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第百三十話 蜘蛛

活躍させる気なかったのにキャラが勝手に!

「私が口利いてあげたからでしょ。感謝してよう」


 いや、だから個人情報がね。というかそういうのはギルド規定とかで制限されてんじゃないんですか?


「で、実のところ、賞金はいくら貰ったの? 大物だったでしょう?」

「いや、あの、まだ賞金は受け取ってないので」

「まあそうよねー。でも首があるんだから賞金は間違いなしでしょ。ほら、めでたいんだから奢ってよ」


 デヘヘ、みたいな顔をして絡んでくる受付嬢。まあ、幸薄そうだって思ったから奢ってあげるか。すいませーん。


「ありがとう、お姉さん!」


 感極まって抱き着いて来た。そして耳元で囁く。


「右後方のテーブルの三人組、先程、店に入ってきた時からあなたを観察しているようです。心当たりは?」


 ハッキリした口調で言う。私はびっくりしてしまった。彼女は続ける。


「私が「賞金」の話をした時には何の反応もしなかったのに、「首がある」と言ったら微かに反応しました。盗賊の生き残りではないかと思います」


 この人、さっきの会話、わざとやってたの!? 炙り出し? もしかして、巻き込まれても自分で何とか出来るタイプの受付嬢さん? やっぱりハンマー振るったり、障壁張ったり出来るのかな? いや、障壁バリアなら私が張れるけど。


 その辺で店のウエイトレスが料理を持ってきた。ついでにお酒も持ってきた。アーナさんはなんとも言えない顔をしてる。


「とりあえず、乾杯しましょうか! ほーら、かんぱー……あれ、手が滑っちゃった。ごめーん、店員さん、新しいの持ってきて」


 と言いながら私に少しかかった飲み物を拭こうとする。私は飲み物はオレンジジュースでいいって言ったんだけど持ってきたのはお酒だったよね。


「あのウエイトレスもグルですね。お酒の中に薬を入れてました。ジュースだと溶けない薬なので間違えて出したことにして飲ませるつもりだったのかもしれません」


 観察力高っ! 何この人、めちゃめちゃ切れ者なんですけど。とりあえず私には毒とか睡眠薬の類は効かないことを説明しておく。アーナさんは普通に効くので、飲んだフリをするとの事。


「じゃあ改めてかんぱーい! びゃあうまぃ!」


 私はジュースであることを確かめつつ飲む。うん、ちょっと苦味が走った。多分薬を入れてるし、種類も変えたんだろう。ストリキニーネとかではないよね?


「はぁー、飲んだし、食ったぁ。もうお腹いっぱいです。もう一軒行きます?」


 文章の前半と後半で矛盾したことを言ってるような気もするんだけど、その辺は気にしないことにした。私はへべれけになった(様に演技してるらしい)アーナさんを抱えて会計をして店を出た。アーナさんは私に寄っかかるようになってる。本当に酔ってないよね?


「店から先程の追手が出てきました。路地に誘い込みましょう」


 あ、酔ってなかったわ。でも、アーナさんは私に運ばれるがままだ。敵を欺くにはまず味方から、というが、確かな重みがリアルさを物語っている。


「ありゃ、行き止まりだ」


 私が呟いた時だった。後ろの方から何か鋭い物が飛んできた。私はそれを障壁で弾く。


「ほほう? どうやら魔法使いか。しかも水門か木門だな。アニキが殺られるわけだぜ」


 三人組のリーダーらしき男が私の方に向かって言う。あー、言われてみればあのお頭とかいう奴に顔が似てる気もする。いや、似てないかも? 知らんよ、モブキャラの顔なんて! 私の脳内にはイケメン以外の顔を覚えておくメモリーなんかないの! イケメンになって出直せ!


「ミリンダ!」

「あいよ!」


 さっきの店のウエイトレスさんが出て来た。これで二対四。しかもこっちの一名はへべれけである。演技だけど。っていつになったら起きるんだ?


「あんたらは女衒せげんのダイスの身内なの?」

「そうだ。ダイスの弟のルレットだ。まあアニキみたいなスマートな稼ぎはしてねえんだがな」

「ミリンダだよ。ルレットと組んでやってる。まあ、普通は男を狙うんだがね」


 なるほど、美人局つつもたせというやつかな。そりゃあ女性はターゲットにしにくいよねえ。私? ルレットが百万回生まれ変わってもイケメンになりそうにないからアウト。


「心配しなさんな。ちょっとチクリと首筋に痛みが走るだけだよ」

「私、注射インジェクション嫌いなんだよね」

「訳の分からん事を。アニキの恨み、晴らしてくれる!」


 四人がこっちに掛かってくる。私はそいつらを迎え撃とうとして、一斉に転けた奴らを眺めていた。何コレ?


「ありがとう。長々と喋ってくれて。お陰様で「巣」が張れたわ」


 むくりと起き上がるアーナさん。四人の足元には何が細い糸のようなものが巻きついている。アーナさんはまじまじと男を見詰めて、


「なるほど、ルレット。三流だけど美人局のルレットね。あなた、ダイスの身内だったのね。やり口は違うけど、女で稼いでるのは変わらないのね」

「何もんだ、お前?」

「商都マッカの冒険者ギルドのエージェント、女郎蜘蛛のアーナよ。まあ名乗ったことないけど」

「なんだと! 聞いた事ねえけど!」


 お前もノリいいな、オイ。


「アーナさん、そんな二つ名持ってたんですか?」

「いや、女衒やら美人局やらあったからそういうのあった方がいいかなって思って即興で考えました。あ、ギルドのエージェントってのは本当です」


 なんでも冒険者ギルドには依頼達成に裏があると思われた時にそれを調査する機関があるんだそうな。そんじょそこらの冒険者よりも腕利きらしい。


「もしかして、私がダイスとやらを倒したのも疑われてた?」

「え? あー、普通に早上がりだから飲んでたらあなたが来て、その後を変なのがついてきてたから成り行きで」


 怪しまれた訳ではなかったようだ。偶然というやつかな。


「あ、こいつらの賞金もあなたの口座に振り込まれると思うのでよろしく」

「いや、捕まえたのあなたじゃない」

「私が捕まえてもボーナスも出ないんですよ! だから、あなたが捕まえた事にしてそこから私に袖の下ください!」


 堂々と賄賂を要求するな! いや、賄賂とは言わないのかな、この場合は。正当な権利だよねえ。冒険者ギルドの搾取が酷いのか。

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