第百十六話 暴露
娼館の名前はFF7から。蜜蜂の格好はしてないよ?
「なるほど。国王陛下がトップになるってことか。そりゃあまあ了解だな。海の男にゃ関係ねえけどよ」
「関係なくはないのではないか?」
「はあ? 海の上にまで陸の法律を持ち込むつもりかよ!」
テオドールの言葉にティーチが憤慨する。いや、どっちみち国に属してるんだから法には従わなきゃいけないよね?
「それに伴い、交易の際に掛けられていた関税を一定期間免除する。これは新たな領主が決めるまでだ」
「ほ、本当ですか!? それは商業ギルドとしてはとてもありがたい話です!」
アルトさんが顔をほころばせる。まあ商業ギルドとしては利益の増える話だ。これはありがたいだろう。国に納めなくて良くなったのだ。
「納得いかねえ! 街の運営に金はいくらあっても足りねえだろうが!」
ドン、と机を叩いて反論したのはティーチ氏。あれ? 船舶ギルドは街のことについて口を出さないのでは?
「オヤジ、何隠してんの?」
「な、な、な、な、な、な、な、何を言うだ、ロッテ!」
「どもってる。何か隠してる時の癖だ」
「そ、そ、そんな、こ、ことは、ね、ね、ね、ねえぞ?」
「オヤジ?」
「だー、うるせー! とにかく船舶ギルドは反対だ! 関税はきちんと徴収するべきだ!」
などとティーチ氏は言うとアルトさんはガックリとしている。なんかもうダメだーみたいな感覚のやつだ。何かありそうだ。私はこっそり動くことにした。
会議を放り出して、というか私には元々関係ないんだから会議にいる必要なかったんだよね。なんか国王陛下は私を居させようとしてたみたいだけど。将来的に私に譲渡するつもりなのかな? それともヒルダ様? そっちの方が濃いそうだ。
私が転移で来たのはある一軒家。コンコンとノックすると女性の声で「どなたかしら?」と声が聞こえる。
「あ、突然すいません。シャーロッテさんのお使いで来たものですが」
「まあ、ロッテが? 何かあったのかしら?」
「今、シャーロッテさんはこの街の統治の為に代官を任されようとしています」
「まあ! それはびっくりだわ!」
中にいる人は愉快そうに言った。私は素早く関税の一時撤廃と船舶ギルド代表というティーチ氏の反対について説明をした。説明をドアの向こうから聞いていた女性は私に「そのまま入ってきていいわ」と家の中に入れてくれた。
中に居たのはお腹がそこそこ膨れていて妊娠してると一目で分かる女性だ。ゆったりした椅子に座って何か編み物の様なものを……していたら似合うんだけど、手に持っていたのはいわゆる銃だ。この世界にもあったのね。
「どうやら私に危害を加える気はないみたいですね」
ニコニコしながら銃を下ろした。怖ぇ。
「改めまして、船舶ギルドの副代表を拝命しています、アルテミシアと申します」
「あ、どうも。冒険者のキューです」
「あら、可愛いお名前ね。それで
ティーチは関税撤廃に反対してるのね」
「はい、そうなんです。商業ギルドにしても関税が無くなったらいいことづくめだと思うんですけど」
私の呟きを聞いているアルテミシアさんはなんか納得したような感じだ。
「なるほど、ね。ねえ、キューさん? 関税の徴収代行をしているのはどこだか分かる?」
「えっ? それは、商業ギルドじゃないんですか?」
「違うわ。船の出入りを監督出来る場所、つまり、船舶ギルドよ」
あれ? こういうのって商業ギルドがまとめてると思ったんだけど、なるほと。船舶ギルドなら荷の積み下ろしの時にチェックも出来るもんな。港でやるしかないんだから。
「本来ならそんな事務仕事なんか嫌がる人なのに、その業務だけは自分でやりたがるのよ。おかしいと思わない?」
これはティーチさんのことだろう。なんか笑ってるはずのアルテミシアさんの笑顔に背筋が凍るような気がする。
「私がこんな身体じゃなかったら乗り込んでとっちめるのに」
「ベッドのままで良ければ乗り込めますよ?」
「えっ、本当に? それはびっくりだわ」
そう言って半信半疑なのか私を怪訝な顔で見る。これは、私が冗談を言って場を和ませてると思われてるのかもしれない。舐めてもらっちゃあ困るね!
「じゃあ今から運びますので。ベッドの上から動かないでくださいね」
「えっ、それはどういう……きゃっ!?」
私はベッドの端に手を掛けて、そのまま転移を決行した。会議をやってる場所にはそれなりに広い場所で、ベッドくらいならまるまる入る。その場所に転移すると、シャーロッテさんとティーチ氏が取っ組み合いの喧嘩をしようとしてるところだったみたいだ。
「まあ、まあまあまあまあ! これは驚いたわ。ロッテにティーチが居るじゃない」
「ママ!?」
「お、お前!?」
「あら、二人とも取っ組み合い? あなたたち、ここは国王陛下の御前ではないのかしら?」
すごい、冷えた空気が部屋の中に漂った気がする。国王陛下も少し震えている。
「国王陛下、この様な格好で失礼します。船舶ギルドの副代表でティーチの妻であり、シャーロッテの母親である、アルテミシアと申します」
「お、おう。妊娠しておると話には聞いてるぜ。すまねえな。妊婦にお出ましいただくことになるたぁよ」
「大丈夫です。来ると決めたのは私ですから」
そう言って笑い合う二人。他の人は呆気にとられてるのが大半で、ロッテとティーチだけが姿勢を正している。
「さて、あなた? 関税の撤廃に反対してるそうね? それはどうして?」
「ま、街の事を考えてだ。関税はこの街の重要な資金源だからな!」
「そうなの? 私はてっきり、蜂蜜館に行く為の資金をちょろまかしているのかと思ったのだけど?」
蜂蜜館、という言葉を聞いた途端、ティーチ氏はガクガクブルブルと震え出した。ついでに商業ギルドのアルトさんや、冒険者ギルドのケネスも震えている。蜂蜜館ってなんだろう? と、とぼけてみるけど多分娼館だよね。
「ティーチ?」
「いや、あの、そんな事は決して」
「いつもご贔屓にしてくれてありがとう。次もたっぷりサービスするからね、でしたっけ? 随分とお得意様みたいね?」
あ、ダメだ、これ、死んだわ。