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了承(episode127)

八洲に帰ってきました!

「諾子さん、ご無沙汰してます」

「あらやだ、諾子さんだなんて他人行儀ね。私もあなたももう古森沢の一員なんだから、親しみを込めて『おば様』って呼んでくれていいのよ? あ、もちろん、もっと親しみ込めて『お母さん』とか『ママ』とか『ムッター』とか呼んでくれてもいいわ。なんなら『お姉様』とか『薔薇様ロサ』とか『シュッツエンゲル』とか」


 話が長い! そしてとりとめもない! というか国際電話なんだから手短に話すべきだよね。あ、通信料は請求されないんですね。


「ええと、諾子おば様、大事なお話があるのですが」

「大事な話? えーとえーと、えっ、もう子どもが出来ちゃったの? 確かに婚約者にはなったかもしれないけど、まだ結婚もしてないのに既成事実を作っちゃうのはどうかと思うのよ。まあそれでも出来ちゃったものは仕方ないんだし、向こうは王子様だから優しくしてくれるのよね? 出産に支障がありそうなら八洲に戻ってきたら私がちゃんとした病院と医者を手配して」

「ちっ、違います! 赤ちゃんは出来てません!」

「あら、違うの? そうよね。結婚式が先よね。確か四人揃ってやるのよね。四人の花嫁が一堂に会する姿はとても魅力的でしょうね。でも、最初が肝心だから他の妻たちとの差別化は図らなきゃダメよ? なんなら八洲の白無垢でも着てみる? あー、でもティアちゃんの金髪には似合わないわねえ」

「結婚式でもないです。あの、本当に大事なお願いなのですが」


 下手すると一話丸々諾子さんのセリフで埋まってしまいそうな勢いの喋りに圧倒されながらも私は何とか用件を切り出そうとする。


「あらぁ、何かしら? 帰ってくるからご飯をお願いって事ならリクエストは聞くけど」

「実は、メアリーという子の話なんですけど」

「いいわよ」

「はい、実は……って、えっ!?」

「話はお父様に通してあるから連れて来ていいわよ。パラソルの会長にも話はしてあるから」


 何が起こっているのか分からない。私は諾子さんに四季咲しきざきと交渉して、メアリー嬢の来洲(八洲入り)を安全なものにして欲しいと半ば無茶なお願いのつもりだった。


 本来なら四季咲のお姫様として君臨していたはずなのに、それを捨てて古森沢に嫁いで来て、私にも同じ古森沢だからと言ってくれた人にだ。


 恐らく四季咲に要求を通すことはそこまで難しくなかったのだろう。あのクソジジイは諾子さんにはとことん甘いからね。それでも抵抗みたいなものはあるはずだ。


 いやまあ薔薇連隊ローズレジメントやら勝手に使ってるみたいだから今更だったりするのかもしれないけど。よく考えたらメイも四季咲の人間だよね。


「何も言わなくても分かってるわ。大丈夫。あなた達は身一つで帰ってくればいいの。あなたは安心して王子様に嫁いで幸せに暮らして……」

「いや、あの、それも違くて」


 私は諾子さんにファハドさんの婚約者になった経緯を説明した。諾子さん的には、タケルの友人である裕也さんに見初められて、婚前旅行に豪華客船に乗ったら、そこにいた王子様にも一目惚れされて、裕也さんと王子様の一騎打ちの末にナジュド王国に嫁入りする事になった、みたいなストーリーが頭にあったそうな。それはドラマチックですこと。でもまあ見方を変えればそう思われても仕方ない状況にあったという事か。いや、鷹月歌たかつか欺瞞きまん工作をしていた可能性もある。


 ともかく、諾子さんのお陰で八洲での安全は確保されたみたいなので、いざ、八洲への帰途へとついた。さらば、暑かった国、ナジュド王国よ。あ、いや、ファハドさんの奥様方からは本当に四人目にならないかって誘われたりしたんだけど。まあ四人目はそのうちいい人みつかりますよ。


 帰りはナジュド王国のチャーター機で送ってくれた。ラティーファさんがついてきたからあれって思ったけど、チャーター機は王国の偉い人が乗らないと飛ばせられないらしい。ちなみにラティーファさんが来たのはジャンケンの勝者だからだそうな。


 飛行機の中は快適で、しばし微睡んでいた。あれだけ寝てたのにまだ眠いのかとジョキャニーヤさんには呆れられたけど、私は一向に構わん。


 空港に降り立つと赤いカーペットがひかれて、ラティーファさんが優雅に進んで行く。あれ? そのまま帰るんじゃ? あ、八洲を視察する? そうですか。


 駐車場まで進むと、黒服の男たちが寄ってきた。裕也さんが前に出る。向こうにいた黒服が一斉に跪いた。


「出迎え、ご苦労」

「はっ!」


 そこにいた裕也さんはタケルのお友達のどことなくなよっとした筋肉の足りない男じゃなくて、帝王としての気を纏った男だった。惚れ直したかって? いやいや、好みじゃないし、そもそも惚れてもいない。メアリー嬢の目はハートになってるけど。


「メアリー、こっちへ」

「はい!」


 裕也さんのエスコートでメアリー嬢が車に乗る。そしてドアが閉まった。あれ? 私たちは? というかジョキャニーヤさんを置いていっていいの?


「君たちは次の車に乗ってくれ。メアリー嬢と話があるからね」


 裕也さんがそう言うと次の車が運ばれて来た。私、アンネマリーさん、ジョキャニーヤさん、ラティーファさんがそこに乗り込む。って、ラティーファさんもここに乗るの? 普通国賓としてなんかいい車に乗るとかじゃない? 一緒でいいの?


「私は一応お忍びだもの。構わないわ。さて、どこに連れて行かれるかのか楽しみね」


 ラティーファさんがころころと笑う。そういえば私たちはどこに向かっているんだろうか。諾子さんの家では無さそうだ。


 着いたのはなんかすごい豪邸。壁が鏡面装甲というのだろうか。中が見えない。裕也さんが降りて、メアリー嬢がなんかボーッとしてる。車の中で愛でも囁かれたのだろうか。


「ようこそ、皆さん。こちらが我が鷹月歌たかつかの本邸です」


 家なの、ここ? どう見ても最先端の技術を駆使して作られた高層ビルにしか見えないんですけど? まあラティーファさんを迎えるにはこれくらいしないとダメなのかもしれない。いや、私たちは先に諾子さんの居る家に帰りたいんだけど。

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