第十四話 解錠
金庫のダイヤルは好きだったゲームから。
「だっ、誰だお前は!」
そう誰何される前に転移て逃げた。多分見えてないはず。見えたかな?
私が転移した先はさっきの本棚の部屋。入口にあたる部分だ。このまま扉を閉めてしまってもいいんだけど、中から開けられたら元も子もないし、第一、あの子たちを助け出せない。
私はそのまま部屋を出て上の階に向かう。恐らく書類などはそこだろう。見張りの衛兵と鉢合わせるのもいやだから透視を使って安全に移動する。
幸い、廊下では誰とも会うことはなかった。もしかしたら屋敷に入らないように外に行ってるのかもしれない。
二階は上がったところが広間になっていて、そこから廊下が続いている。先にあるのはおそらく個室。覗いてみたけどどの部屋もそんなに物がなく、綺麗に整えられていた。もしかしたらここは客を泊める時に使われるのかもしれない。
二階にもトイレや浴室があり、客が不自由ないようにしているのだろう。また、遊戯室にはビリヤード台があった。この世界にもビリヤードはあるらしい。
代官の書類がある部屋はここにはないようだ。ふと見ると上にあがる階段がある。客と同じ階ではなくて館の主人は一段と高いところに居るようだ。
上にあがるとスペース的にはそこまで広くもなく、何部屋か並んでいるだけだった。片っ端から開けてもいいけど、それだと時間がかかる。
試しに一室透視で見てみる。うわっ、なんだこりゃ。上に吊り天井があるんだけど!? 殺す気満々だね。という事は恐らく侵入者対策だろう。罠までは分からないけど、ひとつだけ、ほかより広い部屋で大きな机が置いてあるところがあった。
「見つけた」
私はその…部屋に転移を敢行した。部屋の中は小綺麗に整頓されており、その中でも机の上にはいくつかの種類の書類が置いてある。
一見すると同じ様な内容だが、一方は数字が偽装されているのか差分が少ない。他にもなにかないかと思ったら今度は金庫が目に入った。
透視で中を見るといくつかの書類がある。奴隷、売買、契約書とかあるからもしかしたらこれが証拠になるのかもしれない。
さて、困った。私は自分が移動するのはできるけど、他のものは動かせない。種火で炙っても恐らく壊れてくれない。それならば目からビームでも出ないかな? って思って頑張って目に力を込める。ええと、無理ですね、これは。
鍵を開ける為の超能力とかは持ってない。念動で壊すには耐久力がありすぎる。どうしたもんか。ん? 待てよ?
私は鑑定で金庫の情報を読み取った。ええと、右三十六、左十、右五十九、右九十七とダイヤルを回す。ふうん、鑑定ってこんな使い方も出来たんだ。まあ壊さなくていいならラッキーだよ。
指紋鑑定とかは多分ないだろうから遠慮なく回せる。これが八洲だったら科学捜査とか持ち出してくるやつが居るから手袋をはめるようにって言われてたっけ? というかあの鱗胴研究所ってのは私たちになにをやらせようとしてたのか。スパイ?
カチリと音がして金庫の扉が開いた。中には奴隷売買の契約書が入っている。なんか恐らく貴族の名前っぽいのが並んでるけど、こいつらが協力者かな?
他にも不正帳簿もあった。今の不正な書類は作ってる最中みたいだが、過去のはここに入れてあるのだろう。あといくらかお金もあった。もちろんなくて困るものでは無いが持っていくのにも限度があるのでポケットに入る程度にしといた。
外の様子を眺める。なんか騒がしくなってきたようだ。このままギルドマスターの部屋に跳ぼう。
跳んだ先にはアリュアスさん、エレノアさん、ラルフさんが居た。
「うわっ!」
ラルフさんがびっくりしたのか声を上げる。私は思わず言ってしまった。
「あ、スパイの人だ」
「何!?」
アリュアスさんもエレノアさんも驚いている。ラルフさんは薄笑いを浮かべながら言う。
「な、何を言ってるんだ? キュー」
「そうだぞ、ラルフは筋肉ダルマだが悪いやつじゃない」
「えっ? でもお屋敷で代官がラルフから情報を早く寄越せとか言ってましたけど」
ラルフさんの顔にまずい、という表情が浮かんだ。エレノアさんはそれを見逃さない。
「ラルフ! 観念しなさい!」
「ま、待てよエレノア。副ギルド長のオレよりそんな小娘を信用するのか?」
一瞬私に向けた顔は般若のように怒っていた。いや、般若は女なんだっけ? じゃああれにしよう。不動明王。
「エレノアさん、証拠の書類を取ってきました」
「本当? じゃあそれをギルマスに」
「くっ、させるか!」
ラルフさんが掴みかかって来たので私は咄嗟に障壁を張った。ラルフさんはまともに激突してのたうち回ってる。
「ラルフ、残念だ。君がこのようなことをするとは」
「ち、ち、違うんです、ギルマス!」
「やかましい! 木門 〈戒めの蔦〉」
アリュアスさんの持っていた木の棒が伸びてラルフさんを絡め取り、そのままラルフさんは床に転がった。すごいなあ。
「さあ、今度は君だ、キュー。もし君の持ってきた書類がデタラメだったら君がああいう風になる」
勘弁して欲しい。せっかく頑張ってとってきたのに。ああ、そうだ。エレノアさんに言わなきゃ。
「エレノアさん、地下に隠し部屋があって、そこにおりに入れられた女の子たちと、分厚い扉に閉じ込められた男の子たちが居ました」
「なんですって!?」
私の証言にエレノアさんが驚く。そして焦ったようにアリュアスさんを見た。
「ギルマス」
「分かっている。……ふむ、この書類は確かに。それに書類に書かれている貴族もきな臭い奴らばかりだ」
「私、子どもたちを助けに行きます」
「いや、待ちたまえ。これは領主様に報告せねばならん。緊急連絡で呼びかけてみるから」
アリュアスさんは慌てて鏡のようなものの前に立ち、呪文を唱えた。
「水門 〈遠隔通話〉」
鏡の表面に水面のように波紋が広がっていき、一人の人物を映し出した。