第百十五話 会談
テオドール、司会出来たんだ()
「そんな、まさか、私が、私が、代官なんて!」
アンナはあわあわしながら言う。それにつられてシャーロッテもあわあわしだした。話が進まない。
「まあまあ落ち着いて」
「こ、これが落ち着いていられましょうか!」
「いや、それでも落ち着いて。いい? アンナのやる事は影からシャーロッテさんを支えること。要するに実務よ。出来ない?」
「え? あー、まあ、前の領主にも時々やらされてましたから出来ないことは」
前の領主、仕事もまともにしてなかったのかよ! 下半身しか取り柄がなかったのか? いや、それも取り柄と言っていいか分からないけど。
「手伝ってたのは私だけじゃないですし、恐らくお屋敷にいるメイドで字が読めて計算が出来る人間なら誰でも」
「ほほう? メイドなのに字が読めて計算が出来る人間が居たのか?」
国王陛下の問い掛けにアンナはまずったみたいな顔をした。
「ええと、両方出来るのは私だけで。で、でも、字が読める子とか計算が出来る子とかはいましたよ!」
字が読めないのに計算が出来るとはこれ如何に? 実はこの世界の数字、私たちの世界と同じでアラビア数字なんだよね。呼び方は違うみたいだけど。絶対創造神が面倒くさがったんだろうね。
たから数字と算術記号さえ覚えていれば計算だけなら出来たりする。ほら、国語が得意な子と算数が得意な子は違うみたいな。
「ならばそのもの達を指揮してまとめるがよい」
「ええー、私、自分の家を手伝わなきゃいけなくて」
「でも、アンナさん居ない間に宿屋って普通に繁盛してましたよね?」
「うぐっ!?」
私のツッコミは少々可哀想だったのかもしれないが現実は突きつけてやらねば。
「厨房はイレーヌ、受付はウルリカ、接客はオリビエさんが居れば回ってたよね?」
「あ、あう、で、でもそれは、無理をしてたから……」
「特に誰も疲れてなかったし、なんなら食器とかさげたり、重い荷物運んだりはお客さんが進んでやってたよね?」
実際、それもどうかと思うけど、女だけの宿に泊まれるなら、という事で手伝ってる下心満載の男客が来るくらいに海鳥の羽ばたき亭は繁盛していたのだ。
「アンナは戻って何やるの?」
「ええと、ほら、誰かが働けなくなった時にバックアップとして」
「日頃は?」
「ゴロゴロしたいです」
観念したのか本性を表した。いや、今まで大変だっただろうから少しぐらいの休みはいいと思うんだ。でもやりすぎは良くない。
「アンナぁ、私の代わりにやってよぉ」
「いや、シャーロッテさんもやるんだからね?」
「えっ?」
アンナさんに押し付けるつもり満々だったみたいなシャーロッテさんが変な声を上げた。アンナさんは表に出ないのだ。じゃあ対外的に押せる人間に表に立って貰うしかない。
「無理! 無理です! 私には無理!」
もうどうやら一人称を誤魔化すつもりもないらしい。あたいはどこにいったのだろう。
「逃がさないから」
「ひっ!?」
「私を巻き込んで逃げられると思った? チェックメイト、だよ?」
この世界にもチェスはある様だ。いや、チェスでは無いかもしれないけど、チェックメイトと呼ぶ何かがあるのだろう。
「よし、双方とも納得したのなら双方に命ずる。連名によってお前たちを代官に任命する。なんなら貴族にしてやるぞ?」
「遠慮します!」
「謹んでお断りさせていだきます」
二人とも内容的には同じなのに違うセリフを吐いた。まあお断り一択だよねえ。
「ならばやはり、キューよ、お前が貴族に」
「やです」
身も蓋もないと思うが貴族にはなりたくない。そこは二人と同じなのだよ。ヒルダ様はちょっと残念そうでしたね。
国王陛下は街の課題、税率の話などを船舶ギルドと商業ギルド、冒険者ギルドで話し合う様にと仰った。商業ギルドと冒険者ギルドは代替わりしたばかりだと思うんだが。
そして国王陛下の宣言の下、三組織の代表が集められた。まず入って来たのは腰の低そうななよなよした男性。商業ギルドのトップに就任したアルト氏である。一応この街の商業ギルド叩き上げの人物だ。トムス氏やアンナ、シャーロッテなどとも顔見知りのようだ。
「商業ギルド代表はあなたなのね」
「は、はは、ロッテは船舶ギルドかな? お手柔らかに頼むよ。アンナは?」
「私は内緒」
「アンナの内緒はろくな事がなさそうだよ……ううっ、胃が痛い」
続いて入って来たのは人相の悪い男。いかにも冒険者あがりといった感じの男だ。
「なんだなんだァ? ガキどもばっかじゃねえか。おいおい、勘弁してくれよ」
男は開口一番にそう言った。新しい冒険者ギルドの代表、仮ギルドマスターのケネスである。元は銀級の冒険者だったらしいが、膝を痛めて引退したとか。矢でも受けた?
「邪魔するぜ!」
最後に入ってきたのはスキンヘッドの大男。野太い声がよく響く。そのスキンヘッドはシャーロッテの方にズカズカと歩いていく。
「おい、ロッテ。ギルドの仕事はお前に任せてたろうが。なんでオレが出張って来なくちゃいけねえんだよ!」
「うるせー、くそオヤジ! あたいは忙しいんだ。たまのトップ会談くらい顔出しやがれ! ママに言いつけるぞ!」
「う、ぐ、そ、それはちょっとやめてくれ」
船舶ギルドのトップ、ティーチだ。どう見てもシャーロッテさんと親子には見えない。そしてママことシャーロッテのお母さんであり、ティーチ氏の奥さんである人には逆らえないらしい。いつの世も奥さんは強いなあ。
「それでは今より、この街のこれからについての会議を始める!」
国王陛下が高らかに宣言する。メンバーは全員揃っているし、なんならヒルダ様やテオドールもいる。まあこの辺は良いとして、なんで私までここに居るのか分からない。どういうこと?
「まず、この街の領主について。前領主は色々問題があり、罷免した。貴族からも除籍されている。しばらくの間は国王陛下の直轄地となる」
テオドールが司会みたいな事をしている。これは「領地と関わりのない中立貴族」という立場による取り仕切り役らしい。よく分からん。