第十三話 地下
地下室はロマン
廊下をしばらく歩いていると前から衛兵が歩いてくる。こういう時、ダンボール被ったら見つからないのになあとか思いながらそもそもダンボールがこの世界にないことに気がついた。
「透明化!」
頑張ってみたけどやっぱり何も起こらない。いや、平時はともかく、ピンチになったら能力発動したりしないかなあって。
どうやら見廻りのルートがこちららしく、段々と近寄って来る。これはまずい。このままだと見つかってしまう。私は咄嗟に空中に転移して、落ちようとする身体を念動で固定した。
衛兵たちが通り過ぎてから、念動でなくても障壁で足場作れば良かったんじゃないかと気付く。でもまあ、失敗したら障壁がそのまま落下しちゃうかもだもんね。
慎重に透視を使いながら廊下を進む。隠し階段とか無いかなとか思ってるけど、一向に見つからない。
書斎のような場所があった。だいたいこういうところに地下への隠し扉とかあったりするんだよね。そう思いながら本棚を眺めていると、空洞になってるとこがある。穴は下に向かっている。
よし、見つけた。喜びに思わず飛び跳ねそうになったが、自重して下に行く階段に辿り着くための仕掛けを探す。恐らく本棚が動いたりするんだろう。
まあ色々と面倒な手順を取る場合もあるけど、この場合はきっと大丈夫。頻繁に出入りする部屋だろうからね。
どれかの本を動かしたら本棚がごごごと音を立ててズレて地下へご案内みたいになるだろう。
いや、待てよ? 私、今潜入中なんだから、音立てたらまずいじゃん! という事は音がしないように動かせってこと? ええと、ロウソクってもってたっけ?
ああでもない、こうでもない、とか思ってると誰かがこの部屋に近寄って来る。まずい、ここで見つかったら全てが水の泡だ。
私はなんでもいいからと転移を発動。転移先は地下の階段がある小部屋。本棚の裏だ。あー、初めからこうすれば良かったのか。苦笑いを浮かべながらそのまま下に降りて行く。
階段はとても暗い、おそらく一本道だろうから迷いはしないんだろうけど。このままだとまずいなあと思いながら発火で火を出す。小さな火だが、ふたつ合わせれば大きな炎になるんだけど、今必要なのは明かりだからそれなりでいい。
発火した炎を浮かせて明かりにするってのは出来ないので何かに点火したいところ。自分の荷物はそこまで持ってないから庭に戻って落ちてる枝を持ってきた。
再び下に向かおうとしたら上から誰かが降りてくる気配がした。いや、気配というか喋りながら降りてきてるんで丸わかりなんだけど。
「クレリバンの奴が捕まったというのは本当か?」
「はっ、真偽の程は分かりませんが、店から突然居なくなったとか」
「それだけならば捕まったとは言えまい」
「いえ、氷の魔女や英雄アリュアスの居る冒険者ギルドですからな」
「ラルフのヤツめ。もっと早く情報を寄越せばいいものを」
えっ、ラルフってあの副ギルド長? もしかして冒険者ギルドに潜入してるスパイって事? いやああのマッチョな感じ見てたらとてもじゃないけどそういう仕事が出来るようには思わないんだけど。
私は急いで下に降りる。走ると足音が鳴るので短距離転移を繰り返しながら降りる。それでも普通に歩いて降りるよりは速いのであっという間に下に着いた。
地下は思ったほど臭くなかった。こういうのってだいたい酸っぱい臭いがするものだと思ってたんだけど。むしろフローラルな臭いがする。
しばらく通路を歩くと道の両サイドに鉄格子の嵌められた部屋がある。一つ一つに私よりは幼いくらいの女の子が入れられていて、中には絨毯らしきものが敷かれていた。
女の子たちは綺麗な服を着ていた。もしかしてこの子たちは……そう思いながら更に先に進む。すると、そこには分厚い扉があり、男が二人見張りをしていた。
「だ、誰だ、お前は!」
しまった。女の子たちに気を取られて人がいることに気が付かなかった。男たちは腰に剣を装備していて、迷うことなく、それを抜いた。
一人が斬りかかってくる。私は咄嗟に障壁を展開してそれを防いだ。危ない、と思った時にはちゃんと発動してたので助かった。
「なんだこりゃ!? おい、気を付けろ、こいつ、変な魔法を使うぞ!」
「ちい、こりゃあ応援呼ぶしかねえか!」
そう言いながらもうひとりが笛を吹こうとする。吹かせるか! 私は転移して笛を奪った。咄嗟の行動だったのでそのまま落下する。驚愕していた男たちは私を呆然と見ている。
「念動」
狙うは男たちが持っている剣! それを操作して思いっきり顔面にぶつけてやった。ガシャン、という大きな音がした。
「何の騒ぎだ!」
どうやら地下まで来たのか後ろの人たちが駆け足でこちらに向かってくる。私は転移で分厚い扉の向こうへ跳ぶ。
「なっ、なんだ、お前は!」
私が跳んだ先には痩せ細った男の子が数人、そこに居た。もしかしてここは男の子の方を捕まえておくための?
「また『出荷』なのかよ! 今度は誰を連れて行くつもりだ!」
憎しみの籠った目をこちらに向けてくる。どうやらこの男の子がリーダー格みたいだ。他の子たちは部屋の隅に逃げて震えていたり、リーダーの子の後ろに隠れたりしている。
「あー、その、私は冒険者ギルドから来たもので、怪しいものではないんだけど」
「嘘を吐くな! 代官の屋敷に入り込める冒険者なんているものか!」
なんか疑われてる。ううん、これはどうしよう。この子たちを信用させるだけのものが無い。
「あー、ごめん。証明は出来ないから信じてとか言えない」
私の言葉に男の子は黙った。下手に信じてもらうようにしなかったのが良かったのかもしれない。
「今すぐは連れ出せないけど、必ず迎えに来る。それまで待ってて」
ガチャリ。重い扉がゴゴゴと開く。そこには筋肉隆々の貴族風の男と執事風のメガネ、せむし男みたいな奴が居た。