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第百十二話 白州

オリビエさんはエイリークさんを愛してるし、テオドールはヒルダを愛しています。キューちゃんはそういうの無いです。強いて言うならイケメン好き。

 ちゃーちゃーちゃー、ちゃちゃちゃちゃちゃちゃ、ちゃーちゃーちゃー。ちゃーちゃちゃー、ちゃちゃーちゃちゃー、ちゃーちゃーちゃーちゃちゃー、ちゃーちゃちゃー、ちゃちゃーちゃちゃー、ちゃーちゃちゃちゃーちゃーちゃー。


 中小企業専門ノンバンクの会社が提供してた徳川八代将軍のテーマソングなんてこの世界じゃ誰もわかんないよ。だからこれは私の頭の中だけで鳴らしておくね。


 で、肝心の状況だけど、ワラワラと出てくる悪の手下、それを跳ね除ける私たち! みたいな展開を期待してたんだけど。隠れていた兵たちが出て来て何をしたかというと、なんとシンターをふん縛った。あれ?


「貴様ら、何をしているのだ! あいつらだ、あいつらを捕らえよ!」

「うるせぇ! 向こうの方が偉いお貴族様なんだろうが。ならてめぇに従う義理はねえよ!」

「そうだそうだ、こいつのせいでオレの妻は」

「オレの娘もだ! 首をくくろうとしたのを必死にとめたんだ!」

「姉さんを、姉さんを返せェ!」

「妹はまだ十歳だったんだ! それを、それをお前は!」


 話を聞いてるだけで吐き気がしてくる。こんなやつ、このまま殴り殺させてもいいんじゃないかと思うよ。いや、なんなら脳みそいじくって永遠に覚めない悪夢の中で狂わせたい。


「どうやらオレの出番はなかったようだ」


 テオドールが拍子抜けしたように剣を納めた。というか止めないでいいの?


「かまわんよ。オレが許す。存分に恨みをぶつけるがいい」


 いわゆる民衆による貴族階級への反乱だと思うんだけど、テオドールはその辺寛大だ。たまにこっちに突っかかってくる人も出てるけど、そういうのは丁重に動きを封じさせて貰ってる。


 しばらくすると、シンターは上手く喋れないくらいに顔が腫れ上がり、もはやイケメンだった面影も見えない。


 そういえばあのハゲオヤジはどこに行ったのかと思ったら、真っ先にシンターをボコしに行ってたみたい。貴様のせいで、貴様のせいで、って何度も言ってたから腹に据えかねる何かがあったらしい。


「よし、では、この街はこのまま国王陛下の直轄に置かれる。代官を派遣することになる故、仲良くやるがいい」


 テオドールはやらないんだ。あー、まあ、公爵家の領地からは遠いもんね。テオドールはそのまま使用人に命じて宴の用意をさせた。これは兵士たちだけでなく屋敷のものも参加するようにというものだ。


 シンターはかなりの量の財貨や食糧を隠していたらしく、その財貨は放出されて、みんなの食事代に化けた。勝手に処分していいのかと聞いたら、「元々は存在してなかったものだ。泡沫となって消えても問題はあるまい」などと言っていた。こういうところはテオドールだよなあ。


 どんちゃん騒ぎに領主邸の外にいる人々も興味本位で覗きに来て、そのまま騒ぎに参加していた。テオドールはなんと、私財を費やして、街のものにも振る舞うようにと命令した。お前、やっぱり領の運営には向いてないよ! ヒルダ、ヒルダ、助けてヒルダ! はーやーくーきーてー!(来ない)


 夕方になると、宿屋の四人娘……あ、いや、母親と三人娘だね。がテオドールに面会を求めてきた。私が、私が口添えをしてあげたよ。


「公爵子息殿下」

「堅苦しい挨拶はいい。テオドールと呼べ」

「私が呼び捨てにすると怒るじゃん」

「怒ってはない。諦めたのだ」


 私とテオドールの漫才みたいなのをポカーンと見てる。アンナが口を開いた。


「この度は、このアンダーゲートの街を救っていただきありがとうございました」

「いや、むしろこちらから謝らねばならん。まあもっともそれは国王陛下の仕事だが。アンダーゲートの街に負担を押し付けてしまい、申し訳なかった」


 テオドールが深々と頭を下げる。当然アンナは驚く。私も驚いた。まあ、私の場合は初めて会った時が謝れない傲岸不遜な男だでたからね。まあ教団の宝石が悪かったんだけど。


「あの、休業補償ってして貰えるんですか?」

「ウルリカ!?」

「ふむ、確か宿屋だったな。よかろう。休んでいた間の補助と賠償はシンターの個人資産から行うように国王陛下に言っておく」


 さっきは自由に使ってたくせに、なんて思ってたんだけど、どうやらちゃんと国王陛下が補償しましたよ、という方が箔が付くらしい。色々考えてるんだね。


 で、シンターの屋敷を探索したら、働き手を奴隷として輸出していたらしいというのがわかった。女子供ではなくて働き手となる男を鉱山労働者みたいな形で売り払っていたんだと。


 女子供は輸出しなかったのかというと、女子供はシンダーのお楽しみのために使われたんだとか。どこまでもクズなやつだ。


 一家がまるまる居なくなるとさすがに世帯数が減って国王陛下に報告すれば領地の没収も免れないと思ったらしく、働き手を徴収する家庭と、女子供を徴収する家庭を分けていたらしい。つくづく下衆だ。


「という事は私の夫は」

「おそらくは奴隷として輸出されたのであろう。行方はこちらでも探ってみよう」

「よろしくお願いします」


 まあこれから捜査を進めていかないといけないのでいつになるかは分からないが、いつか家族が再会出来る日が来ればいいと思う。


「ところで、テオドール様は未亡人とかはどう思いますか?」


 あの、オリビエさん? エイリークさんのお帰りを待たなくてもいいんですか?


「私にはヒルダという愛しい妻が居るからな。まあ生活に困ったら言ってくるがいい。どうせキューのやつが助けるだろうからな」

「ありがとうございます。それを聞いて安心しました」


 あー、もしかして、オリビエさんは自分がテオドールの慰みものになる事で子どもたちの生活費を確保しようとしたのかな? 確かにテオドールは貴族だから逆らえないもんね。オリビエさん、確かに美人だし。もしかしたらシンターからもそうやって誘いをかけられて逃げていたのかもしれない。いや、兵士たち差し向けて来てる時点でそうだったんだろう。アンナさんが働きに出たから免れてただけで。

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