第百二十九話 受嬢
アリナ、ではなく、アーナです。
「ぱーどぅん?」
「来る途中に盗賊を全滅させてきたんですけど、賞金とか掛かってないですか?」
もう一度言って?と言われた気がしたから繰り返してあげた。
「あ、あ、あの、詳しい、お話を、聞かせて、いただいても?」
頭を抱えながらも応接してくれるのは受付嬢の鑑と言ってもいいかもしれない。この場合は鏡では無い方だ。
「分かりました。ええと、ここで話した方がいいですか?」
私のセリフに救いの糸が見いだせたのか、受付嬢の顔が輝いた。
「そうですよね! こんな案件、受付嬢の担当にはなりませんよね! 残業しなくていいですよねじゃあ、ギルドマスター呼んできます!」
満面の笑みを浮かべるとターンしてダッシュして行った。ちょっと速すぎるかもよ? 穴には落ちないし、亀にもぶつからないと思うけど。って亀ってなんだよ。ノコノコか? パタパタか?
しばらくして、応接室に呼ばれることになった。そこにはギルドマスターらしき壮年のおっさんと、どうやら逃げられなかったらしい悲壮な表情をした先程の受付嬢が居た。
「来たな。まあ座ってくれ。ワシがこのギルドのギルドマスターをしておる、グンダイだ」
「あ、はい、キューです」
「おい、アーナ。本当にこいつが盗賊を全部始末したと? 魔力を全然感じんぞ?」
「知りませんよ、そんなの! マスターじゃあるまいし、個人の魔力なんて魔導具も使わずに測定出来るわけないじゃないですか!」
どうやら先程の受付嬢はアーナさんというそうだ。幸薄そうな名前だ。
「信じるか信じないかはお任せします。ええと、とりあえずお頭と呼ばれていた人物の首を持ってきてますので」
私はアイテムボックスから首を取り出した。いや、放置しても良かったんだけど、討伐なら証拠がいるかなと思って取っといたんだ。
「おいおい、こいつぁ、女衒のダイスじゃねえか」
「本当ですか? ああ、特徴はそんな感じですね」
どうやら名のある盗賊だったらしい。ということは賞金が掛けられている可能性はあるのか。
「ふむ、まあ、首の実物があるんだ。討伐出来たのは間違いなさそうだ。しかしこいつはかなりな周到さで手仕舞いも早かったらしいからしっぽを掴ませなかったんだがなあ」
「捕まえて売られそうになったから逃げて逆に殺りました」
「……普通は捕まったらそこで終わりだと思うんだが。魔力拘束具とか使われなかったのか?」
魔力拘束具は多分使われた。ただ、まあ、私には魔力がなかったので効かなかっただけだ。
「その辺はよく分からない。逃げられたから逃げた」
「まあ、拘束具着けるまでもないと油断したのかもな」
まあ、私が女としての魅力に乏しい、凹凸の少ない身体だから大したことないと思われたのかもしれない。胸の大きさが魔力の大きさ、などという迷信が信じられているのかもしれない。ヒルダ様は胸は小さいけど、魔力は大きかったんだよ!
「あー、わかった。とにかく、報奨金は出そう。よくやってくれた」
「はい、ありがとうございます」
「アーナ、疲れたろう。今日は上がっていいぞ」
「ホントですか!? まだ終業前なのに! 早上がりだ! ありがとうございます!」
アーナがスキップをしながら部屋を出ていく。ギルドマスターが居住まいを正した。
「それで、聞きたいんだが、マリナーズフォート近くの村に盗賊の本拠地があるって噂があったんだが、何か知らんか?」
あー、あの村、噂になってたのか。いやまあ確かに怪しい村ではあるんだよなあ。
「ええと、村長は盗賊に襲われて亡くなりました」
「そうか。わかった」
まあ「盗賊に」と「襲われて」の間に「村に泊まった旅人を差し出そうとした上に、従わない村人を殺そうとしたので私に」が抜けてるんだけど。まあ宿屋の夫婦が居なくなったら後は誰が残るのか分からないし、構わないかな。
ギルドマスターとはそれから二、三話をして鉱山の事を聞いた。冒険者の中には依頼で稼げなくて鉱山に行く人間も増えているらしい。まあどっちも肉体労働だもんね。
というのも、鉱山では食事は支給されるんだそうな。何を食わされているのかは分からないが。カレー食べておかわりもいいぞって言われたかと思ったら毒ガス訓練が始まる、みたいな事にはなってないだろうし。
これは鉱山を管理している国の方針なんだそうな。さすがにそこを中抜きしようとするような組織では無いみたいだ。
そこまで聞いたら連れて行かれた奴隷は生き残ってる可能性があるなあと思う。不眠不休で働かされるみたいなことがない限りは大丈夫だろう。
冒険者ギルドの掲示板を見る。確かに、鉱山での作業という依頼というか募集も出ている。食事と寝床付きだから路上生活者になるよりはマシなのかもしれない。
ちなみに女性も募集している。こちらはいわゆる慰安名目のお仕事だ。給料も男性より高い。まあ行きたくないって女の方が多いんじゃないかな?
冒険者ギルドを出て何か腹に入れていこうと食事を取れる場所を探す。ギルドの近くに一軒の酒場があった。割と綺麗なのでお高めのところなんだろう。まあ、私は懐も暖かいし気にしない。
中に入ると先程ギルドで見たアーナとかいう受付嬢が上機嫌で飲んでいた。早上がりして飲んでるとかどうなんだよ、とは思うがまあお酒を嗜むのも自由だよね。
私も席に着いて料理を頼む。肉料理がメインらしく、肉の焼き方まで指定出来るらしい。いや、焼かなくても食べられるのって八洲ならではって昔聞いた事あるけど? ああ、こっちだと浄化魔法とかあるんだっけか。
それなら、とレアな焼き加減のものを頼んでみる。飲み物はオレンジジュースみたいなやつだ。運ばれてきた肉を切ると肉汁が溢れる。口の中に入れると暴れるような肉汁の暴力が口の中を襲う。それをジュースで流し込む。美味い。
「あらぁ、さっきの冒険者さんじゃーん。たくさんお金貰えて良かったねぇ!」
アーナさんが私を見つけて絡んできた。というか、そういうことを言うのは職務規定違反では?