なんて言ってた。いや、あのクソ代官(元ね)が約束なんて守るわけないじゃない。ましてや貴族同士じゃなくて庶民との約束でしょ。何とでもなるとか思われてたと思うよ。オマケにエイリークさんは戻ってこられないし。


「そうか。苦労をかけてしまったのだな。申し訳ない」

「あー、まあ、いいんじゃないなあ。今は宿屋も繁盛してるみたいだし。エイリークさんはなんでこんなところでこんなことをしてるんですか?」


 初めは男娼として送られてきたが、鉱山の奴隷不足でエイリークにもやらせようと男娼を買う予定だった奥さんの間男が細工したらしい。


 で、ここで労働させられようとした時にここでも監督の女性の目に止まって、書類仕事をやらされることになったのだとか。まだ男娼としてお仕事はしてない清い身体らしい。いや、どうでもいいがな。というか三人も娘作ってんだろうがよ。何が清い身体だか。


「書類仕事に就く事になったのは?」

「最初は書類整理だけだったのが、帳簿のミスを見つけてしまって、ミスがわかるなら仕事もできるだろうとこの様に」


 まあそのお陰なのか、三食美味しいご飯を食べさせてもらえているそうな。まあ良かったのか?


「今ではこの作業場を支えていると自負するまでになっております」

「そうですか。それではアンナにはその様に伝えておきますね」

「待ってください! 私はかえりたいのです!」


 いや、割といい生活してるし、ここで働いてればいいんじゃないの? 奥さんは……まあ器量よしだし直ぐに次のが見つかるよ、きっと。というか狙ってる人も多そうだったし。


「お願いします、連れて帰っては貰えませんでしょうか?」

「あー、いや、一応あなたを迎えに来たのはその通りなんですが、帰りたいんですか?」

「このままだと、私は……」

「おい、エイリーク、なんか話し声が聞こえるねえ?」


 ドアの外から声がした。不味い。私はまた屋根の上に転移テレポートする。部屋に入ってきたのはガマガエル……みたいな顔と体型のおばはん。


「ケロッズ様、すいません。ちょっと気晴らしに色々口ずさんでいたもので」

「まあ、仕事さえしてくれりゃあ少々は構わないがね。東大陸語なんてあたしにゃあ分からないからね」

「すいません。なんというか無意識に出ていたみたいでして」

「へぇ、疲れてるのかい? それなら、アタシのベッドでゆっくり休むかい?」


 ベロン、と舌なめずりをした。うわっ、気持ち悪っ。女の私からしても生理的嫌悪わ覚える仕草だよ。


「いえ、その、まだ、帳簿の方が終わっておりませんで」

「そうかい? それならまあちゃっちゃとしておくれよ。ご褒美にたっぷり可愛がってやるからねえ」

「ありがとうございます」


 そう言うとガマガエル……いや、ケロッズだっけか。そいつは出て行った。


「今のは?」

「この作業場を仕切っているケロッズ夫人だ。旦那からここを任されているらしい」


 どうやらあの夫人は男をいじめるのが好きな様で、王都で問題を起こしたらしい。それでここの奴隷なら好きにしていいから、と押しやられたらしい。なお、それでも仕事はしないといけないとかで、部下に任していたが、エイリークさんが間違いを指摘したので仕事を押し付けられたんだと。


「仕事をしてる間は夜の相手から逃げられるのでそれは構わないんだが、終わった時にどうなるのかが怖くて」


 まああのガマガエルに身体中舐め回されたりするのかと思ったら憂鬱にもなるだろう。確かに出たいよね。


「その書類はいつ頃終わりそうですか?」

「おそらくは遅く見積って一週間かと」

「分かりました。それまでに脱出の手を考えましょう。出来たら全員連れ帰りたいですから」

「そうか。わかった。私も出来るだけの協力はしよう」


 エイリークさんが申し出てくれたので、東の牢屋に捕まってる奴隷たちの価格の総計をお願いした。いや、お金で解決出来るとは思わないけど、損失として切り離せるかってところ。いや、人手不足がどうとか言ってたような気がするから手放さないかもしれないけど。


 さて、目当てのエイリークさんは見つかったし、とりあえず私も寝床に戻りますか。


 ペペルさんのお屋敷に戻ったらアーナさんにどこに行ってたのかと聞かれた。貴族の担当の鉱区だと言うとびっくりしていた。というか、アーナさんもそっちがメインらしい。冒険者が居るのは一般の方じゃないの?


「実は、冒険者ギルドの新人が行方不明になってる事件がありまして」


 もしかして奴隷の身元って行方不明の新人冒険者とかも入ってるの? ってもしかしてタローとかいうやつの目的って……


「多分タローが新人冒険者を攫って連れて来てるんだと思うわ。だからおそらく貴族の場所に隠れてるはずだわ」


 厄介な話になってきたがどの道最初から厄介事だよねえ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ