第百二十三話 連行
魔力に反応して首が締まるからどんな歴戦の戦士も、どの門派の魔法使いもイチコロです!(超能力に効くとは言ってない)
薄い布団の中でじっとしていたらドアがガチャガチャと音を立てた。宿屋のおっちゃんは……血の臭いがしないから多分大丈夫。
「はい、開いた」
「全く、鍵とか要らなかったんじゃねえか?」
「バカ言うな。鍵開けが失敗してたら使ってたさ。まあそこまで難しい鍵じゃあなかったがな」
二人がコツコツと、こっちに歩いて来る。警戒なんて何もしていない。
「で、女は美人なのか?」
「いや、知らねえよ。実際に見た訳でもねえのに」
「まあそりゃあそうか」
「さてさて、美人さんかなー」
「美人だったらつまみ食いすんのか?」
「バカ、お頭に怒られんだろ」
「違ぇねぇ」
どうやらこいつらは「お頭」とやらが怖いみたいだ。だから私には傷をつけられないと思う。まあ万が一があるからねえ。
「おお、おっぱいはちいせえが、顔は整ってんじゃねえか。こりゃあ良い値が付くぜ」
「マジかよ。まあ悪かぁねえなぁさっさと済ませちまおうぜ」
男たちは私に首輪を着けた。魔道具の首輪らしく、私が魔力を使おうとすると、それを吸い取って首が締まるって寸法らしい。いやまあ、私は魔法とか使わないから意味なかったりするんだけど。
えっ、この宿屋で暴れなかったのかって? そんなことしたら宿屋のおっちゃんやおかみさんに迷惑が掛かるじゃないのよ。それに二人程度殴り倒したところで元は断てない。
あー、靴履きたかった。まあ、後で履きに来よう。裸足なのは季節とゲンだけで十分だよ。足の裏に石が食い込むのは嫌だから薄く障壁を張っておいた。だから足下をよく見ると、私の身体が少し浮いてるんだよね。まあ暗いから気付かれないでしょ。
私以外に「献上」される人は居ないらしい。くたびれた男たちは盗賊に囲まれて剣を突きつけられて震えてる。私と目が合ったので、助けを求めるような視線を送ってみた。うん、即効で目を逸らされたよ。
「お頭、連れてきやしたぜ」
「どれ? ふむ、悪くない。貴族の子女って言われても納得する顔立ちだ」
お頭と呼ばれた人間が私の顎を掴んで上を向かせる。ハゲではなかった。もじゃもじゃではあるが、○ザエさんでは無い。天然パーマ気味だが顔全体が四角くてそれを和らげてる印象がある。ヒゲもない。綺麗に剃ってあるみたいだ。
「よし、村長。また来るからな。こいつは貰っていくぞ」
「はい、何のお構いも出来ませんで」
「良いってことよ。またよろしく頼むぜ」
「はい、入荷したらご連絡致します」
妙にタイミングよく盗賊が来たもんだと思ったら村長が引き入れていたらしい。なんてこった。
「よし、てめぇらはこいつをマリナーズフォートに連れて行け! 今ならまだ出荷に間に合うだろうから高く買って貰えるぞ」
お頭の指令で先程の二名に加えてもう三名が付き添いとして私を街に連れて行く事になった。いや、それは振り出しに戻るみたいでやなんだよね。
ある程度進んだところで私は用を足したいと言ってみた。そうしたら茂みの中でしろってさ。まあしゃあないんだけど。ってーなんで二人がじーっとこっち見てるの? 何? 排泄を見る趣味でもあるの? 逃げないように? 有り得ない。
さすがに見られたくないのでそろそろお暇する事にしよう。あ、もちろん用を足したいというのは嘘だからね、嘘。美少女はトイレにいかないんだから! ごめんなさい嘘です。その辺は超能力を使って、ちょちょいと、ね?
私が突然茂みにしゃがみ込んだ。そしてそのまま転移を実行。当然ながら姿は見えなくなる。何処にいるのか、と言うと真上である。
「なっ!?」
「居なくなった!? なんで」
「さっ、探せ! 直ぐにだ!」
ワタワタしてるのが見て取れる。二人で騒いでないで仲間を呼んだ方が効率いいよ?
靴を履いてないのでそのまま足の裏の障壁を使って蹴り飛ばす。フットスタンプは体重も乗るのでダメージは確実に与えられるだろう。重くない、私は、決して、重くないんだからね!
「がっ!?」
「なんだ、と? てめぇ、魔法がなんで」
どうやら私の脱出劇を魔法の賜物だと思ってるかのよう。そうだよね。だいたいは魔法に見えるよね。
潰された男は放置しておいて、もう一人はしばらくボーッとしていたが、やがて私を捕まえる気になったようだ。
「くそっ、なんでこんな、大人しく捕まれ!」
神様は見てないので大人しくは捕まりません。というか創造神という名の神様は多分見てない。部屋でテレビでも見ながら笑ってんじゃないかな?
向かってくる男をひらりと交わす。あ、超能力とかは使ってない。だって動きが直線的なんだもん。
転移して、スネを蹴飛ばす。つま先に障壁を展開するのは忘れてないよ。ガッツリとやったから悶えるといいんじゃないかな。
さて、残り三人がこっち来る前に例のお頭を追わなきゃな。私は転移で来た道を急いで引き返した。ちょうどお頭と呼ばれる人物が私らと別れた道の分岐点まで戻った。
私はそのままお頭とやらの行った方向に転移する。しばらく短距離転移を繰り返すと、お頭らしき人物が五人くらいの男に囲まれて笑いながら何かを飲んでいた。お酒臭いからお酒だろう。歩きながら飲むか? いや、部下たちが周りを固めてるから安心して飲んでんのかな。
「ゲハハハ、街にやった女が戻って来たらあの村襲っちまうぞ」
「はぁ? なんでだよ。あの村は残しとくんじゃなかったのか?」
「ばーか、斥候の言うこと忘れたのか? 馬車には若い女ももう一人乗ってたんだぞ」
もう一人の若い女、それは恐らくは若い夫婦の片割れだろう。見逃してもらった訳ではなくて、報告してなかったらしい。村長め、私を差し出した事で有耶無耶にしようとしやがったな?
「でも、襲っちまうと補充が」
「そろそろ奴隷船も潮時なんだよ。船が出りゃ長らく帰ってこねえ。その間は他で稼ぐしかねえだろ」
まあ潮時というか手遅れというか。騎士団がもう既に奴隷船をガサ入れしてるはずだからね。村は自業自得と思うけど、あの若夫婦は助けたいなあ。