八家(episode14)
Q:何で凪沙を養子にしなかったの?
A:そのうちタケルが古森沢姓にするからその時にややこしくならないように(オーナー談)
驚愕しているメイの顔を見て、私はマズったなあとは思っていた。しかし、あの状況はやらねばならなかった。じゃないと私もメイも死んじゃってたかもしれないんだもん。
「……いえ、よしましょう。私は一介のメイド。判断はタケル様にお任せします」
「ここ最上階よね?」
「そういう事ではないですが、まあアメリカンジョークという事にしておきましょう」
メイがやれやれと言いながら男たちを再び縛り付けていく。今度は猿轡も噛ませるのを忘れない。他の人も居るんだし、全員があの薬を奥歯に仕込んでると見て動いた方が良いだろう。
「何の騒ぎだい、メイ?」
眠い目をこすりながらタケルが起きてきた。うん、起きてきたのはいいんだけど、抱えてる白い物体は何? なんか可愛い女の子の絵が描かれてるけど。しかもあられもない姿の!
「タケル様、抱き枕は部屋に置いてきた方がいいかと」
「えっ? うわっ、しまった!」
タケルがドタバタと走っていって、入れ替わりに凪沙も起きてきた。
「何何? さっきタケルが走っていったけど、何かあったの?」
「タケル様が抱いていたのが凪沙様ではないと残念に思っていたところです」
「なっ!?」
みるみる真っ赤になる凪沙。まあメイは大分落ち着いたみたいだね。私は……とりあえず怪我が無いかをチェックしてみる。うん、異常は無さそうだ。
「メイ、じゃあ何があったのか説明してくれないかな?」
「分かりました。例の侵入者、というか皆様が連れて来た奴らですが、伽藍堂の手のものらしいです」
それを聞いてタケルは「やっぱりかあ」と漏らした。
「やっぱり、という事はタケルには何か襲われる心当たりあるの?」
「まあね。きっとセイヤの奴だよ」
「ああ、セイヤかあ」
どうやら私以外は分かってるみたい。なんのこっちゃと思っているとタケルが教えてくれた。
「ほら、ティアと初めて会った時に絡まれてた奴らがいただろ? あいつらはそのセイヤの命令でぼくを襲っていた、んだと思う」
そういえば最初に会った時にそんな事もあったような。あの時は公園だったから落とし穴でカタがついたんだけど。
「そもそも何で絡まれてたの?」
「それは、そのう……」
なんかタケルがモゴモゴしだした。言い難いことなのかな? 凪沙の方をチラッと見てる気がする。そっち関係?
「ま、まあ、その、伽藍堂のセイヤとは学校から同じで、何かと言うと絡まれてたんだけど」
「私が居たら飛び蹴りかましてあげたのに」
「やめてよ、もう小学生じゃないんだから」
どうやら凪沙が昔は蹴りをかましていたみたい。まあ凪沙らしいよね。
「それで、やつがぼくを目の敵にし始めて、暴力やらカツアゲやらして来るようになって」
「えっ、タケルお金盗られたの?」
「いや、盗られそうにはなったけどティアが助けてくれて」
「あー、そうなんだ。ありがとね、ティア」
凪沙から改めて礼を言われたけどあの時は私もお金を貸して欲しかったんだよね、とは言えない。ご飯も食べさせてもらったし、仕事も紹介してくれた恩人だ。なるべく協力はしたい。
「恐らく下部組織のやつを撃退したから親に頼んで兵を繰り出してきたんじゃないかな?」
「兵とかいるの?」
「もちろんぼくらは八洲八家だからね」
私たちの世界では国境を守る護国卿とか国王とかしか兵を持ってなかったんだけどこの世界でのそういうのにあたるのかな?
「その、八洲八家についてもっと詳しく聞きたいんだけど」
「あの、八洲に住んでて八家を知らないというのはどれだけ特殊な」
「メイ?」
「………失礼しました」
メイの詮索をタケルが止めてくれた。そして八洲八家について、いや、八洲について話してくれた。
世界にはいくつか国があり、極東と呼ばれる地域を治めるのが八洲国。正式名称は八洲五族協和連邦国だ。そのうちの狭義の意味で八洲と呼ばれるのは大陸の東に浮かぶ列島。ここはその列島の中でも西京と呼ばれる都のひとつ。
で、八洲には「帝」と呼ばれる統治者と「朝廷」と呼ばれる政務機関なんだそうな。その政務機関のある八省のトップは代々同じ家が就いており、そこの家を八家というんだとか。
ちなみに八家の中で古森沢は民部省という税等を担当するところで、伽藍堂は兵部省という軍隊を担当するところである。妖世川は治部省という外交担当である。
「古森沢は民部だから民の暮らしに根ざさないといけないって教えでね。役職者以外は慎ましく暮らしてるよ」
「高級マンションの最上階ワンフロアぶち抜き隠れ家は慎ましくって言うのかしら?」
「凪沙、だからぼくの家は安アパートで、ここは緊急事態にしか使ってないだろ」
凪沙が軽口を叩くが確かにこれは私の暮らしてるところと比べても雲泥の差だ。これを慎ましやかと言うには無理がある。
「まあここはどちらかと言うと父じゃなくて母方の方。大蔵の四季咲の本流に近いところのだからこれくらいは個人所有だったんだよ」
どうやらタケルの母親はとんでもない金持ちの娘だったみたいだ。言葉尻からそういう事なのだと分からされる。
ちなみに凪沙は八家とは全く関係ない、一般庶民の母子家庭だったのだそうだ。その母親も既に亡くしており、タケルのおじさんである源三オーナーが引き取ったんだとか。私の時みたいに養子にすれば良かったのにとは思うけど、なんか理由あるのかな?
「さて、じゃあこいつらはどうする?」
「どうするって警察を呼べば」
「だって伽藍堂だよ? もし、作戦行動中だって言われたら釈放しちゃうでしょ」
「確かに。とすると個人で処分? それもちょっと気がひけるなあ」
やはり権力で釈放とかは普通にあるらしい。貴族とあまり変わらなそうだけど。まあ、貴族特有の特権階級さを振り回してこないのでタケルとは普通に付き合えると思う。あ、友だち付き合いね。恋人、とかは凪沙に任せるよ。