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烈女(episode135)

胡蝶さんは右記島の中でも傑物です。女なのが惜しいと思われてます。

「さて、それでは話し合いを始めますかね」


 富士林のおばあちゃんが声を掛ける。私たちの方の自己紹介は要らないらしい。重要なのは裕也さんだけだからかな? あ、いや、メアリー嬢もか。


「待ってもらいたい。裕也とメアリー嬢は把握しているが、残りの三人は知らぬ。名乗れ」


 健介って奴が偉そうに言う。いや、名乗る義理はないんだけど。


「十条寺ガンマと申します。しがない十条寺(なんでもや)のボディガードです」

「なんだ、貴様は単なるボディガードか。残りの二人は?」

「ジョキャニーヤ。メアリー様のボディガード」


 八洲語だ。ジョキャニーヤさん、このフレーズだけは自己紹介として練習したらしい。うんうん、職務質問とかされたら面倒だもんね。


「ティア・古森沢です。一応私もボディガードですね」

十条寺(なんでもや)古森沢(しょみん)か。それならば臣下の礼を取る事くらい覚えておけ!」


 どうやらこの健介とかいうバカは選民思想みたいなものを持ってるらしい。もしかしたら婚約者さんの右記島でさえ好きに使ってもいい道具としか思ってないのかも。


「ならば名乗りを上げたように覚えておきましょう。健介さん、よろしいですか?」

「うむ。ボディガードならば特に問題なかろう」


 尊大に言い放つ。まあこの中では自分が一番上だと思ってそうな感じだ。確かに同じ鷹月歌(たかつか)の裕也さんよりも、百歩譲ってパラソルグループのメアリー嬢よりも歳上だから自分の方が上って思ってそうだもんね。


「では告げる。この度は行き違いにより、配下が暴走した様だ。許せ」


 許せ、ときましたか。というかこの健介って奴、自分が悪いとは欠片も思ってねえな。なんなら失敗しやがってとか俺に頭を下げさせるなとか思ってそう。いや、頭下げてないけど。


「健介さん、それは謝罪なのですか?」

「裕也、何を言っている。このオレがお前らごときに頭を下げやってるのだぞ?」


 裕也さんは礼を守って「健介さん」と言ってるのに当の本人は呼び捨てである。いや、名前を呼んでるだけでも大きいのかもしれない。


「そのあなたの暴走により、ナジュド王国よりの国賓であるラティーファ妃が襲われたのですよ?」

「ふん、ナジュドなどという小国、どうにでもなるわ。なんなら鷹月歌だけでも相手取れよう」


 あー、こいつは権力握らせちゃダメな人間だわ。なんにも分かってない。強すぎる力を使う術も知らないお子ちゃまだ。


「健介さん、私たちはここに謝罪に来ているのです。おやめ下さい」

「胡蝶よ。何を言っている。こやつらごときに下げる頭などあるものか! お前は次期鷹月歌のトップの夫人になるのだぞ? もっと気位を高く持て!」


 右記島のお嬢様、胡蝶さんは黙ってしまった。まあ言っても無駄だと思ってるんだろうなあ。


「裕也、ラティーファとやらには金を掴ませておけ。お前がオレに逆らった事は不問にしてやる。メアリー嬢とちちくりあってろ」

「健介さん、あなたに逆らった、とはどういう意味ですか?」

「何を言っている。順当に行けば鷹月歌のトップに座るのはオレだ。それを無視してお前が座ろうとしている。全くもって度し難い」


 余程年下の裕也さんに次期総帥の座が奪われそうになってるのが気に入らないらしい。


「鼓太郎よ、こやつらの首をはねよ」

「無理でございます」

「なんだと? オレの命令が聞けぬというのか?」


 こいつ、しれっと私たちの首を取ろうとしやがったよ? でも鼓太郎って人は動く気ないらしい。


「私とて虎三郎の失態は挽回したいところではありますが……さすがにメンツが悪うございます」

「なんだと?」

「まず、そこの十条寺を名乗っておるガンマですが、元は富士林の秘蔵っ子と言われた炎群殿の孫娘でございます」


 えっ? マジで? そんな繋がりが?


「鼓太郎、口軽すぎですよ。忍び失格です」

「バカを言え、外ならともかく、こんな狭い場所で貴様と戦えるか。それにそこのジョキャニーヤとかいう娘、貴様よりも強かろう」


 言われたことがわかったのかジョキャニーヤさんはニヤリと笑った。


「更にはそちらの女性(にょしょう)、得体の知れない気が渦巻いておる。とてもでは無いが手が足りん」

「なんだと? それならば外に待機させているオレのボディガードが」

「第一、我ら楓魔(ふうま)は右記島に仕えるもの。貴様は胡蝶様の許嫁であるから従っていたが、胡蝶様次第では」

「忍び風情がっ!」


 つくづく小物である。なんか相手するのもバカバカしくなってきたなってタイミングで胡蝶さんが頭を再び下げた。


「裕也様、メアリー様、宅の亭主が粗相をしてしまい、申し訳ありませんでした。そちらのティアさん、でしたね。お噂はかねがね伺っております」


 おや、私の事を知ってる人? 誰だろう。右記島、右記島……あっ、もしかしてアンブロジアのイケメンさん?


「ええ、賢介兄さんがお世話になりました」


 そういえばあの人も「ケンスケ」だったよね。同じ名前なのにこれだけ違うのか。まあ、「健康」だけが取り柄の人と、「賢明」な人では天と地の差があるだろうけど。


「健介さんには鷹月歌の後継候補から外れていただいて、それをもってこの度の詫びとさせていただきたいのですが」

「胡蝶、貴様何を勝手に!」

「鼓太郎、黙らせなさい」

「御意」


 胡蝶さんが冷たく鋭く鼓太郎さんに命じて、鼓太郎さんが素早く健介を気絶させる。恐ろしく速い手刀。私じゃなけりゃ見逃しちゃうね。嘘です、ごめんなさい。ガンマさんやジョキャニーヤさんが見えてない訳が無い。


「胡蝶さん、あなたでしたらもっといい縁談も望めたのでは?」

「右記島が鷹月歌と地続きになれるのですもの。逃す手はありませんわ。まあ出来ればトップになる方が良かったのですが……メアリー様には勝てそうにありませんから」

「胡蝶様……」


 いや、メアリー嬢? この人、色恋とかそういうの抜きでトップの伴侶がいいって言ってんのよ? 悲恋でもなんでもない。多分、健介が上を狙える器だったらあっさり反旗を翻してたと思うよ。

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