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第百二十二話 村泊

まともな戦闘はそこまで得意じゃないけど、撹乱は得意なのですよ。頑張れ、キューちゃん!


あ、バラライカさんよりはフローレンシアの猟犬の方が好きです。シェンホアさんはもっと好きです。

 ヤッピの父親はとても善人そうな顔をしていた。夜だというのに喜んで使用人たちに食事を作らせ、なんと、お風呂まで用意してくれた。これはありがたい。


 このマリナーズフォートの町は海に面しているから潮風がキツくて、髪とか肌とか風呂に入らないとやってられないらしい。まあそうだよね。髪の毛とかキシキシするのやだよね。


 そういえばアンダーゲートの町にも大衆浴場とかあったんだよなあ。もちろん、アンナの実家の宿屋にも。


 私も入浴させてもらった。湯船にゆっくり浸かるのは貴族の御屋敷だけだよねって思ってたけど、浸かるのはいいなあ。元の世界でも湯船にゆっくりってのはなかったんだよね。シャワーばっかりで。いや、戦闘訓練とか潜入訓練とか能力開発訓練の後とかは汚れるから手軽に使えるシャワーがちょうど良かったんだけど。


 それぞれの子達から元の国の名前を聞いて、それをヤッピに整理してもらって、どの辺の国かを割り出す。ヤッピにはなんで他の国を知らないのよって言われたんだけど、あなたにとって私、ただの通りすがりだからね。ちょっと振り向いて見ただけの異邦人だから。


 港に行ってそれぞれの船の持ち主に国に送り届けてくれるように交渉を持ち掛けた。いくつか金銭を要求されたけど、必要経費と思って私の懐から出しておいたよ。


 というか報奨金が使い切れないくらい貯まってるからね。今回の件も貴族を断ったら金を積まれた。まあ田舎のお屋敷の維持費には使えるからあっても大して困らないんだけど。


 それからヤッピの父親に色んな話を聞いた。女の子を攫ってるのはあの商会だけだけど、労働力として大人を攫ってるのはもっと内陸部の鉱山の辺りに運ばれるらしい。なるほど、鉱夫奴隷か。そりゃあいくらでも人が必要になるよね。


 ヤッピの父親が内陸に鉱山を持っている友人がいるというので紹介状を書いてもらった。ヤッピは「私も行きたい!」って主張してたが危ないから当然ダメだ。その代わりに女の子たちがきちんと帰れるようになるまでの手配をお願いした。ヤッピならやってくれるだろう。


 紹介状を持って、内陸部に進む馬車に乗る。いや、転移テレポートで移動してもいいんだけど、目立つし、詳しい場所わかんないから馬車に揺られることにした。おしりが痛くなるのは嫌だから少しだけ腰や尻と座席の間に障壁を薄く挟んだ。


 馬車の旅は続き、三日で近隣の村に着いた。というか、今までの場所が「集落」って感じで、ここに来て、柵が巡らせてあり、村長もいる「村」となったのだ。売店もある。


「長旅ご苦労さまです。どうぞ、ゆっくりとお休みください」

「あの、ここに大人の男性の奴隷を連れた馬車は来ないんですか?」

「……他の方の事を喋る訳にもいかないのですが、来ているとは申せませんね」


 申せない。来ているのは確定かな? 口止めされているのか、それともこいつらもグルなのか。ちょっと警戒しておいた方が良さそうだ。


 その日は私は宿屋に泊まる事が出来た。私の乗ってる乗り合い馬車には若夫婦と私、そして四、五人のくたびれた男たちしかいなかった。若夫婦も宿屋に泊まるが多分お楽しみになられるだろうね。男たちは馬車を見張っていた。もしかしたら護衛の冒険者なのかもしれない。それにしちゃあ武器とか持ってないな。


 深夜、私の部屋の鍵が回される感じがした。という事は宿屋の人もグルかな? ゆっくりと扉が開いて、入って来たのは宿屋の主人だ。私のベッドに近付いて……来ない? キョロキョロと周りを見回したあと、小声で話し掛けて来た。


「もしかして、起きていらっしゃいますか?」


 あれ? 声掛けて来たら襲撃の意味無くない? もしかして襲撃ではなかった。いやいやいやいや! うら若き乙女(私の事だよ!)の寝室に忍び込んでくるなんて只事ではすまないよ?


「はい、起きてますよ。なんなんですか?」

「夜分遅くに失礼。しかし、事は急を要するのです。人攫いの盗賊たちがこの村にやって来ました。村長はあなたを差し出して見逃してもらうように決めたみたいです」


  なんですと!? いや、そりゃあまあ村長にとって私はただの通りすがりで振り向いてみただけの異邦人……ってそのネタはもういいか。そう、イレギュラーな存在なのだ。盗賊の目的は金目のもの。だけど、村というのは盗賊にとっても補給地点になる。


 つまり、交渉可能な相手なのだ。村での略奪をある程度黙認する代わりに壊滅的な被害を回避する。なるほどね。理解した。まあ村の経済が回ってる理由の一つなんだろうし、逆らわなくていいなら乗るよね。


 そうなると不思議なのは宿屋さんだ。この村で宿屋をやるなら村長には従っておいた方がいいのでは? 逆らってまで私を助ける意味が分からない。


「王都に娘が居るんです。頭のいい子で魔法学院に入学してて。ちょうどあなたと同い歳くらいなので重ねて見てしまって」


 あー、私が娘の身代わりになるみたいに見えたのかな? いや、娘さんなら村のものだから身代わりにならなくても……あ、村から逃がして王都の学院に入れたって事? 魔法が使えるなら盗賊の戦力として徴発されるかもだね。


「私を逃がしておじさんは大丈夫なの?」

「なぁに、部屋に踏み込んだら窓から逃げられてたって言い訳なんかいくらでも出来るさ」


 盗賊たちにそんなおためごかしは通じないだろう。恐らくこのおじさんは……いや、下にいたふくよかなおかみさんまで一緒に……


 やれやれ仕方ない。いくら盗賊と言っても個々の戦闘力はそんなでもないだろう。ここは夜陰に紛れて襲撃して全滅させてやるしかないか。


 完全に目が覚めてしまった。私の安眠を妨げるやつは許さない。とりあえずまずは私は透視クレヤボヤンスを発動する。壁の向こうが見える。窓の外には数人の盗賊が居て宿屋に向かってくるのは二人だ。獲物が私一人って事だからそれで十分と思われてるんだろう。


 私はおじさんを階下に降ろして、ドアに鍵を掛けた。さあ、現刻より状況を開始する。鎮魂の灯明は我々こそが灯すもの。途中省略、奴らのあぎとを食いちぎる!

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