八門(episode113)
八門遁甲の考え方は諸説ありますが、この作品ではこうだ、くらいで思っててください。八星も八神を置き換えてます。
気付いたら私は白い部屋に居た。あれ? ここはいつものあの女神の世界? って思いながらも辺りを見回してみる。誰も居ないし、何も無い。普通だったらあの駄女神が映像を見ながらポテチでも食ってるはずなんだけど。
「ティアよ、来ましたね」
「調和神様!?」
そう、そこに居たのは調和神様。頼りになる神だ。
「あなた一人が私に面会を求めていた様子なのでちょうど神との交信がしやすい場所だったからここに連れて来ました。もちろん精神だけです。肉体の方は一瞬だけに感じるでしょう」
「それ、なんて精神と時の部……」
「さて、あなたは私に聞きたいことがあったのでは無いですか?」
誤魔化された? 版権的にヤバいのかな? いや、今更版権がどうとかいうような話でもないか。
「あ、はい、実は……」
私はかくかくしかじかまるまるもりもりと経緯を説明した。私の話を聞いて調和神様は考え込む。
「解放闘士、それは聞いたことがありますね。殺人を生業とした集団で、幼い頃より殺しの技を仕込まれている。それがある程度長けるとハシシと呼ばれる称号を与えられるとか」
「よくご存知ですね」
「ええ、こういうのがかっこいいのよねってあの駄女神に言われたから覚えていたわ」
元凶はあの駄女神だったか。いや、そんな気はしていた。開祖に天啓を与えたとか言ってたらしい。余計なことをしてくれる。
「まあ、開祖ならともかく、今の子たちは普通の人間だろうから勝てるんじゃないの?」
「いや、それがそういう訳でもなくて」
私は魔法を大っぴらに使えないということを説明した。駄女神だったら「なんで?」って心底分からないような顔をしたであろうところだが、調和神様はそれはそうよねえと納得してくれた。
「ええと、あの子のあの世界の魔法の仕組みは……陰陽五行が元だったわね。となると木火土金水ね。ややこしいものにしたもんだわ。お陰で空間とか時間とか入れる隙間がないわ」
「あはは、そういうのがあるかもみたいな事はあったんですが、魔法じゃ無理! みたいな結論になったとか。金門がそれじゃないかって言われた時期もあったらしいですけど」
「そりゃあそうよ、陰陽五行だと時間と空間は属性と密接に関係してくるから、操作する時間や場所によって参照する門派は違うもの」
「えっ!?」
そんなの初耳だ。というか同じような条件でやったのに発動したりしなかったりしたのは参照した属性が違ったから? いや、そんなの全く同じに合わせないと検証出来ないじゃない!
「まあ、簡単に言えば西に向かって速度を速くする術式と東に向かって速度を速くする術式では、参照属性が違うの」
「それだと戦闘中に使うのは無理では?」
「まあ戦闘中に使うのに八門遁甲とかはあるけど、あれはまた別の術式だものね」
はちもんとんこう!? 意味がわからないけどなんかすごそう。でも、私が知ってる属性は五門。そっちは八門。残り三門は?
「この場合の八門、というのは八卦八門八星のやつだからあなたの世界の門派とは関係ないわよ」
ややこしい! ややこしいよ! ちなみに八門とは開門、休門、生門、傷門、杜門、景門、驚門、死門で、八卦は乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤で、八星は天符、騰蛇、太陰、六合、勾陳、朱雀、九地、九天だとか。いや、そんなこと言われても。えっ、勾陳は白虎に、朱雀は玄武に変わることもある? もう頭がついて行かないよ!
「だからややこしいと言ったのに」
言ってないですよね!?
「まあその辺の説明吹っ飛ばして使えるようにするのは出来るけど」
「出来るんですか!?」
「だって、あなたたちの世界は五行で回ってるでしょう? だから五行の感覚で使うことが出来るわ」
マジですか! それはありがたい。
「まずは八門のうち、開門、休門、生門が大吉、景門が中吉、残り全部が凶だと覚えておいて」
「さっぱり分かりません」
「ええとね、そう、水門と火門は好き放題、土門と金門は諸刃の剣、木門はダメくらいでいいわ」
ええっ、使っていい門派とダメな門派があるの?
「慌てないで。これは八門遁甲を使う為のものよ。魔力は流すけど発現させなくていいわ」
「いやまあ、私の基本魔力は水門なので大丈夫だと思いますが」
それを聞くと知ってた、みたいに頷かれる。そして説明が続けられた。
「まあ時間によって方角は変わっていくから試合の時間によって変わるのだけど、魔力を流しながら吉方向に向かって移動すれば相手の攻撃は当たらなくなるわ」
という事は時間管理が大事? どれくらいの頻度で変わるんですか?
「夜半、鶏鳴、平旦、日出、食時、隅中、日中、日昳、晡時、日入、黄昏、人定だから二時間ごとね。あ、基準はその日の日の出の時間が日出になるから」
それだと日の入りも考えたらきっちり二時間にはならなくないですかね? 大雑把な時間だから細かくは分からない? まあそうですよね。ま、まあ、あれだ。そういう狭間の時間近くにならないようにしてもらえれば。
それから各時間の吉方がどっちなのかをみっちりと教えてもらった。あら? 肝心の魔法の強化は?って思ったらこの空間使ってもいいって言ってくれた。この建物に来れば使える様にしてくれるって。さすが調和神様、器が違う。
それからしばらく調和神様が見ていてくれるということで魔法の練習をしていた。と言っても無詠唱で身体強化する練習だから見た目は地味なんだけど。あ、もちろん八門遁甲の練習もするつもりですよ。今のうちにわかんないこと聞かなくちゃ。