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第百二十五話 奴隷

この世界の奴隷制度。

 私に近接戦闘の心得はないけどかわすだけなら得意だね。回避というのは相手の武器の届く間合いを見極めて、それに当たらないように方向を見て動くこと。もちろん避けるにはスタミナと回避に使う敏捷性が必要なんだけど。あとは見切りの正確さだね。指一本分リーチを延ばしたりする技とかあるらしいし。虎眼流の流れとか。


 私? もちろん修行とかそういうのしてないからそういう技術はないよ。でも、私には転移テレポートで鍛えた空間把握能力と、転移による回避っていう反則技がある。遠くに跳ぶのもセンチ単位で身体をずらすのもあんまり変わらないしね。


 まずは三人。こっちに向かってきたから私は当たるか当たらないかくらいの間合いで身体一つ分だけ後ろに跳ぶ。相手もバカじゃないからかわされた時のことを考えて体勢を崩すような事は……あれ?


 ああ、まあ、剣の心得とかないのね。三人がそれぞれその場に倒れ込む。後ろからはお頭の怒声が飛んだ。


 続けて矢が降り注ぐ。って、ここにお仲間いるけどいいの? 弓矢、というのは遠距離兵器だ。ウィリアム・テルとかロビン・フッドとか源鎮西八郎為朝とか那須与一宗隆とか李広とか花栄とかの弓の名手ならまだしも、大体は斜め上に撃って、浴びせるという飽和攻撃みたいな使い方が一般的だろう。なんとかなれーみたいな。しかし、弓の名手って洋の東西を問わず、色々居るよね。


 もちろん、私の頭の上に降ってきてるこの矢の雨は障壁バリアを上に展開すれば防ぎ切れる。何せ、一発一発の威力はそこまで強くは無いのだ。強弓とか呼ばれるやつなら貫通するかもしれないけど。


「おい、誰か様子を見に行け!」


 お頭が私の安否確認、いや、状態を確認しようと近付いてくる。いやまあ普通ならあんなに矢が降り注いだら一溜りもないけどさ。


 私はこそっと転移して、お頭の後ろの方に立つ。全員が前にいるはずの私(残像だ)に釘付けになってからか、お頭の背後にまで気を配るやつは居ない。えっ、残像にもなってない? ま、まあ、それは気分的なものだから。


 私はお頭の後ろから近付き、肩に手を置く。違和感を感じたお頭は振り向き驚愕する。


「てっ、てめぇ! どっから」


 転移。場所は適当に森の中。お頭はバランスを崩して転けた。深い森の中、あなたと私の二人きり。さあさあ、お話ししましょうか?


「ねえ、あなたがボスなの?」

「そ、そうだ。貴様、どうやってここまで逃げてきた?」

「それを知ったところであなたには何も出来ないし、どうしようもない」

「ぐぬぬ」


 転移してきましたとか話してもそれに対抗する手段なんかある訳ないじゃん。ジャミングなんてやってくるやつ居ないだろうし、そういう機械も有り得ない。


「なんで私を攫ったの?」

「金になるからだよ。身体的なプロポーションはともかく、丈夫そうだし、見栄えもいい」

「私で満足しなくて若夫婦まで手を出そうとしたのは?」

「へっ、あの村長が隠しやがったから見せしめだ」


 どうやら本当に村長が悪いらしい。というか私を差し出してでも守ろうとしたのは正解なのか?とも思う。まあ若夫婦が攫われたら、旦那の方は殺されちゃうだろうからなあ。目の前で妻を奪われながら殺される。うわー、私、NTRネトラレって苦手なんだよね。NTRナリタトップロードなら好きなんだけど。


「て、てめぇ、は、一体、何モン、なんだ?」


 息を切らせながらも手に刃物を持つお頭。どうやら武の心得はあるみたいだ。他の奴とは構えが違う。いや、グスタフさんとかテオドールと比べたら天と地の差だけど。比べる方が失礼か。


「私? 単なる通りすがりの異邦人だよ?」


 嘘は言ってない。というか、本当に異邦人べつせかいのひとなのだから。まあでもこの世界でもだんだん慣れてはきたよ。お友達も出来たしね。そのお友達みたいな人の為にここまで出張って来てるんだけど。


「ち、ちくしょう!」


 鋭い剣撃で私に斬りかかってくる。私は念の為に半歩多めに回避する。私のすぐ横を剣が通り過ぎて……


「もらった!」


 縦に通り過ぎたと思ったら横薙ぎの斬撃を叩き込んできた。普通にかわしたら間に合わない。跳んでもいいけど、ここは……


 私は障壁バリアを展開して手のひらで掴むように受け止める。衝撃は伝わってこない。私の障壁は優秀ですなあ。


「なっ!?」


 お頭から声が漏れる。私はそのまま剣を叩き落として、腹に蹴りを入れる。つま先はきちんと障壁でコーティングしてあるよ。


「ぐほぉ……」


 腹を抑えて蹲るお頭。さて、それじゃあ色々吐いてもらいましょうか。私は相手の下半身を地面に固定する。大丈夫、痛くないからね。


「さて、じゃあ聞きたいんだけど」

「なんなんだよ……くそ、ここまでか」

「あんたたちは成人男性は取り扱った事ないの?」

「そりゃあ別のやつらだ。俺たちの規模じゃあ女子どもを狙うので手一杯だからな」

「じゃあ成人男性は誰が?」

「奴隷商のミンチル商会だ。バカでけえ奴隷商で、王都の貴族が多数世話になってる。下手な貴族よりも始末に負えねえ」


 ミンチル商会か。じゃあまあそこの商会に行って交渉するとかは出来なさそうだなあ。第一、奴隷って。この国奴隷制度があるの?


「戦争奴隷と犯罪奴隷だな。一応借金奴隷ってのもいるが人権がどうとか眠たい事言われるからな。あんまり人気はねえよ」


 どうやら借金奴隷は借金のカタに働かされるという昔の八洲の丁稚奉公みたいな感じらしい。借金を返せば元の地位に戻れるので、虐待はしないようにと見張られてたりする。


 犯罪奴隷は刑罰の代わりに労働で刑罰とされる。基本的に刑期が明けるまでは解放されないし、重い命令でも刑罰の一部だから何も言われない。


 戦争奴隷は他国との戦争で仕入れてきた捕虜である。身代金を払えれば釈放されるが、だいたいは身代金を諦められた人達である。解放されるには国が亡びるとかしかないと思う。


 下手すると私も奴隷になってたかもしれない。グスタフさんに感謝しなきゃね。

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