買物(episode124)
各人の服装は頭の中で補完しておいてください(笑)
カウントスリーは必要なかったみたいでリーダーはそのまま気を失った。私は高らかに拳を天に挙げる。我が生涯に一片の悔い無し!ではないけど。
「さすがティアお姉様ですわ!」
メアリー嬢がはしゃぎながら手を叩いている。あー、まあ、そういえばメアリー嬢とのお出掛け権を賭けた勝負でしたね。
「ジョキャニーヤも強いのね。安心したわ」
「これくらいは朝メシ前」
「安心して、私は依頼料をケチったりなんかしないわ」
「そこは信頼している」
さて、という訳で我々三人で買い物に出掛けた訳なんだが。まずは腹ごしらえ、ということで食事処に。世界三大料理というものがある。ガリア料理、支那料理、そしてアナトリア料理である。地理的にアナトリアが近いこの国ではアナトリア料理の店が多く存在する。
八洲にはガリア料理と支那料理の店は多いのだが、アナトリア料理は珍しい。いや、私がいつもお世話になってるのは安価なロマーノ料理のレストランなんだけど。千円でたっぷり食えるお得さ。
私たちはその辺のレストランに入る。メニューは何やら羊の肉が多く使われてるらしい。まあジョキャニーヤにはいつも食べてるのと代わり映えのないものかもしれないが。
「お肉、久々に食べる」
「あれ? ジョキャニーヤは王宮で良いもの食べてたんじゃないの?」
「私の食事は部下たちにあげた。私はその辺の草でも大丈夫」
マジかよ。あー、きっと解放闘士のリーダーの責任感ってやつか。
「安心してください。前も言いましたが部下の方々の衣食住はパラソルグループが保証しますわ」
「恩に着る」
あー、それでジョキャニーヤさんは護衛の話を承諾したのか。まあ世の中お金、それも胃に直結する状況ならば尚更だね。人はパンのみにて生きるにあらず、とは言ってもパンすらなけりゃそんなことも言ってられないもんね。衣食足りて礼節を知るってやつだ。
「まず私が毒味をする」
ジョキャニーヤさんがメアリー嬢の前に置かれた料理を確かめる。うん、私が解毒してもいいんだけど。あ、毒は入ってなかった? そうですか。まあふらっと入った店だもんね。
ちなみにそんじょそこらの毒ではジョキャニーヤには効かないように訓練されてるんだって。前にキューもそんなこと言ってた様な。
「ありがとうジョキャニーヤ。それではいただきましょう」
運ばれてきた肉の塊を切り分けて食べる。よく考えたらデカい塊を切って三人で食べるんだから別に毒なんか仕込まないでしょって思うんだけど、そうでも無いらしい。おお、怖。
肉だけかと思ったら魚も出てきた。なんか詰められてる。いや、料理自体は美味しいんだけどね。
デザートのヨーグルトまで食べておなかいっぱいになった。次は服を買いに行く。その前に食べ過ぎたのでちょっと食休みをしよう。店の人には申し訳ないけど、笑って許してくれた。
レストランを出て、ショッピングモールに着いた。私たちは両脇のショーウィンドウを眺めながら、あの服がいい、この服がいい、などと意見を出し合った。
ジョキャニーヤは分かりやすく、動きやすい服。機能美を重視している。試着した時も肘の動かし方とか、腰の回し方とかチェックしていた。ファッションには一ミリも関係がない。
メアリー嬢はヒラヒラした服が好きそうだ。特にフリルなどの装飾過多なものを好む。いわゆるロリータファッションというやつだろうか。貴族の社交服に似てはいるけど、ここまで手を掛けるか?って思ってしまう。
私の好みはそこまでない。なんなら体型が隠れるような服の方が好きではある。出歩くとおっぱいに視線が集まったりするからね。ゆったりした服がいいのだ。
さて、この三人が揃ったらどうなるか。買い物で入る店が決まらない。これだ。もちろん、ジョキャニーヤも私もメアリー嬢の好きな店に行こうと言ってしまうのだが、当の本人が私たちの意向を尊重しようとする。
特に、私だ。私にロリータファッションを着せようとしたり、逆にぴっちりした身体にフィットする服を着せようとしたり。そんなにおっぱい大きいんですから、見せつけないと勿体ないですわ!なんて言われてしまったりする。
あ、ジョキャニーヤさんはロリータファッションは着ないと固辞した。護衛が出来なくなるからだって。まあフリルを翻しながら護衛というのもシュールな図ではある。メアリー嬢は残念そうにしていたが。
というか、ロリータファッションなら私よりも凪沙に着せるべきだ。あの子は可愛い服いいなあとか言いながら、私には似合わないもんねなんて諦めちゃう子だから。
よし、八洲に戻ったらメアリー嬢を凪沙と会わせよう。裕也さんとタケルも仲がいいんだから、その婚約者たちが仲が良くても構わないよね? えっ、凪沙はタケルの婚約者じゃないって? 何を今更。本人たちが認めなくても周りが認めてるっての。
たくさん服を買ってしまってどうやって持って帰るのかと思ったら送って貰うんだそうな。まあ買い物袋持ってお店巡りはしないよね。
私たちが服屋を周り倒した後に、ふと路地裏で占い師に呼び止められた。「そこのお嬢さん方、占ってみないかね?」ってさ。私としてはこの世界の占い師の実力も見ておきたかったんだよね。
ほら、私らの世界の占い師って、割と水門の魔法使いが多かったから。水鏡に未来を映すとかそんな感じ。もっとも、ある程度の制限は掛かるし、ぼんやりとしか映らなかったりするんだけど。
まあ有力な占い師なんて国に召し抱えられるに決まってるから街中の占い師はそこまで能力ないと思うけどね。まあ、私も、少しくらいなら出来るし?
メアリー嬢はウキウキしながらお金を出して、「わ、私と裕也さんの相性を占っていただけませんか?」なんて言ってる。いや、占わなくても相性はバッチリだと思うよ。
「うむむ、行く手に暗雲がたちこめておるようですな。なかなかに厳しいかもしれません」
沈痛そうな声音でそう言った。いや、どう見てもラブラブだったぞ。その言葉にメアリー嬢は泣きそうになってる。