舞踏(episode116)
シンクレアさんのモデルは龍虎の拳外伝。
「な、何故ですか、父上! 美人度で言えば私の妻であるズレイカの方が上ではありませんか!」
バカ王子は国王陛下に物言いを付け始めた。いや、こういうのって異議を唱えちゃいけないからこそ意味があるのでは? まあでもこれは出来レースとかでは無いと思うよ。確かにズレイカさんは美人だと思う。
「ギカールよ、お前はなぜ美貌の項目がこの妻大戦にあると思うのだ?」
「そ、それは、美しい妻を娶っていることを世に知らしめて、王族としての矜恃を示す為では?」
「阿呆、妻は何のためにいる? 世継ぎを産むためだ。その為には夫をその気にさせねばならん。つまり、興奮させるような肉感的な魅力が必要なのだ」
あー、まあ王族なろ尚更そうだよね。子作り大事。私は誰も産みたくはないけど、産まれるのは好きだよ。あ、無精卵も好きです。目玉焼きにはお塩を掛けます。醤油は邪道。
「ぐうう、ま、まあいいでしょう。一戦目はこちらの負けだと認めます。だが、二戦目からはこうはいきませんよ。公平なジャッジをお願いします」
ギカールが引っ込むと再び司会の言葉。第二の試練、舞踏である。マイクを持った手の小指はやはりピンと伸びている。ガンダムファイトでも始まるのかな?
司会者が双方の第二選手を呼ぶ。私たちの方、西側からはナディアさん。細い腰、スラッと長い手足。踊りには最適なスタイルの良さだ。ファティマさんのような妖艶な魅力はそこまでないが、健康的な魅力を持っている。
東側からはシンクレアさん。手にはシミターを持っている。もしかして剣舞をやるつもりたろうか。鴻門の会の項荘みたいにこっちを刺し殺しに来るってことはなさそうだけど。
今度の先手はナディアさん。音楽が始まると、手足に着けたショールがヒラヒラと舞い、ナディアさんの踊りに追随する。とても綺麗な感じだ。手足も要所要所でビンと伸びてて躍動感もある。会場の目はナディアさんに釘付けだ。
曲が終わると熱狂が渦巻き、万雷の拍手が降り注がれた。踊りのことはよく分からないが、これはかなりいい印象なのではないだろうか。
ナディアさんが引っ込んで、シンクレアさんが中央に躍り出る。手に持ったシミターはキラリと煌めいて、会場を映している。曲が始まった。最初は緩急をつけた動きで剣をゆるゆると振り動かす。その動きが徐々に速くなっていき、やがて剣を振るのが見えづらくなってくる。とんでもなく速い剣舞。私でなきゃ見逃しちゃうね。嘘です、ごめんなさい。きっとジョキャニーヤさんを始め、見えてる人はそこそこいると思われます。
そうしてしばらく踊り続けて、踊り終えるとこれまた拍手が嵐のように渦巻いた。どちらも甲乙つけがたく、審査員も困っているかのようだ。
「これは……どちらも良かっと言うしか」
「しかし、これでは」
「む、ならば第二審査といこうではないか」
なんだか第二審査とやらが始まるらしい。これはもう一曲踊れということか? となると体力勝負になって、剣を使ってまで踊ったシンクレアさんは少々不利かもしれない。
「休憩の後、演目を発表する。しばらく休息せよ!」
思いがけない感じで休みが貰えた。やはり公平にしたいのだろう。こちらは疲れて帰ってきたナディアさんを他の妻たちが支える。
向こうは若干フラフラになりながらも確固とした足取りで陣営に戻り椅子に座る。誰も駆け寄っては来ない。まあそこなんだろうなあ、あちらとこちらの違いは。
ちょうど昼時だったのでゆっくり食事を終えて再開する事に。国王陛下が高らかに第二審査とやらを発表する。
「第二審査は、伴侶となる王子とのペアダンスだ。息を合わせて踊って欲しい」
「なっ!? なんだとぉ!?」
ギカールの絶叫か響いた。まあペアダンスの練習とかはしてないんだろうな。でもそれはこちらも同じでは?
「ナディアはファハドと何度か踊ってるわよ。というかペアダンスなら私とよりも上手くて妬いちゃうわ」
ラティーファさんが悔しそうに言う。いや、本当は悔しくなさそうだけど。この人、笑顔でいつも物言うからいまいち感情が読めないんだよね。
ペアダンスの順番もこちらから。ファハド王子とナディアさんが中央へ進む。特に打ち合わせはしてないが、曲が始まると息がピッタリとあったかのように踊っている。練習したのかと疑いたくなるほどだ。なんでもファハド王子は文武両道のよく出来た弟なんだそうな。兄より優れた弟は居ないって? どこの世紀末救世主伝説だよ。
二人が踊り終わったら、今度はシンクレアさんとギカールの番。曲が始まると、シンクレアさんがリードしようとしているのをギカールか拒否して力任せに振り回している。シンクレアさんは持ち前のバランス能力で転倒こそはしないものの、好き勝手に動くギカールをフォローしてるようだ。何とかペアダンスには見えているのはシンクレアさんの卓越したボディコントロールの賜物だろう。
踊り終わるとギカールは満足そうな顔をしているが、シンクレアさんは勝敗を悟ったみたいな顔になっていた。そりゃあそうだろう。
「それでは、審査に入ります。審査は各国の王族、部族長の判定と、国王陛下の決断によります!」
第一試合と同じようなアナウンスがあって、結果が出るまでにそれほどの時間は掛からなかった。どうやら満場一致のようである。
「第二の勝負、勝者はファハド!」
国王陛下の高らかな宣誓に、またもギカールが異を唱えた。
「またですか、父上! また、ファハドに肩入れをするのですか!」
「ギカールよ、お前は自分の踊りが審査されるに足るものだと思っているのか?」
「お、王族に踊りなど不要でしょう!」
「馬鹿者! 王族にとっての舞踏は神への捧げ物。練習は欠かすなとあれほど言っておいただろうが!」
国王陛下の一喝にギカールは黙り込んだ。あー、そういう儀式的なものなのね。だから舞踏が入ってるのか。ともあれ、これで二勝目である。次に私かラティーファさんな勝てばすんなり終わる。次がラティーファさんなら私出なくて良いのになあ。