忍者(episode131)
黒ずくめの忍び装束。赤くないから大丈夫(?)
観覧車、という施設には足場が割とある。高所恐怖症だという人でなければ、それなりのバランス感覚があれば登るだけならば問題ないだろう。
這い寄る様に登ってくる火蜥蜴……もとい、人影を見る。あからさまに黒ずくめで怪しいことこの上ない。さてと、困ったことにラティーファさんを狙ってるのかメアリー嬢を狙ってるのかが分からないんだよね。
ラティーファさんを狙ってるならナジュド王国と八洲の中が拗れて嬉しい人間、つまり、他の産油国の人間という線が濃くなる。
メアリー嬢を狙ってるなら八洲内の覇権争い、もしくはもっと狭く、裕也さんの失脚を狙ってる奴らだろう。可能性としては後者の方が高い。何故なら、八家の中でも鷹月歌はトップで、他の家は表立って敵対しづらいだろうし、唯一可能性のある四季咲は諾子さん経由でストップ掛かってるからね。
他の可能性? 後はアンネマリーさん? 一応、妖世川の勢力争いって線も無くはないけど、ラティーファさんとメアリー嬢という外交問題が爆発しそうな場所に手を出すほど馬鹿じゃないと思う。
ジョキャニーヤさん? いや、まさかとは思うけど解放闘士の反乱? いや、それならこんな場所は選ばないだろう。平日の昼間の遊園地なんて人は殆ど居ないかもだけど、ゼロでは無いからね。
最後の可能性としては私。私の魔法がバレて捕獲しようとされている場合。その場合でもここは選ばないし、そもそも私が一人になった時に狙ってくると思う。
さて、それでは改めて今回の依頼品を……もとい、襲撃者を見てみよう。装束的には黒ずくめ、というのがピッタリくる。単なる黒ずくめではない。スーツ姿とかではなくて、忍び装束だ。うん、この時点でメアリー嬢を狙ってる敵以外は考えなくて良さそうだ。
登るのに使ってるのは鉤縄と呼ばれる忍具らしい。私にはあまりよく分からないけど、まあ登りやすくはある。だいたいツーマンセルが三組の六人だろう。まだ隠れてるのかもしれないが。
さてさて、ここからはボディガードたるジョキャニーヤさんの仕事だ。殺してもいいかと言われたので、口がきけるのを何人か残しておいて、ってお願いしておいた。私にサムズアップしてドアを開ける。うわっ、結構高いね。
ジョキャニーヤさんは床を蹴ると鉄骨を走ってメアリー嬢の方に向かった。うん、走ってったよ。バランス感覚とかどうなってんだろうね?
「みーつっけたっ」
「なっ、なんだ貴様は!?」
「ごめんね、八洲語わかんないんだ」
意味は分からなくてもニュアンス的には分かるんだろうね。まあ、いきなり現れたら誰かって誰何するか、殺れ!って命令するかじゃないかなって思う。
一組の忍び装束が蹴り落とされた。鉤縄の鉤の部分を蹴り外されて捕まってる人の手も外されたって感じ。ジョキャニーヤさんは軽やかに次に向かう。
「くっ、くそっ、近づけさせるな!」
そう言いながらぶら下がった状態でジョキャニーヤさんに何かを投げる。ジョキャニーヤさんはそれを軽々と避けていく。
「投擲の基本がなってないね。肘じゃなくて手首で投げなきゃ」
「何を言っているのかまったくわからん!」
やっぱり忍び装束の奴らにもジョキャニーヤさんの言葉である、アラービア語は分からないみたい。ということは狙いはメアリー嬢で決定だね。
ぽいぽいと鉤縄を外して残り一組。一番高く登っている奴だ。ジョキャニーヤさんは軽々と鉄骨を渡って走っていく。
「ちっ、オレが食い止める。お前は任務を遂行しろ」
「了解、ボス」
どうやら片方、ジョキャニーヤさんの迎撃にボスと呼ばれる人物が出てくるみたいだ。
「お主に恨みはなかれど、これも任務にござる。邪魔をしないというのなら見逃しても構わんぞ?」
「何言ってんのかわかんない!」
私にはどっちの言葉もわかるのでこんな会話ってのが分かるけど、両者ともに好き勝手に喋ってるだけなので噛み合っていない。言葉が終わるのを待ってジョキャニーヤさんが攻撃をする。武器はナイフのようなもの。まあ八洲に持ち込めないからね。
忍び装束の男はそれを棒のようなもので弾く。どうやらかなり強度のある棒のようだ。まあ刀である必要はないもんね。
とか言ってる間に相方の方が扉へと到達した。私は叫ぶ。
「ラティーファさん、メアリー、扉に触れちゃダメ!」
言語は米語だ。ラティーファさんは八洲語も米語も喋れる。伊達に知性担当では無い。一方で忍び装束は米語を喋れるかは分からない。でも、触らなければ、扉は突破されないし、触ったならトラップカードが発動する! いや、トラップカードというか私の魔法なんだけど。
「ククク、そこから何を叫ぼうが、もう遅い! 貰った!」
どうやら米語は分からなかったみたいだ。男は扉に手を触れ……凄まじい悲鳴をあげて身体を硬直させたまま、落下していった。あー、あれは打ち所悪かったら死んじゃうね。
木門魔法、静電気。鉄製のものに電気を流す魔法だ。ちなみに魔力の量によってビリッとするだけで済むか、雷に打たれた様になるかを調整出来る。今回は感電して麻痺する様な電流が流れる様に予め扉に掛けておいた。えっ、出る時はどうすんのかって? うん、係員の方にはゴム手袋をつけてもらって発動しない様にしておいた。
「ぐっ、バカなっ!」
「余所見は禁物」
ジョキャニーヤさんがボスらしき人物に攻撃する。相方が失敗したと知ったボスはジョキャニーヤさんに蹴りをかますと、そのまま離脱して行った。ジョキャニーヤさんは追いかけようとしていたけど、さすがに停めさせてもらったよ。陽動かもしれないからね。
観覧車は再び動く……ことも無かったので、ジョキャニーヤさんに動くように操作して貰った。と言ってもスイッチがオフになってたのをオンにしただけだけど。係員の人は気絶はしてたけど命に別状は無いみたい。とりあえず、まだ警戒はしておかないとね。