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第百三十四話 探人

エイリークが現れた

 東の牢屋には何人かの人が入れられていた。もちろん全員男だ。体型は様々だが、それなりに筋肉はついている。まあ鉱山で働いているんだから当然か。


「ん? なんだお前は? ここの見廻りはまだ来ないが早いとこどっか行った方がいいぞ」


 牢の中から声を掛けられた。私は特に姿を現してなかったんだけど。まあ潜伏もしてなかったけどね。


「ちょっと迷い込んじゃって。東の牢屋ってのはここでいい?」

「ああ、そうだな。ここで合ってる。というか東大陸の言葉なんて久々に聞いたよ」


 ああそうか。この国では東大陸の言葉なんて使わないもんね。ちなみに東大陸の言葉はそれなりに方言っぽいものはあるけど、だいたい似通ってる。英語みたいな感じだ。


「お察しの通り、東大陸から参りました。キューといいます。所属はエッジの冒険者ギルドです」

「ほほう? エッジとは懐かしい名前を。オレはハンス。港町、アンダーゲートでチンピラやってた穀潰しだ」


 おお、アンダーゲート出身者がいたか。こりゃあ好都合。早速聞いてみよう。


「あの、宿屋を経営していたエイリークさんは知ってますか?」

「おお、エイリークのおっさんか。もちろんだ。一緒に連れてこられたからな」


 おおっ、これはビンゴなのか。詳しく話を聞かねばなるまい。


「そのエイリークさんはどちらに?」

「あー、あの人は管理とかそっちが出来る頭のいい人だからな。鉱山の管理事務所かどっかで働かされてるんじゃねえか?」


 なんでも、奴隷の管理とかまでエイリークさんがやってるようになったらしい。雇用主に損失を軽減してみせると言い切って管理し始めてから何があったのか分からないが食事の質が上がったらしい。怪我や病気をしても治してくれるらしい。いや、それならそれ以前は使い捨てだったのかよ。


「あの人が居なけりゃここに居る奴隷の半数は死んでたんじゃねえかな」

「何言ってんだ! エイリーク、あの裏切り者がっ!」


 ハンスの横から別のやつが割り込んで来た。いや、私はハンスの話を聞いてるのであって……あー、まあ、色んな意見は聞いておくべきかな。


「あいつは、オレたちを売って、自分だけぬくぬくとした寝床で寝てやがるんだ! オマケに女まで侍らせて!」

「トマス、それはお前の勘違いだろう」

「何が勘違いなものか! オレは見たんだよ。あの野郎が数人の女を侍らせてるところをよ! 確かにあいつはイケメンだが」


 どうやらエイリークさんはイケメンらしい。うむ、興味が出て来た。でもオリビエさんの旦那さんなんだよな。というかアンナの父親なんだけど。


 とりあえずトマスさんとやらに話を詳しく聞いてみよう。ハンスさんには悪いけど、こういう奴は自分が話終わるまで聞くのが当然みたいな感覚してるからね。面倒事は御免だ。


「あれはな、オレたちがここに来て一月ほど経ったぐらいのことだ。廊下にエイリークの野郎が歩いていたからオレをここから出せって言ったんだ」


 こいつ、自分の立場理解してないのか? いや、奴隷になったのは可哀想とは思うし、助けるつもりだけど、普通騒ぐか?


「そしたらあの野郎、隣にいた女にまとわりつかれてて、他にも女がエイリークの野郎にまとわりついてて、そのまま部屋の中へと消えて行ったんだ。ありゃあぜってぇいい思いしてるに違いねえぜ!」


 うーん、その時のエイリークさんの状況が分からないからなんとも言えないけど、されるがままにしてたんじゃないかな。


「許せねえよ! あいつにはな、オリビエっていうむしゃぶりつきたくなるような美人の奥さんと、美少女の娘が三人もいるんだ。なのに、あいつは、それを裏切って!」


 いや、オリビエさんもアンナたち三姉妹も知ってるけど、その証言だけではなんともねえ。というかトマスが羨ましがってるだけじゃないの。綺麗な奥さんに可愛い娘たち、そして奴隷になっても女を侍らしている。傍目から見たら羨ましいのかもね。


「トマス、お前疲れてんだよ。明日も早いんだからそろそろ寝ようぜ」

「ちくしょう、なんであいつばっかり。オレだって、オレだって……」


 ハンスさんはトマスをなだめるのに回ったようだ。最後にエイリークさんの居場所を詳しく聞く。まあ詳しくはわからないようだが、何となくで管理事務所の場所は聞き出した。


 私は転移テレポートで管理事務所の辺りまで転移した。夜なので灯りは殆ど点っていないが、それなりにポツポツと灯りは点いている窓もある。


 私は透視クレヤボヤンスで中を確認していく。あー、太ったオッサンと美人な女性が絡まってる姿とかは見たくないんですけど。あの、さすがに三ヶ所連続は酷くないですか? 泣いていい?


 四ヶ所目。中を見るとなかなかにイケメンなおじ様が何やら帳簿とにらめっこしていた。顔立ちはシュッとしてる。まあ合格点だ。他に部屋の中には誰も居ない。もしかしてあれがエイリークさんだろうか?


「こんばんは」

「……こんな夜更けにわざわざ何の用だろうか。それ以前に君はどこから来たのかな? 聞いた限りでは東大陸の言葉だから誰何の声はあげなかったんだが」


 なるほど、頭のいい方のようだ。これは本当にエイリークさんかな?


「私はキュー。アンダーゲートから渡ってきた冒険者です。あなたはエイリークさんですか?」

「ほう? 何故私の名前を? いや、先に東の牢屋に行ったのか。彼らは私の事を裏切り者とか言ってるらしいね」

「ええと、あなたの娘さんのアンナさんから依頼されまして」

「アンナ!? 君は、アンナの? オリビエとイレーヌとウルリカは無事なのか?!」


 先程までの冷静沈着さはどこへやら。途端に取り乱し出した。大声まで叫んでいる。バカ!


「うるせぇぞ、エイリーク!」


 バンッとドアを開けて男が踏み込んできた。私は咄嗟に転移で屋根の上に。


「すみません。ちょっと寝惚けてまして」

「ふん、騒がせやがって。明日までにそれを片付けとけよ、いいな!」

「も、もちろんです。ごゆっくり」


  男は再び姿を消した。屋根から見ると外で待ってた女性の腰に手を回して家に入っていった。

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