第百二十七話 私刑
即座に殺す仕事じゃないのでだいぶ本人の私見が入ってます。村の為に動いたんなら味方の村人が助けてくれるよね?
「掴むならまだまだ上に行くけど? 早い内の方が生き残る確率は高いんじゃないかな?」
「こ、こんな高さから落ちて無事に済む訳ねえだろうが!」
今、せいぜいがビルの七階位の高さだ。受け身を駆使すれば生き残る事くらいはなんとかなると思うよ。まあ、私の場合は両足骨折する事を覚悟の上で接地してそのまま治癒で治すけどね。自腹で治せるのは便利だねえ。昔はやって貰ってたもん。はっちゃん元気かなあ。
「私もあまり疲れたくないから、ここでバイバイしようか。服が切れちゃうのは嫌だけど、まあこの程度の服ならもっといいの売ってたりするからね」
私の着てるのは冒険者が普段着として着るようなものだ。いや、なんかベルちゃんさんやエレノアさんから貰った服はいくつもアイテムボックス内にあるんだよ。過剰なまでにヒラヒラしてるドレスが! きーらーれーるーかー!
いや、服を貰ったことはとてもありがたいし、感謝はしてるよ? 時間があれば仕立て直して着たいくらいだ。とりあえずフリルを取り除く事から始めたい。私に裁縫の腕があればなあ。
ゴキッって音がしてお頭は地面で動かなくなった。ありゃ、着地失敗しちゃった? 運が無かったね。私はゆっくり降りて宿屋のおじさん達に話し掛ける。
「お怪我はありませんか?」
「あ、ありがとう。あんた、強かったんだな。助けなくても何とかなったんじゃないか」
「いえ、寝込みを襲われたら危ないところでした。おじさんとおかみさんには感謝しています」
「そうかい。良かった。まあ娘は心配だが、ここからではどうしようもないな」
おじさんが自嘲気味に笑った。己の無力さを噛み締めているみたいな感じかな。おかみさんはおじさんと手を繋いでいる。心細いに違いない……あ、いや、違うか。私の返り血に怯えてるのかもしれない。これは失礼。
「これからどうされるんですか?」
「私らは村長に手を貸して色んなことを見て見ぬふりしてきた。今更助かろうとは思わないが、この村にはもう居られないな。村長を裏切っちまった」
「村長さんは?」
「恐らく自宅にいるだろう」
とりあえずこの二人がどうするかは明日の朝考えるとして、村長の方に行かなきゃね。
村長の邸宅は盗賊の下っ端が警護してるかと思ったんだけど、静かなものだった。多分村の中だから自分に危害を加えようというやつはいないと思ったんだろう。コンコン、軽くノックする。
「随分かかったな。酒なら用意してある。あの二人の首を見ながら飲もうじゃない……か」
扉を開けつつそんなことを言う村長。その言葉はドアを開け放ち、私の笑顔を見た瞬間に凍りついた様だ。
「こんばんは。月が綺麗ですね」
「ひっ、おっ、お前は、なんで、あいつは、どこに!?」
「お頭さん? 着地に失敗したみたいでさ。生き残れる道もあったのに残念だよね。ところで村長さんは運がいい方かな?」
「くっ、来るな!」
腰を抜かしながらも手に刃物を持って後ずさる。いや、それ、逆効果なんだよね。刃物を持つって事は殺害、戦闘の意思があるってこと。つまり、敵対する気満々って事。私はそう教わったからね。
例え村長さんの腰が抜けていても油断はしない。スペツナズナイフとかあるからね。射出機構があのナイフに付与されてないなんて保証はないもの。いや、鑑定で見ればわかるんだけど。
「とりあえず逃げられないように固定しとくね。障壁」
私は障壁をワッカ……もとい輪っか状にして足が動かないようにした。交わした約束忘れないよ、目を閉じ(強度を)確かめる。押し寄せた闇振り払って進むよ。
一歩一歩、ゆっくりと村長に近付く。その間、私の顔は笑顔のままだ。村長の怯えは止まらない。
「村長さん、先程あの二人の首、と仰いましたが、どの二人ですかね? 宿屋のご夫婦? 馬車で去った若夫婦? それとも盗賊のお頭とその部下?」
「あうっ、あうっ、あうっ、しっ、仕方なかったんじゃ! この村が生き残るには、旅人を差し出さんと」
「いやあ。そんなことは聞いてないんだよね」
私的には盗賊から襲われないために旅人を差し出す、というのは分からない話でもない。なぜなら、村長の仕事は村の存続だからだ。だから、村人を守るためなら手を汚す、というのは理解出来るし、そういうのは構わない。まあ、私と敵対したのは悪手だと思うけど。
だけど、盗賊に裏切った宿屋の夫婦を殺させるのはダメだ。しかも王都に行ってる娘さんまで巻き込んで? アホか。村を守るために盗賊に媚び売ってどうすんだ。そりゃあもう本末転倒だろ?
「さて、村長さん? あなたにも家族が居たのかもしれないけどさ、姿が見えないのはなんで?」
「つ、妻も娘も、とっくに王都に逃がした」
あー、こいつは盗賊を信じきってなかったのか、それとも自分が手を汚すことを家族に見られたくなかったのか、それとも王都に逃げようとしてたのか。いずれにせよ、毒を食らわば皿までもってものがない。上手く立ち回ってるつもりでクズなことしかしてない。
「安心していいよ。王都にいるあんたの奥さんや娘さんには何の興味もないし、手出しするつもりもない。だけど、あんたはダメだ。もうアウトだよ」
「ひっ、ひいっ!?」
私は太ももにナイフを突き立てた。そして口には猿轡をかます。うーうーと唸ってるが何を喋ろうとしてるのかは分からない。
「最後のチャンスだ。誰かがあんたの姿を見つけて助けてくれるなら助かる。村人に見捨てられたらお終いだ。出血多量で死ぬ迄……まあ半日ってところかな。夜明けの後もまだ生きてると思うよ。頑張ってね」
私は再び宿屋の夫婦のところに行った。お二人はこのまま村に居るよりも娘さんの安否を確かめるために王都に向かうそうだ。馬車まで連れて行ってあげようかって言ったんだけど、断られた。普通に家財道具持って自前の馬車で行くんだって。なるほどね。私ならアイテムボックスに家具とか入れておけるけどそこまでのお節介はしない。