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女霊(episode111)

ちょっと琴線……じゃない、逆鱗に触れられた感じです。

 で、今私は先程のバトルよりも遥かに緊張を強いられている。まるで雁字搦めになったかのように身動きが取れない。それでも無理やり身体を動かして何とか目の前のタスクをこなす。


「結構なお手前で」

「まあ面白い表現ね」


 ラティーファ様が微笑む。他のお二人も微笑んでいる。胃が痛い。ボディブローの様に下腹部にガンガン来てる感じだ。


 何が起こってるかって? お茶会だよ、お茶会。優雅さを見るんだと。私はバトル担当だからいらないんじゃないかって言ったんだけど、お茶会はエントリーに必要な必須項目って言われたから仕込まれているところだ。


 もちろん、私だって貴族の娘の端くれ。お茶会の経験くらいは……くらいは……くらい……ごめんなさい。ありません。私にはお茶会に誘ってくれるお友達なんて居なかったし、他家のお茶会に出しても貰えなかったよ。なんかタワーみたいなのがテーブルの上に聳えてるよ。あれかな、挑みしモノに容赦はするなってやつか?


「遠慮しなくていいのよ?」

「あ、はい、それじゃあ……」


 そう言って私は一番上に載せてあったデザートに手を伸ばした。うん、甘い。ケーキだけど、甘さがとても際立つ。お茶を飲むと甘さが和らぐがお茶にも砂糖が入ってるので甘みは口から消えない。


 ふと見ると塔の真ん中には肉料理らしきものがある。ちょうどいいからこれを食べて口の中をリセットしよう。そう思って手を伸ばすと、その手をラティーファ様に叩かれた。


「ティア? 何故下から取らないのですか?」

「えっ!?」


 どうやらこの塔……ティースタンドというらしいのだが、下から料理を取っていく形式なんだとか。元々この国の風習では無いのだけど、本場でアフタヌーンティーを学んだという何代前かの奥さんが取り入れたんだと。ややこしいなあ、もう。


 こんな感じで、食べ物に留まらず、姿勢、席順、会話の内容、トイレに行きたくなった時の中座の仕方、使用人に対する心配り、など隅々まで叩き込まれた。一日仕事でお茶をたっぷり飲まされたからお腹がたぽたぽいってる気がする。


 やっと解放されたのは夕食の時間。私はもうお茶とお茶菓子でおなかいっぱいだったから夕食は遠慮することにした。ごめんなさい、もう入りません。


 裏庭で剣を振っているとすっと影が見えた気がした。私は慌ててそっちを見る。刃が飛んできたので思わず弾き返す。危なかった。


「あれに反応するとは思ってなかったわ」


 そう言った人影は静かに佇んでいる。月の光に照らされてとても綺麗に輝いているように見えた。


「ど、どちら様でしょうか」

「私は、ジョキャニーヤとでも名乗っておきましょうか」


 なんか言い難い名前ですこと。


「私はティア」

「そう、いい名前ね。よろしくね」

「あなたはどんな立場の人?」

「あら、もう分かってるんじゃないの? あなたの相手は私なのだから」


 楽しそうに言う。恐らく妻大戦ザウジャハーブの相手なのだろう。武の担当、ということか。


「あなたがいなければ私は暗殺要員として待機させられていたはずだから表舞台に出れて嬉しいわ」


 恍惚とした表情を浮かべながらとんでもないことを言い切った。暗殺要員として? それはファハドさんを殺すつもりだったということだろうか。まあ憶測でしかないので確証はないんだけど。


「せいぜい楽しませて欲しいわ。先程の反応なら、もう少し早くしても退屈はしなさそうだから嬉しい」


 くすくすくす、と笑って彼女は消えていった。いや、普通に歩いて去っていったんだけど、去り行くまで緊張が解けなかった。


 去った後に自分の毛穴という毛穴から汗が噴き出る感覚があった。服がびしょ濡れだ。なんだ、今のは。この世界に来てから明らかにヤバいと思われる存在と会ったのかもしれない。


 正直な話、フィアーベアと複数体対峙した方がまだマシだと思える。というかあれは本当に人間なのだろうか?


 もう一度、自分を鍛え直さなくてはいけないかもしれない。魔法があれば大丈夫なんて言ってる場合じゃないかもしれない。というかスタートから魔法で身体強化を使って五分だろう。他の魔法も解禁しなければ。魔法を駆使しなければ負ける。


 ……汗をかいてしまったのでお風呂に入り直そう。身体がベトベトするのは嫌だもの。このまま寝たくない。ゆっくりと湯船に浸かってリラックスしたい。


「あら、また会ったわね」


 そう思ってお風呂場に行ったら再会してしまった。


「ジョキャニーヤさん……」

「あら言い難いのに覚えてくれたのね。まあお風呂では曲刀シミターもないし、斬れないから心配しないで」


 確かに先程までの油断したら両断されそうな雰囲気はない。お言葉に甘えてゆっくりさせてもらおう。


「あなた、さっきも思ったけど余分な脂肪がついてるのね」

「あ、はい。まあ成長期に伸びたので」


 胸を成長させる為の魔道具とかも使ったのだがその辺は貴族の嗜みというやつだ。大きいおっぱいは一朝一夕には出来ないのだから。


「ふぅん、私はね、そういうの育たないように育ったの。あると色々、邪魔だから」


 邪魔、というのはまあこの世界ならではなのかもしれない。というか凪沙は大きかったけど、戦わないもんなとか思ってはいた。


「私の育ったところは弱いやつから死んでいったからね。だから、今生き残ってるのは曲刀とこの身体のお陰」


 そう言って誇らしげに手を見つめる。よく見るとところどころに傷がついている。それは二三日のうちについたものではなく、古傷で数年、十数年かけて刻み込まれたものだろう。


「あなたは綺麗な肌してるのね」

「ありがとうございます」

「それなのにあんなに強いなんて、きっと才能に恵まれたのね」


 はっ? 今なんと? 私が才能に恵まれた? 大した魔法の才能もなく、剣の才能も劣っていた、政略結婚のための胸の大きさしか取り柄のなかった私が才能に恵まれてる? 思わず笑ってしまった。そうか、私は才能に恵まれているように見えるのか!

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