根回(episode126)
描写はなかったのですが、アンネマリーさんはいたのです。通訳してました。占い師との話が通じたのもそのお陰です。
なんで裕也さんが慌ててたかというと、「私とジョキャニーヤがボディガードを倒してメアリー嬢を誘拐した」と吹き込んでいたらしい。おいおい、あの勝負は納得済みじゃなかったの? というかストップも無しにジョキャニーヤさんが暴れたら死人は出るはずなのが分からないかな?
あ、黒峰さんは私が居たからそういうことじゃなくて連れ出してくれたんだろうと理解していたが、どうもメアリー嬢の事になると理性が働かない裕也さんが思いっきり慌て出して、あわやエージェントを総動員して探させようとしてたらしい。黒峰さんが止めてくれて本当に良かった。
で、今、裕也さんが何をしているのかというと、黒峰さんに正座させられて怒られてます。いや、怒られるのは私の方じゃないかな? メアリー嬢を連れ出したし、と思ったら、メアリー嬢は外に出かけることを自ら望んでいたのでそれには当たらないそう。
あ、メアリー嬢ですか? まだオーバーヒート状態です。頭にタオル載せて冷やしてるけど、なかなか治らないので少し私も周りの温度を下げ気味にしている。
ついでだし、裕也さんに、メアリー嬢の八洲行きの事を伝えてみた。性格には、ジョキャニーヤさんが私について来て八洲に行くから、ジョキャニーヤさんをボディガードにしたメアリー嬢も行く事になったという話なんだけど。
「メアリー嬢が八洲に!? いや、でも、まあ、ありではある。いや、しかし、八洲はまずい」
「何がまずいんですか?」
「八洲にはロリコンが多すぎる。タケルも含めてな!」
あの、えーと、ロリコンは多分どこにでもいると思う。なんなら異世界にもいるよ? 年端のいかない下級貴族の娘を年齢一桁からお嫁入りさせようとしてる馬鹿とかいたもん。……身内の恥だから兄上の名前は出さないでいてあげよう。
「ロリコンの筆頭がメアリー嬢と婚約してるんだから説得力はあるよね」
「ぼっ、ぼくは、他の幼女にはそこまで興味無いぞ? メアリー嬢だから好きなんだ!」
「その言葉はメアリー嬢が起きてる時に言ってあげてくださいね」
聞こえてるのかどうかは分からないが、メアリー嬢は未だに夢の中である。周りの気温は高いが、メアリー嬢の周りは冷やしているので快眠してるんだろう。
「大丈夫。メアリー様は私が守る」
「ジョキャニーヤさん、襲ってきてないのに殺しちゃダメですよ?」
「? 先手必勝が一番早い」
「それやったら強制帰国になりますからね」
「むう、それは困る。わかったなるべくなら死なないようにする。大丈夫。死なない程度に痛めつけるのも得意」
なんにも大丈夫じゃなさそうな単語が聞こえたけどスルーしておこう。私には関係ないよね!
「ティア、君に頼みがある」
「なんでしょうか裕也さん」
「メアリー嬢の為に、四季咲に連絡を取って欲しい」
「あれ? 鷹月歌が何とかするんじゃないんですか?」
そう聞くと裕也さんは苦虫を噛み潰した様な顔をした。そしていやいやながらも説明してくれた。
八洲の国内では、鷹月歌は確かに八家の筆頭家として君臨してるけど、一枚岩になってる訳じゃない。何時でも取って代わろうとしてる奴らがいる。それは四季咲なのだと。
お金の流れを握る四季咲はその資金力で私設軍隊や諜報機関まで手中にしている。伽藍堂みたいな単なる暴力装置ならいくらでも抑え込めるが四季咲は無理なんだと。
あと、古森沢や十条寺も厄介だが、どっちもトップが野望を持ってないから大丈夫なんだと。
「四季咲さえ抑えればメアリー嬢に手を出そうとする奴らは居なくなる。いや、米連邦の奴らは別だけど、八洲で表立っては活動してこないだろうから」
まあ、メアリー嬢がある程度狙われるというのは仕方ないことだと思ってるし、覚悟はある。でも、四季咲に話を通したいなんてどうやって……あ、タケルと諾子さんか。
「裕也さんがタケルに直接言えば?」
「タケルは……ダメだ。タケルに言って四季咲に口出し出来なくさせることは簡単だと思う。でも、それをやるとタケルが四季咲の次期争いにエントリーし直した事になってしまう」
あー、タケルが四季咲の次期トップの座を捨てたのを裕也さんは尊敬してたもんな。そんな彼を四季咲に再度かかわらせるのは良くないと思ったのだろう。
いやまあ、それならそれで私が諾子さんに頼むのと何が違うのかと言うんだが、諾子さんの場合は「お姫様」だから多少の無茶は言っても通るらしい。そもそも四季咲から古森沢に嫁いでるのだから今更四季咲に離婚して戻るなんて有り得ないだろうということでやりたい放題出来るんだって。いや、でもおじいちゃんが戻したいとか言ってなかったっけ? あー、まあ親バカってやつか。血筋だなあ。
「わかったよ。そらなら私から諾子さんに言ってみる。あと、出来たら通訳でアンネマリーさんを借り受けたいんだけど」
買い物に行った時も陰のように通訳の仕事をこなしてくれたアンネマリーさん。いや、私が居れば通訳とか必要なかったんだけど、八洲では四六時中一緒に居るとか出来ないからね。バイトもあるし。
「ああ、彼女なら妖世川から出向という形にしてあるから問題ないよ。ぼくも誰か通訳兼妖世川の人間を付けなきゃと思ってたからね」
私としてもアンネマリーさんなら問題は無い。というか心強い。これで本人の確認が取れれば大丈夫だよね。
「アンネマリーさんはどうですか?」
「八洲でメアリー嬢のお世話? お酒飲んでいいなら引き受けるよ」
うぉい! いや、アンネマリーさんはそこまで酒乱ではないけど定期的にお酒を摂らなきゃいけない体質なんだとか。絶対嘘だよね? メアリー嬢が本気にしたらどうすんのよ。
で、私は八洲に居る諾子さんのところに電話を架けることに。ワンコール、ツーコール、電話に出た。
「あらあらあらあら、ティアちゃんじゃない。どうしたの? どうしたの? 寂しくなっちゃったのかな? 私もね、みんなが帰ってこないから寂しくなっちゃってね。メイと枕を濡らしてしくしくしてたのよ。それで、花嫁になったって聞いたけど、王子様は優しくしてくれたのかな? 詳しく教えて欲しいなあ」