会食(episode128)
ガンマさんも久しぶりですね。
「さすが八洲のトップ、鷹月歌の本邸ね。圧倒されるわ。私の国の王宮なんか比較対象にすらならないわ」
いや、ラティーファさん? あの王宮もそれはそれで凄かったし、何より歴史を感じましたよ? 鷹月歌はどっちかというと新興企業の本拠地みたいな。中に入ると広々としたホールの真ん中に螺旋階段が巻きついてあるエレベーターがあった。なんかアブソリュート的なディスティニーのアポカリプスが奏でられそうなシチュエーションである。
「裕也さん、あのエレベーターは?」
「ああ、あれは殆ど使わないから大丈夫だよ。正々堂々、決闘者の間を使う様なやつがいればね」
なんでも、鷹月歌の伝統として後継者候補が一騎討ちをするみたいなのがあるらしい。裕也さんで勝てるのかは分からないけど、パートナーを連れて行ってもいいらしい。人数は三人まで。それなら個人の技量だけじゃなくて人脈力も試されるね。
「さあ、みんなにはこちらに来てもらおうか」
裕也さんに連れられて案内された先は巨大な食堂だった。ビュッフェ形式なのか既に料理はいくつも並べられている。美味しそうだ。
「ティア!」
懐かしい声が響いた。なんで凪沙がここにいるんだろうか? 凪沙は戸惑う私をスルーしたまま、飛びついてきた。あの、凪沙? そこさの豊かな部分を押し付けられると息が出来なくなるって前に言ったよね? 私の頭の中にナジュド王国であった色んな事が走馬灯のように駆け巡り……って走馬灯だよ、これ!
「凪沙、ティアの息が出来なくなるからその位で」
「えっ? あっ、ごめんなさい!」
タケルが止めてくれた。まあ居るよね。凪沙もいたんだし。というかむしろ凪沙はいなくてもタケルはいると思ってた。
「やあ、ただいま、タケル。お陰で助かったよ。ティアはお返しするよ」
「いや、ぼくのものでもないんだけどね。それよりそちらはメアリー嬢か。とうとう連れてきちゃったんだね」
「タケル。ぼくは君の事を親友だと思ってる。でも、メアリーに手を出そうとするなら許さない!」
キッパリ言い切る裕也さんにメアリー嬢の目がうるうるしている。
「いや、あの、確かに二次元の好みには近いけど、ぼくには心に決めた女性がいるからね」
そう言いながらタケルは凪沙を見る。凪沙は見られてることがわかって顔をぼむっと赤くしたまま俯いている。可愛いな、オイ。
二組のカップルのイチャイチャっぷりにいたたまれなくなって来たので、ほかのメンバーと共にビュッフェに向かう。テーブルの上には和洋問わず様々な国の食事が並べられていた。ナジュドで食べたシシケバブもあったよ。
メイドさんたちが私たちのコップに飲み物を注いでくれた。未成年はお酒ダメなんだってさ。ワインなんて水みたいなものなのに!
「乾杯!」
これから銀河の果てにでも出征するのか分からないけど、タケルが乾杯をかっこよく言った。多分言ってみたかっただけだろう。というかここ、鷹月歌なんだから裕也さんが乾杯の音頭を取るのでは……あ、ダメだ。メアリー嬢とイチャイチャしてる。
ジョキャニーヤさんはお肉を一生懸命頬張ってる……かと思えば野菜もバランスよく食べていた。肉は生肉でもない限りは栄養が足りなくなるからバランス良く食べるんだって。生肉、食べるの?
ラティーファさんは優雅に食べている。どっちかというと食べるよりも鷹月歌のメイドさんたちと談笑してるみたいな感じ。キャッチ、マイ、ハートみたいな笑顔だ。
アンネマリーさんは迷わずお酒を取りに行った。いや、別にいいんだけど。料理も酒に合いそうな味の濃いものばかりだ。特にスモークサーモン辺りがお好みらしい。私もシャケ、好きだよ。クリスマスに食べるくらいには。
メアリー嬢と裕也さんはもう二人の世界に突入している。メアリー嬢は八洲語がまだまだ不自由みたいで、裕也さんがフォローしながら練習してるみたいだ。よーし、そこだ、押し倒せ! えっ? イエス、ロリータ、ノー、タッチ? ばっか、婚約者なんだから婚前交渉くらいしてみせろっての!
タケルと凪沙はタケルの世話を焼いている凪沙みたいな感じ。タケルって割と自分でなんでも出来ると思うんだけど、凪沙に任せてるのは一種の甘えなのかな? それともあの諾子さんに甘やかされて育ったからかな?
テーブルの下ではぐはぐ食べてるのはガンマさん……ガンマさん!? 居たの!? ガンマさんは私の視線に気付くとおずおずと力ないブイサインを投げて来た。サインはブイってやつか。
「なんでガンマさんがここに?」
「いえ、あの、その、鷹月歌に呼ばれたのです。十条寺のお仕事でして」
よくよく話を聞くと、予め鷹月歌サイドが用意したメアリー嬢のボディガードらしい。というか元は裕也さんのボディガードとして呼ばれたらしいけど、私が割り込んだんだって。まあその間は屋敷の中で美味しい物食べながらゴロゴロ出来たからラッキーとは言ってた。
で、今回顔合わせと思ったらジョキャニーヤさんが居たんだと。ガンマさんはとてもじゃないけど敵わないって言ってた。
もちろん、話半分にしか信じてない。ガンマさん程の人が居るなら私がボディガードにならなくても済んだはずだ。身長も低いし、発育不良(失礼だけど)だから裕也さんの恋人としては……あー、滝塚名義だからおっぱいぷるーんな私の方に回ってきたのかな?
いやいや、それにしてもガンマさんだって色んなところから引っ張りだこになるくらいの実力はあるはずだよ。きっと鷹月歌の内部調査とかそういうミッションを任されてたんだろうね。
あ、アンネマリーさんも気付いてこっち来た。ガンマさんに「私の酒が飲めないっての!?」ってウザ絡みしてて、ガンマさんが涙目になってる。お酒は飲んでも呑まれるなってやつだね。
食事が終わるとみんなでトークルームみたいな場所に案内された。ふかふかのソファが気持ちいい。人をダメにするソファってやつだ。向こうの世界のスライムにちょっと似てる気がする。私も作ろうかな、こういうの。