第百二十四話 逆襲
この子の使える超能力は、転移、治癒、念動、透視、鑑定、発火ですね。あとは念動の応用の障壁。抜け漏れがあったらごめんなさい。
そこに溜まってた奴はひーふーみー……たくさん。割と部下は多かったらしい。まあ村を襲おうとか考えるくらいだからそれぐらいはいたりするよね。
もちろん、私一人ではどうにもならないから一人ずつ削っていく事にする。まずは群れを離れたバカから。あっ、用を足すんですね。うぇ、ばっちい。まあ小の方で良かったよ。デスストライク。それは念動で塊を作って急所にストライクする技。男は悶絶。
「おごぉ!?」
凄まじい声が出たみたいだ。声の調節が出来ないのはこの技の弱点だ。サイレンスキリングには向かないね。
「なんだなんだ?」
「なんの騒ぎだ?」
「何が起こった?」
三人ほどが様子を見に来たらしい。下半身を露出して気絶してる男を見つけて眉を顰めることもなく、辺りを警戒している。なるほど、なかなか訓練されているようだ。
私はそのうちの一人の肩に手を置いた。一番後ろに位置していたのがあなたの運の悪さ。そしてそのまま転移。目的地は空中五メートル辺り。打ち所が悪ければ死んじゃうかもだけど、知ったこっちゃない。
「うわっ!? なんだ!?」
「バイバイ」
私は肩に置いた手を離して地上に転移する。男は情けない悲鳴をあげながら落ちていった。
「なんだ、今のは!」
「おい、バーツの奴が居ねえぞ?」
「なんだって!? まさか」
どうやら空中にさらったやつはバーツという名前らしい。いや、名前とかどうでもいいんだけど。じゃあ次だ。
「ひいいいいい!」
「サジ!?」
スマートな方の男の肩に手を置いて再び転移。空中でこれまたリリース。キャッチアンドリリースは釣り人のマナーですよ。いや、私別に釣り人じゃないけどね。
「くそ、こうなったらお頭に報告しねえと」
どうやら最後の一人は頭の回転が悪くなかったみたい。不測の事態にお頭とやらへの報告を優先したみたいだ。でも、だーめ。に、が、さ、な、い!
転移で目の前に現れてやる。驚いたのか、そのまま尻もちをついた。私は立てますか?と手を差し伸べる。思わずその手を取る男。はい、転移!
空中に行ったことであたふたとしているから手が離れてしまった。あー、これは仕方ないよねー。そのまま落ちて?
三人の悲鳴を聞き付けたのか、更に十人くらいがこっちにどやどやとやってきた。うーん、これは撹乱のチャンスかな。私は転移でお頭たちの近くに移動する。
お頭の周りには数人の男たちが騒いでいた。お頭の横にはそこそこな美人さんが侍っている。無理やりさらわれたのかどうかは分からない。手足には枷がついている。ありゃ、被害者確定かな?
「おい、酒だ、酒を持ってこい! くそ、なんなんだ、騒ぎやがって。さっさと村を襲って新しい女を仕入れたいぜ」
このお頭は私には興味なかったようだ。いやまあ、隣に侍ってる女性が二人とも豊かな胸の持ち主だったから納得はいくんだけど。
私は転移でその男の前に顔を出した。
「こんばんは、いい夜ですね」
「はっ? なっ、なんだテメェは!?」
「あれ? さっき顔合わせたじゃないですか。もう忘れられましたか? 確かにおっぱいは大きくないですけど」
「おめぇ、マリナーズフォートに売りに出した……買い手がつかなかったのか?」
大変失礼な事を言ってくれる。私を買おうと思ったら目の前に億単位の札束を置くことだよ! あ、この世界に紙幣は無いか。
「売られるのは好きじゃないから逃げ出してきたよ」
「バカどもが。簡単に逃げられやがって。まあいい、それにも増してわざわざ戻ってくるお前のような大バカがいるからな!」
「私が戻ってきたのは村を襲うと聞いたからだよ」
それを聞いたお頭は思わず笑ってしまったようだ。一頻り笑ったら下品な笑みを浮かべて私に言った。
「バカだバカだと思ったらとんでもねえ大バカものだな。お前、あの村の村長がお前を売ったの聞いてたんだろ?」
「ええ、もちろん。だから村の為じゃないよ。あの若夫婦のためだから」
「へぇ、他人のために怒れる人間ね。長生きしねえぞ?」
「そうかもしれないね」
お頭は手に斧を持った。どうやらメインウエポンは斧らしい。斧なら剣が有利取れるよ! 槍は不利! いや、どっちも私の装備じゃないけど。
「ぐへへへ」
いやらしい笑いを浮かべる。カキン、と何かが足元に転がった。これは、先端の部分が何かで濡れた矢? 狙撃か! 私は周りに障壁展開してるから大丈夫だったけど。
「おいおい、今どうやって矢を防いだ?」
「企業秘密だよ」
「企業ってなんだよ」
そうか、そもそも商会とかはあるけど企業とかないんだ。まあ説明する義理もないんだけど。
「くそ、お前らやっちまえ!」
お頭の号令で二十人近い男たちが近くに潜んでいたらしい。周りは囲まれている。逃げ場がない。人類に逃げ場、なし。だよ。
一斉に飛びかかってくる男たち、飛び道具はもうないみたいだ。まあ乱戦だもんね。矢を無駄に消費するよりかは殺到してボコる方がいいだろう。
もちらん、そんなのに当たるほど私はお人好しではない。これでも四凶と接戦を繰り広げたんだから。いや、まあ、倒せたのは私の手柄じゃないけど。
徒手空拳では技の威力もそんなにない。犯罪者だからといって捕まえなければ裁判に掛けたり断罪の刃を振り下ろしたりは出来ないのだ。おーい、清秋谷さん、仕事してよーって無理か。
いや、街中なら衛兵や騎士がいるんだけど、この辺りでは巡回とかない限りは自己責任だ。よく考えるとこんなところで村なんてかなり苦労してるよね。もちろん許す訳では無いけど。
「鑑定」
私は地面に落ちてた剣に鑑定をかける。これである程度の使い方は分かるようになった。まああれだ。どれくらいの強さでどれくらい刺したら死ぬかってやつだ。私は殺すことに躊躇は無い。そういう教育をされてきたからね。
「さて、それじゃあちょっとやってみようか」
私の剣技がどれほど通じるのかは分からないけど、やれるだけやってみるよ。ダメなら……奥の手かなあ。