第百三十三話 牢番
警備はガバガバ
「あなたが? 娼館で働く?」
そう言うとペペルさんは怪訝そうな顔をした。そして私の身体を上から下までまじまじと見て……
「ダメですな」
ダメ出しをして来た。何故に!? これでも顔はそこまで悪くないと思うんだ。いや、別に私が美少女とか言う訳じゃなくて、客観的にティアを見たら美人って思うじゃん? それなら胸部装甲の差しかない私も美少女って名乗ってもいいじゃないか!
「キューさん、多分そういうことではないです」
「えっ?」
アーナさんが待ったを掛けてくれた。なんでも鉱山に来る娼婦というのはそれなりに経験のある人に限られるらしい。女が少ないから、客あしらいがそれなりに出来る人、愛想がいい人でないと早々に壊されてしまうからだって。
ちなみにアーナさんは自信はあるけどやりたくないって。まあそりゃあそうか。私もむさい男に抱かれたくは無い。
結局、身の回りの世話をする女給という事になった。ペペルさんのはからいだ。アーナさんは特に仕事につかずに鉱山を見廻るんだって。まあ、鉱山にも冒険者ギルドがあるからそこの職員として派遣された形にはなってるらしい。
まあともかく、料理以外の家事ならばそれなりにこなせる。何しろ研究所では自分のことは自分でというのが基本だったからね。当時は超能力使えなかったから自分でなんでもやったよ。
朝起きたら部屋を回ってシーツを回収。まとめて洗濯して干して、新しいシーツを夜までに用意。たまに昼から居る客も居るらしいが、その場合は呼ばれたらシーツ交換。どういう趣味なのか呼ばれない事もある。
食事は賄いの女性が作ってくれるものを食べる。そこまで上等な食事では無いが味付けはしっかり出来ている。塩味多めだけど。
屋内の掃除は廊下が主。部屋の中はその部屋にいる娼婦の仕事らしい。だいたい、部屋に娼婦の匂いを染みつかせているから他の匂いをまぜたくないとかそんな話らしい。蠱惑の為の香を焚いたりするんだって。
空いてる部屋の前に立って客を迎える。扉が閉まってる部屋には入れない。客が来れば部屋に入るように促して、客が入れば交渉成立。上手くいけば次回の予約とかもできるかもということらしい。
これは、私が娼婦の方々に聞いた話。割と歳が上の方の女性が多かった。若い子はここまで来ないんだって。それなら私でもいいじゃないかとは思ったけど、お姉さま方を見たら胸部装甲の不足さは死活問題だと思えた。
私は比較的自由な行動をさせてもらってる。酒場などにも出入りしてるからね。どうやら奴隷が使われているのはこことはちょっと離れた場所みたい。
この辺りは民間の作業担当の場所で、貴族たちが担当してる場所はもっと山に近い場所らしい。奴隷が使われている場所はそういう場所らしい。危険な場所を貴族が担当するのが高貴なるもの の義務というやつだ。
ということは私の目的地はそっちになる。転移を使えば行き来は楽なんだけど、なるべくなら見られたくは無い。
奴隷を使ってる貴族はどれくらいいるかと言えば全体の二割程度らしい。これも飽くまで未確認。実際は領の兵士と偽って奴隷を使ってるところもあるそうだ。
夜になって、食事の準備を手伝ってから、貴族担当の場所に行く。私たちのところだけでなく、もう貴族のところも仕事は仕舞いにしてるらしい。夜通し働かせるということはないみたい。
彼らの食事は酷いものだった。パンとスープ、それに水。もうちょい肉とか食わないと身体がもたないと思う。私らの方には肉が必ず入ってたんだけどなあ。
そして寝床は脱走防止でもしてるのか牢獄のような場所だ。寝具とかはあるらしい。
「こんばんは」
「おや、幻覚でも見えたかな? こんなところに女の子などと」
「幻覚ではありませんが。あなた方はとちらから?」
「ハイリス子爵領ということになっているが、実際は我々は奴隷だよ。こことは別の大陸のね。信じられないだろうけど」
答えてくれたおじいちゃん……いや、おじちゃんかな? は自嘲気味に答えた。
「私も別の大陸から来ましたから信じますよ」
「本当かい? そりゃあ苦労したもんだね。気を落とすんじゃないぞ。いつか必ず助けが来るだろうさ」
そう言ってたおじさんの声は徐々に元気の無いものになっていく。これは、最後まで希望を捨てたくはないけど、現実では助けなど来ないと諦めている感じだ。
「あのー、その、助けというのが私なんですけど」
「はぁ? 冗談を言うものじゃあない。君一人でどうやって」
「転移」
私は事も無げにおじさんの捕らえられている牢の中に転移した。おじさんの顎が外れかけている。
「なっ!? 今、牢の外から、中に!? どうやって!? 魔法が阻害されていたはずなのに!」
あー、魔法阻害掛かってるのか。まあ私には欠片も関係ないんですけど。
「とりあえずお名前を伺っても? あ、私はキューと言います。冒険者です」
「あ、ああ、私はイドゥン。ここから南西にある大陸の国、ソマーリアから運ばれてきた者だ」
ソマーリア、そういえばあの攫われてきた子供たちの中にもソマーリアの出身の子が居たような気がする。名前は忘れた。ミリーちゃんではなかったはず。もちろんヤッピでもない。
「あの、東の大陸から来た奴隷は居ませんか?」
「なるほど、あんたは東から来たんだね。それなら東の牢屋に入れられていると思うよ。ここが南西の牢屋だから北東の方面に進めばいい」
「ありがとうございます! あ、今日のところはちょっと確認に来ただけなのでまたいずれ助けに来ますね!」
そう言うと私は再び転移した。牢屋と牢屋の間には兵舎らしきものもあるが、中からは酒盛りしている声が聞こえてくる。真面目に仕事をしてないのだろう。まあ牢屋にいるならそう簡単に逃げ出さないわな。
東の牢屋は静かだった。人の気配はそれなりには居るが、騒いでいる人とかは居ない。ついでに言えば見回りの人も居ない。忍び込むのが拍子抜けするほど簡単だ。