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暴走(episode118)

なお、秘するが花は世阿弥の言葉で、言わぬが花は江戸時代の浄瑠璃のセリフからだそうで。

「そんな、この、私が、こんなの、こんなの嘘よ!」


 イウディさんの悲痛な叫びが響く。そりゃあそうだ。知識では勝っていたのに知性で負けたのだ。知っていることを全てさらけ出す事が知性ではない。言わぬが花、と昔の芸事の本にも書いてある。秘するが花だっけ?


「さて、ギカールよ、お主の王太子の権利はこれで無くなった。この上はファハドを支える為に」

「認めぬ、認めぬ、認めてたまるものかァ! オレが、オレが、ファハドよりも優れているはずのオレが、何故ファハド如きの下風に立たねばならん!」


 あー、やっぱりこうなった。ギカールはおそらくは自分の地位を磐石にするためのもので、負けるなんて欠片も思ってなかったのだ。だから、負けた時に、負けが決まった時に納得が出来ない。


 でも、舞踏と美貌では負けてたよね。既にこの時点で二縦じゃん? って思ったら知性の項目は第一夫人のエントリーらしく、勝った方に二点が与えられていたらしい。あー、四人しか居ないで四戦ってのがおかしいなって思ったらそういう仕組みでしたか。


 つまり、知性の勝負で勝てば勝負は振り出しに。そして最後に控えているのはあのジョキャニーヤさんだ。私では相手にならないと思ったのだろう。


 ではこのまま終わる? 否、こいつがそんなに潔い訳が無い。というか今まさに行動を起こそうとしていると思われる。自暴自棄とも言う。自分の手に入らないなら全て壊してしまえってやつですね。


「ジョキャニーヤ! 仕事だ! こいつらを全て殺し尽くせ!」

「貰っていた依頼料では割に合いませんが?」

「追加料金は払ってやる。解放闘士フィダーイーンを何人投入しても構わん!」

「高く、つきますよ?」


 ジョキャニーヤさんはニヤリと口の端を歪めると、笛のようなものを吹いた。すると闘技場の客席のあちこちから黒ずくめの人物が何人も立ち上がった。いや、どこに潜んでたのさ!


「お前たちはまだ動くな。私が、獲物を狩ってからだ」


 そう言ったジョキャニーヤさんの顔が、目が、私を捉えていた。間違いない、ターゲットは私だ。瞬間、ジョキャニーヤさんの身体がブレた。距離はあるがそんなのあまり関係ない。まずは遠距離対策だ。


「水よ壁となりて、飛来するものを押し流さん。水門 〈流水防御リフレクト〉!」


 私の言葉に前面に展開される水の壁。何かが弾かれるような音がした。危ない。よく分からないけど何かが飛来して居たようだ。


「水よ、霧となりて、我が身を包め。水門〈濃霧フォグ〉!」


 私の周りに霧の膜を展開する。これは攻撃力とかは持たない。感知しやすいようにするのが目的だ。って、もう入ってる? やばい、詠唱破棄しないと身体強化が間に合わない。まずは、攻撃を受け止める。


「〈鋼質化クライフ〉!」


 襲ってくるモノに合わせて右腕を硬質化、いや鋼と化した。そこにガキンという音を立てて刃が襲い掛かってきた。本当に、ここまで、一足飛びで来たよ。


「面白い、面白い、面白い! 私の飛礫を防いだのも、私の分身ファントムを無効化したのも、実体を見切って刃を止めたのも、全部全部、全部全部全部全部、こんなの初めて!」


 ジョキャニーヤさんってこんなに熱狂的な人だったろうか。


「それに何? この技は知らない。何も無いところから水を生み出すなんてまるで魔法ね。あなたは魔法使い? 驚いた。おじい様の時代でも、ひいひいおじい様の時代でも会えなかった本物の魔法使いに会えるなんて! そして、本物の魔法使いを殺せるなんて!」


 饒舌、饒舌ですよ、ジョキャニーヤさん。少し落ち着きましょう。あのバカ王子はもう失脚します。おそらくはあなた方に払うための謝礼金も払えないでしょう。つまりタダ働きです。嫌でしょう? 私は嫌です。などと説得の言葉を頭で考えていたらとんでもないことを言い出した。


「もう依頼料とかてどうでもいい。殺し(わかり)あおう、もっともっと、あなたのこと、魔法のこと、色々教えて!」


 ジョキャニーヤさんが姿勢を低くした。おそらくはここから連撃が来る。昔あった暗殺者がそういうスタイルだった。なお、毒とかは使ってない模様。


「簡単に死んでもいいよ、でも死なないでね!」


 そう言いながら急所を狙って攻撃を繰り出してくる。私は辛うじて防いでいるが、それは狙いが正確だからだ。


「〈加速ヘイスト〉&〈筋力増加フィジカルエンチャント〉!」


 私は詠唱破棄しながら反射神経と筋力を増加する。反射神経を増強したお陰で攻撃はそれなりに弾けるし、筋力を増強したお陰で、相手の攻撃を弾いて体勢を崩すことも出来る。


「急に強く? それも魔法なの!?」

「答える必要はないよね?」


 私はすぐさま増えた分の反射神経で脳内で詠唱をかます。ぶっちゃけ、割と危険域にある技術だ。下手すると脳が焼き切れる。でもまあ、この世界に来てから私も成長してるし、なんてったってアイドル……じゃなくて加護まであるのだ。得体はしれないけどないよりはマシだろう。


尽敵螫殺(ビースティング)


 蜂の一刺しと言うにはあまりにも鋭い、螫殺さしころす一撃。だが、私の脳内詠唱もそこで完成している。だが、避けなければ確実に当たる。と、なれば方法は一つだ。


「八門遁甲、晡時ほじに水門にて生門より出て、休門より帰る!」


 今の時間は夕没前の午後五時くらい。薄暮冥冥という時間帯である。だから目で追ってもジョキャニーヤさんの攻撃は見えない。私が交わせてるのはこの霧のお陰だ。だから、ジョキャニーヤさんの攻撃に合わせて八門遁甲だって使えるのだ。


「バカな、消えた!?」


 私はジョキャニーヤさんのすぐ側に居るのに消えたように見える。これぞ八門遁甲の真骨頂。私はそこから最大限の威力で魔法を繰り出す。


「木門〈雷霆槍グングニル〉!」


 霧の中ならばいくら避けようと避けきれない万雷に全身を貫かれてジョキャニーヤさんは倒れた。動かしたくても身体が痺れて動けまい。

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