人形(episode119)
人形遣いの能力に目覚めたのはジョキャニーヤが追い詰められたからです。
あと、ユグドラシルの化身のエルフについては「快適なエルフ生活の過ごし方」をご覧下さい(ステマ)
フリガナに余計な文字が入ってたんで訂正しました(2025/04/06)
「あ、がっ……」
恐ろしい。雷霆槍で身体が痺れているはずなのに。詠唱破棄して魔法名だけで唱えたから威力が弱まった。いや、貫通力は弱まってるけど、電撃の威力は弱くなってないはず。
「私は、こんなとこで、倒れる、訳には……」
おそらくは身体はバラバラになりそうな程に限界なんだろう。それでもよろよろと立ち上がるのは気力、何よりも執念というものだろう。
「もっと、もっと、もっともっともっともっともっともっともっともっと!」
うぃーきゃんふらい? いや、違うな。
「私を、満たして、くれる、相手、殺しても、死なない、相手、みぃつけたぁ!」
いや、殺されたら死にますよ? 私は不老不死じゃないんだし。どこぞのユグドラシルの化身のエルフじゃあるまいし。やばい、八門遁甲の準備だけしておこう。
「動け、動け動け動け動け動け動け!」
ジョキャニーヤさんの言葉に相手の身体に気力が漲っていくのがわかる。精神力で身体を無理やり動かすつもりみたい。ってそんなこと出来るの? いや、魔法のある世界ならそういうの出来るかもしれない。あ、でもこの世界でもキューみたいな超能力者はいる訳で………………まさか!?
「人形遣い!」
ジョキャニーヤさんが高らかに叫ぶと幽鬼の様なものが身体から立ち上っていた。私の頭の中で何かが警鐘を鳴らす。
目の前に居たジョキャニーヤさんが消えた。手に持った剣が私の頬を掠める。やばかった。見えなかった。あと三センチズレてたら恐らくは……曖昧三センチ、そりゃぷにってことかい? 驚いたあたしだけ?
「あァ、うマくうごカなイ。でもまだうゴける、たタかえル!」
どうやら口を動かすのもぎこちなくなってるみたいで発音が怪しくなっている。えっと、何が起こってるかは分からないけど攻撃出来てるって事でオーケー? うわっ、じゃあ対応しなきゃじゃん。とりあえず脳に負担かかりすぎるし、効果時間も短いけど金門〈反射神経増強〉を掛けておく。
ゆらりと視界内で影が動いた。右、いや、左かな? 受けたら天位をくれますかね? 飛燕剣だよね、あれ?
「うフふ、うケた、うけタヨ、すゴい!」
いやいやいやいや! こんなのまぐれだから! まだ〈鋼質化〉が残ってたから受けられただけだからね!
「つギは、はズサなイ!」
またブレた。って身体が二つに分かれてる!? 分身とか出来るの? いや、確かに私も魔法で出来ない事は無いけどさ。あっ、そうか。そうすればいいのか。
「水門〈水月鏡花〉」
私の得意な水門の魔法。霧の中なら効果倍増だ。万能の私の幻を霧の中に作る……いや、万能じゃないか。そっくりな幻ではあるけど。もちろん攻撃が当たっても何にもならない。私自身は八門遁甲で予め移動しておく。
「きえタ!? こっチも! こっチも!?」
手当り次第にブンブンと攻撃を振り回すジョキャニーヤさん。冷静さを失ったようだ。いや、あるいは限界を感じて焦っているのかもしれない。となればトドメを刺しておくべきだろう。
水生木。五行の理からいけば木門、すなわち風雷や植物関係の魔法が強化される環境だ。あ、いや、水があるからそのまま凍結させてもいいんだけど。私まで寒いよね。
ここは拘束と雷撃を同時にやろう。ほら、あれだ、電磁ワイヤーネットってやつだ。魔法名は違うんだけど。
「雷よ、蜘蛛の網となりて、敵を捕え、麻痺せしめよ、木門〈網絡蠱毒〉」
私の魔法で霧の中からジョキャニーヤさんの手足に蜘蛛の糸(雷撃付与)が絡みつく。手足を縛られたジョキャニーヤさんはそのまま崩れ落ちた。全ては霧の中だったので魔法とかあまり見えてないだろう。当然ながらジョキャニーヤさんの化け物じみた動きも。
皆さんの目に見えるのは霧が晴れた後に動けなくて這いつくばってるジョキャニーヤさんと、その横でかろうじて立っている、私の姿だけだ。ちなみに、もはや妻大戦では無いので勝ち名乗りなどは無い。
「バカな!? そ、そいつは解放闘士だぞ? 最強の暗殺集団のトップなんだぞ? ハサンと呼ばれる奴なんだぞ? それが、こうも、簡単に……」
いや、簡単でも何でもなかったよ。めちゃくちゃ死にそうでした。勝因は霧の中での戦いに付き合ってくれてた事と、単純に魔法が使い放題で、相手に魔法の知識がなかったこと。まあ分からん殺しってやつですよ。対戦ゲームだと嫌われちゃうやつですね。ジョインジョイントキィ。命は投げ捨てるもの。
「衛兵たちよ、妻大戦の決定に異を唱え、神聖なる決闘を荒らしたギカールを捕らえよ!」
妻大戦はこれでも神聖な神に判断を委ねる儀式なのだ。ギカールはそれを金を使って人を集めればなんとかなると思っていたのが敗因だったのかもしれない。それにしちゃあファハドさんの妻たちのクオリティがすごいんだけど。
「よくやってくれた」
ファハドさんがいつの間にやら私の隣に来ていて肩をぽんと叩いてくれた。あ、ごめんなさい。ちょっと緊張が半端なくてもう意識が……あー、このまま倒れます。倒れちゃいます。そう口に出したのかは分からないが、私はそのまま倒れ込んでしまった。
次に目覚めたのはベッドの上。知らない天井という訳でもない。どう見ても医務室です。本当にありがとうございました。
隣のベッドにはジョキャニーヤさんが寝ているなんとびっくり! である。こうして寝てるのを見るとすごく可愛い女の子なんだけど。他には寝てる人居ないから私たちだけ運ばれたのだろう。
思えば色々あったもんだ。裕也さんの婚約者として呼び出され、豪華客船でファハドさんと会ってそっちに譲渡され……あら? なんか私モノ扱いされてない?
「お気付きになりましたか?」
そう言って部屋に入ってきたのは金髪の美少女だった。