特訓(episode114)
八門遁甲については色々設定しましたが、実際に使う段になれば細かいことは省きます。要は使えればいいんだよ!
その日から、白い部屋の中で修行が始まった。外の世界の三百六十倍のスピードで時が流れるのかどうかは分からないが、外での時間が止まっているかのように時間が過ぎていくのは間違いない。
まずは魔力の運用、無詠唱魔法だ。いわゆる魔法名だけで発動するのはよくやる話だ。身体強化も出来るだけ呪文名だけで発動できるようにはなってる。
だけど、ここはその呪文名すらも省略して発動させたいところだ。とりあえず、〈加速〉や〈筋力増加〉、〈鋼質化〉辺りは取得しておきたい。なんなら自動発動とかでもいい。
いや、武器や防具、靴などに付与することが出来れば違うのかもしれないが、私には…………ああっ、そういえば私、錬金術でそういうの出来るんじゃないの!?
盲点すぎて忘れてたけど、というか私はゆっくりお薬でも作ってのんびりお金稼いで暮らすつもりだったのに、なんでこんな物騒な事に巻き込まれてるのか。うん、だいたいタケルが悪い。今度凪沙にお仕置して貰うことにしよう。
えっ? 私がタケルを直接お仕置きしないのかって? いや、それだと凪沙に悪い気がするんだよね。タケルの所有権()は凪沙が持ってるだろうし。
閑話休題。何も無い部屋で修行してるとお腹が空いてくる。いや、実際はお腹空くのすら錯覚らしいんだよ。この部屋はそういう時の流れもなくなるらしい。でも、動き続けると、お腹は空いてなくても、身体が空いてると認識しちゃうんじゃないかな? ちなみにこの部屋で修行すると太るんだよね、って言われた。やめて!
魔法の使い方は一に修練、二に修練、三四が無くて、五に素質らしい。いや、私の世界での言葉だけど。というか教えてくれた先生が脳筋みたいに熱血指導だったからね。まああながち間違ってはなくて、修練をすることで身体に魔力を巡らせる手順をスムーズにするのだそうな。
私は当時の事を思い出して懸命に魔力を循環させたりしていた。魔力がスムーズに移動出来るようになると、魔力の移動による身体強化が行えるようになる。つまり、動き出しが早くなるのだ。
魔力移動による強化をしながら本命の身体強化魔法を使うというのはそれなりにやることなんだと。というか、魔法が使えなくても無意識のうちに魔力による身体強化はやってる人居るらしい。金級の冒険者とかそんな感じだって。
ある程度は出来るようになった、まあぶっ続けで一週間くらいかかった気がするんだけど、外ではそこまで時間経ってない。次に取得するのは八門遁甲。
ちなみに理論的には前回説明したけど、実践的には違う話になる。時間によって吉方が変わるのでこの白い部屋だと練習しづらいんだそうな。じゃあどうするの? 感覚を研ぎ澄まして吉方を探る練習をするのだ。
いや、さすがに無茶じゃないかって思ったら調和神様が設定を手伝ってくれるそうな。私は指差し確認するだけなんだって。とりあえず開始。
やってみても吉方が分からなくて適当に指をさす結果になりました。これは無理だよ! だって景色とかなんも分からないもん。かと言って外に出たら今度は調和神様が関与できないんだって。世界の管理者が創造神様だからって。
そこで調和神様がアイテムの作り方を教えてくれました。風水盤というらしい。本来は年盤、月盤、日盤、時盤という四つの種類の盤を併用するらしい。戦闘に使用するのは時盤だけみたいだけど。長期的な戦争だと他の盤も使うってさ。
ともかく、まずは作ってみよう。基本的に手書きで書くのと、針は磁石を使うらしい。そこに金門の魔力を付与するんだと。魔力を付与する事で微妙な方角時間調整がしやすくなるらしい。
まあ、実際にはそこまで難しくない。何枚か紙を重ねてスライドできるようにしておくくらいだ。それを磁石の針で留める。とりあえず試しに使ってみよう。
ええと、吉方はこっちか。てくてく歩いていくとおやつの時間とかでお茶に呼ばれた。美味しいものが食べられるのはいいけど、またあのマナー地獄が始まるかと思うと戦々恐々である。
「それで、修行でもしているのかは分からないけど順調そう?」
「はあ、まあ」
「いいのよ、今日は好きに食べなさい」
「はい、いただきます!」
ちょうどお腹は空いていたのだ。いや、腹の空きがあるかは別として。甘いものは別腹って言うし、大丈夫でしょ。
「あなたの相手はかなり厄介みたいよ。でもまあ安心して。あなたが負けても他で勝つから」
おや、そういうところを見れば負ける気などない、いや、意気込み的なものではなくて、実力差として負けないと思ってるみたい。まあ三人とも傑物だと思うから大丈夫そうだけど。
「あなたが勝てれば全勝出来るけど、負けても優勢勝ち程度だわね」
どうやら本当に自信満々らしい。いや、私もそれなりに自身はあったんだけど、ジョキャニーヤさんを見てからはそこまで自信なくなったよ。
「あら、お茶会だなんて随分と余裕そうね」
そんな声が掛かったのは私が三つ目のケーキを口の中に入れようとした時だった。
声の方を見ると、ジョキャニーヤさんと、もう一人、おでこが出てて、つり目のいかにもツンデレキャラみたいな女性がいた。美しさはそこそこと言ったところか。ラティーファさんに軍配が上がるだろう。楽勝だ。
「あら、イウディじゃない。しばらく見なかったから逃げたのかと思ったわ」
「誰が逃げるものですか! 妻大戦は私たちの勝利よ」
「あなた程度の頭脳で勝ちを確信するだなんてお笑いだわ」
「なっ! これでも大学の花と呼ばれた才媛なのよ?」
「才媛が自分で自分のことを才媛なんて自称するかしら」
「あなたね……まあいいわ。思い知らせてやるんだから。行くわよ、ジョキャニーヤ」
ジョキャニーヤさんは最初から最後まで私の方を見ながら何も言葉を発しなかった。まあ確かにあの程度の頭脳ならラティーファさんが圧勝だろうなとは思う。