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第百十三話 拝領

くわばら、というのは雷が桑の木に落ちないとか、雷神になった菅原道真公の領地が桑原だからそこには雷が落ちないだろうみたいな雷避けの言葉なんだとか。

 国王陛下の軍、まあ率いてるのはミストラルさんなんだけど、彼らが来たのはその次の日の夕方だった。まあゆっくり来たんだろうね。制圧出来てないと兵に損耗が出るかもしれないからね。あ、いや、テオドールが居るから信頼して活躍の場を奪わないようにしたのかな?


「開門!」

「おお、ミストラル様。お久しぶりです」

「テオ、精悍な顔つきになったな。一時期の鬱屈としていた頃が嘘のようだ」

「あの頃の自分は思い出すのも恥ずかしいです」

「うむ、若いうちの過ちというものはあるものだ」


 教団の呪いの宝石の効果を「若い頃の過ち」で片付けるのもどうかと思うんだけど。


 この街についてのあれこれをしていたら、だいぶ時間が経った。いや、私は関係ないとどっかに行く事も出来たんだけど、テオドールを駆り出した以上はヒルダ様が来るか、ヒルダ様のお許しがあるまで待っておくというのが筋かなって思って。


 ちなみにあれ以降オリビエさんはテオドールに粉をかけてこない。やっぱり生活を考えてのことだったのだろう。良かった。ヒルダ様にくびり殺される未亡人(夫は生死不明)はいなかったんだ。


 アンナやイレーヌ、ウルリカはどうかというと、アンナは心に決めた人がいるとのこと。イレーヌは家から居なくなるとまともな料理が出せなくなるから婿養子じゃないとダメそう、みたいに言ってて、ウルリカはどうせなら貴族よりも大商人の妾がいいみたいに言ってた。人それぞれだね。


 それから二、三日して、国王陛下とヒルダ様が同じ便で到着した。ヒルダ様は国王陛下とは時々お話ししている仲らしく、この度の行幸について行く事になし崩し的に決まったのだとか。国王陛下としてもテオドールがいるからと許可を出したらしい。孫に甘いおじいちゃんかな? まあ現王妃がミルドレッド公爵家の人らしいので親戚みたいな関係ではあるそうなのだが。


「リンクマイヤー公爵家、テオドールよ。大儀であった」

「はっ、もったいないお言葉、ありがとうございます!」


 おお、テオドール、お前ちゃんとした貴族の振る舞い出来るのな。いや、失礼かもしれんけど、そういうの苦手そうだなと思ってたんだよ。


「アンダーゲートの今後の統治だが、お前に預けても構わんよな?」

「失礼ながら陛下、私は非才の身。このような港湾都市をやりくりする才覚はありません」

「おいおい、確かにお前にそういうのは求めてねえんだが……ヒルダ嬢、お前なら出来んだろ?」

「あらおじ様? 私はテオドール様を支えるのが役目です。夫よりも前に出る気はありませんよ?」


 国王陛下におじ様かあ。まあ間違っちゃいないのかもしれないけど、おじ様っていうヒルダ様の言葉に、「私をダシに使うんじゃねえよ、ボケェ! 国王陛下って呼ばねえぞ!」って気概を感じたんだよね。あれ? 危害の方かな?


「ふむ、となると……おお、そういえばお前がいたな、キューよ。お前がこの街を貴族となって治めてみねえか?」


 待って!? 私を貴族に? いや、この街の元のやつが男爵だったから私も男爵? いや、騎士爵とか准男爵とかそっちかもしれん。じゃなくて! なんで私なの?


「あの、今回私は特に何もしてないのですが」

「何言ってんだ。公爵家の手紙を届けてくれたじゃねえか」

「それなら郵便局員がみんな貴族になっちゃうよ!」

「ゆうびん? なんだいそれは?」


 あ、この世界、郵便って概念がないんだっけ? 仕方ない。説明するのが面倒なので適当な説明で通そう。


「ぼ、冒険者ギルドの有志に便乗して手紙を届けるということで「有志へ便乗」を縮めて「ゆうびん」と呼びました。私が勝手に言ってる言葉です」

「なるほど。そういう言い方は初めて聞いたな。まあ呼び方はそれぞれだ。好きに呼ぶんでいいんじゃねえか。そういえばその「ゆうびん」もお前が多く受け持っているらしいな?」

「ええ、まあ、はい。私の固有魔法はそういうのが得意なので」

「お前の転移とやらにも興味はあるがな。何しろ国の魔法庁が何度も出来たり出来なかったりを繰り返している実験項目だ」


 あー、まあ私のはこの世界の魔法の理とかとは一線も二線も画しているからなあ。こういうの今度ティアに聞いておこうかな。次に白い部屋に行くのっていつだろうね。


「で、その「ゆうびん」を多くやってくれて国の発展に寄与したって形にしとこうぜ。管理者決めるの面倒だし、このままだとオレの仕事が増えちまう」


 この国王陛下、絶対仕事増やしたくないから押し付けたいみたいな感じだ。なんてやつ。


「陛下、それならしばらくは直轄地にして、代官を置くというのは?」

「代官か。まあ置くにはちょっと街の規模が大きいんだが」

「そこはまあ仕方ないのでは? それともこの街を統治出来る貴族に心当たりでも?」

「そりゃあもちろんヒルダ……あ、いや、なんでもねえ」


 国王陛下としてはヒルダ様に統治させたいみたいな感じだよね。まあヒルダ様頭いいもんね。あれ? じゃあ私に貴族になれって言ったのって私がヒルダ様と仲良いから泣きつく先になりそうって話? 間接的にヒルダ様にやらせるつもりだったんだ! あぶねえあぶねえ。テオドールとヒルダ様の仲を邪魔する要因になるところだった。くわばらくわばら。


「それで代官にする人物に心当たりは?」

「あの方でいいのでは無いですか?」


 そう言ってヒルダ様が指さしたのは一応、罰を与えられるために残っていたハゲオヤジの門兵さんだ。いや、一応指導者的な立場らしい。


「オレ、ですか?」


 困惑した顔で返事をするハゲオヤジ。


「お前、なんて名前だ?」

「あ、はい、トムスと申します」

「ふむ、お前はなんでここに残ってた?」

「部下たちのやった責任を私が負う為です。領主に人質を取られていたとはいえ、我々は取り返しのつかないことをいくつもしましたから」


 贖罪精神が凄い。部下に押し付けて逃げることも出来たろうに、部下を庇って罪を一身に背負おうとしているんだろう。それともやってしまった事への罪悪感から逃れたい感じ?

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