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第百二十話 脱走

キューちゃんには魔法は効きません。

 Q:今のは一体何?

 A:転移(テレポート)ですね


 Q:今の魔法体系では転移魔法なんて実現されてなかったはずよね?

 A:魔法てはありませんから


 Q:みんなを連れてここから出られる?

 A:簡単だと思います


 Q:あなた一体何者なの?

 A:一、誰だ誰だと問われたならば答えてやるのが世の定め。

 二、夜空の星が輝く影で悪の笑いが木霊する。星から星へ征く人の涙背負って宇宙の始末!

 三、呼ばれて飛出てじゃじゃじゃじゃーん。

 好きなのをお選びください。


「ええと、つまり、私たちは全員ここから逃げ出せる訳ね」

「そうなりますね」


 逃げる、だけならばそのまま逃げてしまえばいい。至極簡単な話だ。なんでも魔力阻害の魔法が掛けられているらしい。私には全く関係ない。


 ただ、このまま逃げ出した時に残された馬鹿どもはどうするか。私らはいい。元の国に帰れば済むのだ。そこでまたさらわれたら? それは知らんよ、もう。


 問題なのはヤッピだ。ヤッピはこの街の商人の令嬢だ。つまり、逃げた後もこの街に留まる。そしてこの街で「商品」を失った奴らはその行方を問い詰めるだろう。誰に? もちろんヤッピに。


「それでも構わないわ! 助けられるなら助けるのが一番じゃない」


 などとヤッピは言うが、彼女はまだ捕まるくらいしか体験していない。それは現時点ではヤッピが「商品」だからだ。じゃあ、他の「商品」が無くなったら? 行方を追う為に「商品」が「証拠品」になる訳だ。訓練も受けてない女性が拷問に耐えられるとは思えない。訓練受けてた私でも嫌だもん。


「逃げるのはいいけどそれならこの組織潰さないとなんだよね」

「潰せるの?」

「うーん、どうだろう? 私一人だと無理かもね。でも何らかの介入が見込めるなら」

「それなら私が父を動かすわ!」


 なるほど、ヤッピの父親もこの街の有力商人の一人。伝手はあるということか。そういうことなら。


「ええと、それならヤッピを脱出させるから、父親にここの事を伝えて助けに来て欲しいの」

「あなたが脱出させるんじゃないの?」

「いや、逃がせるっちゃあ逃がせるけどさ。色々後始末とか大変そうだから」


 一人一人をそれぞれの出身国に送っていく? むぅーりぃー。いや、これで終わりなら別にいいけど、私にはまだ助けなきゃいけない、探さなきゃいけない人たちがいるのだ。


「とりあえずヤッピの父親に賭けるしかないんだよね。じゃあよろしく」

「わかった。必ずみんなを助けにくるわ!」


 ヤッピの決心が固まったみたいなので私は転移でヤッピを外に出して、更に父親の商会の近くまで送って行った。そのまま戻ると、食事が運ばれてきた様子。男たちは人数が減ったことにも気付かずにそのまま去って行った。


 食事を見るときっちり人数分ある。これはもしかしてヤッピを脱出させたのが感知されてた? ……いや、違うな。私の分が入ってないんだわ。色々酷いな。


 ちなみに食事はそこまで不味くは無い。最低限の栄養は取れるようになってるみたい。まあ「商品」だもんね。


 みんな食べ終わってお風呂、なんかは当然入れない。身体を拭く為の布すらないから微妙に気持ち悪い。仕方ないから私がアイテムボックスからおしぼりを取り出してみんなに配る。


 温かいおしぼりを顔に当てて泣き出してしまう子もいた。うんうん、まあ分からんでもない。温かいと気が緩むよね。


 食器をさげに来た奴も数の違いもヤッピの事も気付かずにそのまま去っていく。もしかしてあいつらよっぽどのポンコツなのでは?


 とはいえ、ヤッピが来るまでは大人しくしていないといけない。ちょっかいなんて掛けてる場合じゃない。牢の中にいる年少の子は恐らくは年齢一桁台の子だ。中にはヤッピが居なくなって泣きそうになってる子も居る。


 私はその子たちを抱き締める。いや、私の体型では母性には程遠いというのはわかっているんだけど、人肌はそれなりに安心するからね。


 夜も更けてみんなが段々寝静まっていると、外がなんだか騒がしくなってきた。ちょっと転移で様子見。外には衛兵が三十人くらいと、チンピラが数人、にこやかに衛兵を出迎えていた。


「ここに攫われた子どもたちがいると通報が入った。立ち入って調べさせてもらう!」

「何をおっしゃいます。この倉庫は商会の品物が沢山入っております。下手に入って品物が壊れた場合、弁償していただく事になりますよ?」

「弁償だと?」

「そうです。ご存知の通り、我が商会は手広く貿易を行っております。当然ながらこの街では手に入らない物も多数ありましてな。そのようなものが壊れましたら、お待ちになってる諸貴族の方々に申し訳がたちません」


 恐らくは奴隷貿易の顧客にも貴族が居るのだろう。どこの国でも貴族には迂闊に手を出せないのか。まあ世の常だね。


「キャータスケテー」


 私は棒読みにも程がある悲鳴を倉庫のところで上げた。なんか慌ててる感じがする。


「おい、今のは」

「ああ、確かに子どもの悲鳴だな」

「そ、空耳では御座いませんか?」

「やかましい! この期に及んで隠そうとするとは! 構わん、責任は私が取る。突っ込むぞ!」

「おやめ下さい、おやめ下さい……やめろって言ってんだよ! やっちまえ、てめぇら!」


 商人がどうやら衛兵たちが止まらないと悟って武力での排除に切り替えることにしたらしい。それが有効なのかは分からない。そして牢屋にも人が来る。


「おい、お前らここから出ろ。場所を移動する。従わねえ場合はぶっ殺してやるからな!」


 おうおう、脅しですか? それは仕方ないね。みんな、牢から出してくれるって。男たちは移動のためなのか、足枷を外してくれた。まあ首輪はそのままなんだけど。


 全員の足枷が外れてみんなが牢から出ると牢に鍵をかけて私たちを連れ出そうとする。私はそいつらを連れて牢の中に転移した。


「なっ!?」

「てめぇ、何しやがった! 早くここから出せ!」

「やーだよ、そのままそこで捕まるの待ってな」


 私は捨て台詞を吐いて子どもたちを連れて牢屋から外に向かって走り出した。

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